第19話 フォーセイクンという世界
「あんの女神……碌な事しない……っ! 少し考えればわかるだろ!!」
『【えー、勇者くん推せる~自己犠牲、女神たちだーい好き!】と。余り深くは考えなかった様子で……気づいた時には呪いの風が世界を巡り、どれだけ取り除こうとしても怨嗟が呪いを巻き散らしてしまっていました』
おい女神~~!!
「じゃあれか。勇者が人族の為に魔族が発生しないように世界から魔力そのものを消そうとした結果、膨大なその他の生物が死滅し、呪いとなってしまったって事か!?」
『ご明察通りです』
「いやいやいや、あの女神はこの現状で何もしなかったのか!?」
『いえ、さすがの女神様もお気づきになられて、
「世界を救えなかったって……」
冷汗が首筋を流れる。俺は、唇を湿らせて言葉を紡いだ。
「この世界はこの後どうなるんだ……」
『すぐにではありませんが……遠い未来には滅びるでしょう』
世界が滅びる……。
「そんな……俺はまだこの世界の事をほんの少ししか知らないのに……」
『今はまだ勇者が魔王を討伐して数年しか経っていませんので、世界樹の木が残っている地もあります。人族や獣人族は魔力がない環境でも生きて行こうと色々な代替で生活していますが、元々が魔力有りきで構成された世界。歪みは徐々に蝕んでいくでしょう……』
はっと気づく。
俺がこの世界に送られた理由。
「もしかして、俺がこの世界に来たのは、女神がこの世界の崩壊を食い止めようと……?」
『……いいえ。残念ながら。創造主たる女神様でも救う事が出来なかった世界です。
そうか、俺はその為にこの世界に連れてこられたのかと思ったのに……。
ん? 何か、引っ掛かる言い方をしたぞ??
「……なぁ、チュートリアルの書、教えてくれ。俺はこの世界で果たす使命は無いと言われた。ただこの世界で生きて欲しいと。ただそれだけを望まれた。女神は最初に会った時にもう一つ言っていたな。『私も引っ越し準備進めたいし』って。女神が……創造主がいなくなった世界はどうなるんだ?」
『……創造主は作り上げた世界と一蓮托生となります。その為、創造主は世界の均衡を保とうとするでしょう』
「なら、あいつは
『……この世界の管理者権限を別の存在に移行し、新しい世界を作ると。その為にはこの世界の外から管理者を連れてこなければなりません』
女神が1000人の死者を呼び出してでも連れて来たかった理由。
その者に使命があるわけではない事。
『あなたみたいな人間に何かして欲しいとかないわよ。ただちょっと……の代わりをするだけだから』
女神がそう言った真意は……。
「まさか、『ただちょっと【神様】の代わりをするだけだから』って言ったのか……?」
『ご明察通りです。貴方様にこの世界の管理権限が移行された瞬間、この世界の名前は
俺は頭を抱えた。俺が乗っていたのは最初から沈みゆく泥船だったってわけか。
パンっと小さな破裂音の後、ひらひらと小さな紙が降ってくる。
『ごめんね』
おい女神、ごめんねじゃないんだよ……。
「神無き世界で俺はどうすればいいんだよ……」
顔を手で覆う。状況が上手く飲み込み切れない。
『……貴方様への
「チュートリアルの書……」
『これ以降は人格を排し、貴方様の知識的サポートに徹します。辞書機能を使いたい場合はここに書き込んでください。鑑定した資源や素材、製作したテラリウムについては該当ページに追加情報が載ってまいりますのでご活用ください』
チュートリアルの書に書き込まれる文字が段々と遅くなる。
『……宿命も運命も、貴方様が歩んだその先にあります。何を見て何を感じ、どう過ごすのか。貴方様の自由でございます。これからも貴方様の進まれる未来に光がありますように。私は願い続けています……』
「おい、そんな別れの言葉みたいな……っ」
ふっと書き込まれた言葉から淡い光が消えた。
ツッコミを入れ、道しるべをくれ、地図や詳細情報に嫉妬したやけに人間くさい指導書が……完全に無機質な書物となってしまった。
俺はじっと書を片手に考えた。
「チュートリアルの書、管理者権限で名称変更を要求する」
『名称変更要求承認』
【ギフト:チュートリアルの書】と浮かび上がる。
上手くいくかわからない。けれども……俺に管理者権限が移行されているのなら……。
名称部分を消していく。そして、新しく名称を付ける。
【ギフト:冒険の書】
【使用目的:所有者の手助け】
【使用期間:冒険初期、世界の真実を伝えるまで】→【使用期間:所有者の冒険が終わるまで】
使用期間も書き換える。
よし。
「冒険の書。……もうあんたは俺の旅の道連れなんだからさ。この世界で一人放り出さないでくれよ。一緒に滅びゆく世界を冒険していこうぜ」
『……ようこそ、
「よろしく、冒険の書。はは、最初に会った時みたいだな。次に俺は何をすればいい?」
『とりあえず【固有魔法:テラリウム】しか才能がないので【テラリウム】を作るのはいかがしょうか?』
「え!? いきなり俺の扱いが雑じゃない!?」
とりあえず、これからも俺を導いてくれる【冒険の書】を軽く叩いた。
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