第20話 小川のテラリウム


 この世界の真実を知ったとしても、俺にできることは限られている。

 いつこの世界が終わるのかはわからない。

 けれども、最後までこの世界を知る努力は続けよう。知って、その地に生きて来た者たちに想いを巡らそう。


 でも、本当に俺に出来る事って何も無いのかな?

  

「あ、そうだ。テラリウムの素材として採取した石や草があるよな。それって試験管から取り出した時に、自然に植えるのってどうかな?」

 採取した段階では呪いの風の影響で黒くなっていた草木たちは、一度試験管に採取すれば元の色に戻る。

 それを利用すれば、少しずつでも呪いの掛けられていない草木を移植できるのでは?


 それこそチュートリアルの書……いや、冒険の書の推奨する通りに【固有魔法:テラリウム】を使うことが何か役に立つかもしれない。

 そう思い至ると俺は温めたお湯をマグカップに入れて二階の作業部屋に行くことにした。

 

 これ食器セットにあったマグカップだけど、できれば作業中は時間を忘れて集中してしまうから、保温性がある魔法瓶みたいなやつが良いな。蓋が閉まるやつ。うっかり倒してしまっても中身が零れないように。

 今度よろず屋に行ったら探してみようかな。

 あとお茶も欲しい。珈琲とは贅沢言わない。お茶みたいなのが無いか探してみよう。

 ……欲しい物が見つかるってことはまだ絶望していないってことだ。

 ははは、第二の人生だ。後悔しないように生きてみよう。

 

 店のカウンターとキッチンの間の通路には二階へと続く階段があり、そこを上ると二階に繋がる。

 広めの寝室の反対側には書棚と作業机がある書斎があった。

 作業机には照明も付けられるようになっていて、そこをかちりとスイッチを押すと手元が明るく照らされた。

 この光量なら陽が沈んだ夜でも十分作業ができる。


 採取した素材入れの中から木とラベルが書かれた試験管を取り出す。

 これ、鑑定スキルが上がれば名称もわかるのかな。

 どんな木かはわからないけれど、とりあえずピンセットで中身を取り出す。

 中から出て来たのはミニチュアサイズの木でしっかりと葉が生い茂っていた。

「これ、普通に地面に刺したら大きくならないかな……」

『※注意※この素材はテラリウムに適応したものなので、テラリウム以外に移植することはできません』

 冒険の書が指摘する。

「あっそうなの!? そっか~残念。これを直接移植することは出来ないのか」

 がくりとする。

 世の中そんなには上手くいかないのな。


 気を取り直してテラリウムの製作に進むか。

 えーと、この前作ったのが【森のテラリウム】だよな。なら次は素材がわりと集まっている小川のテラリウムでも作ってみようかな。


「イメージ的には薄暗くない祈りの森の小川ってイメージだよな」

 ケーシャ石を採取した小川をよーく思い出す。

 テラリウムの中に小川を再現するので、石を数種類重ねる事にした。

 川で採取した石や砂などの素材を素材入れから何本も取り出す。

 そしてマジックバックから箱庭の球体を取り出し、つるりとなぞった。

 まず川で拾った細かな石や砂利を引いていく。そうして、川底がある程度出来上がったら、少し大きめの石を川の流れにそって置いていく。

 何段か段差を作って、徐々に水が流れていくイメージが良いよな。

 必要なところは岩を重ねたり、段差を作っていく。

 川の上層部分には何か下層と違う素材を使いたいな……なんか川底に沈めるとキラキラする素材がないかな……と考えていたところ、ケーシャ石を思い出した。

 そうだ。この川にはケーシャ石があったし、それも置いてみよう……思った所でふと思い出す。


 失敗した箱庭の球体。

 あれも砕いたら砂みたいに細かくなったし、あれを敷いてもいいんじゃないのかな。


 このテラリウムは生物が育てられない。

 生物空間ビオトープみたいにできたら一番良いけれど、生物が採取できないしな。

 綺麗さを重視しても良いだろう。

 失敗した箱庭の球体の廃材入れから砂状の欠片を取り出した。

 ライトに照らすと、キラキラと反射していてとても綺麗だった。

 これをさらさらと川の上層に入れる。

 

 そうして、川とそれ以外がくっきりとわかるようになった段階で、土を川以外に敷いていく。

 川に水を流し込んだ時に水が他に漏れないように川を仕切る大きな岩はしっかりと外側を土で埋めて穴が開かないように注意していく。

 川に水を流して水漏れが無いかどうかを探したいけれど、どの水が良いだろうか。

 んー清水で良いか。

 水袋を取り出し、清水をゆっくりと川下に流す。するとじわりと川の外の土に染み込む部分があったので、そこを小石や外側から補強していく。

 川上から同じように流して調整していく。

 何度か調節したおかげで、もう水が川の外に流れている部分はなさそうだ。

 せっかくなので、素材の中から苔などを適度にピンセットで取り出して大きな岩にくっつけていく。

 ちょっと幻想的な感じになってきた。

 川の外は森に近い感じに草を生やして取り出した木などを移植していく。

 

 よし、良い感じじゃないのか?


 イメージした通りの川が出来た。

 いや、もっと良いかも。川上は箱庭の球体の廃材を使った為にキラキラと光っていてとても幻想的だ。

 

「なんか周りの木々も良さそうだし、さらさらさらって小川の音が聞こえそうだ」

 最後に完成したテラリウムを鑑定すると、【小川のテラリウム:普通】表示された。

 レベルは上がらなかったが、上手い具合に作る事が出来て良かった。


 んーっと背伸びをして素材の入った試験管を片付ける。

 1、2時間ぐらい集中していたかな?


 寝るには程良い時間だろう。

 今日は町に行ったり呪いの風を含めてこの世界の事を知ったり……色々とあったな。

 

 おやすみなさい。良い夢を。


 

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