第13話 寂れたギルドボードの依頼


「さすがに食べ過ぎたかな……」

 名物料理のボルボルをお代わりして籠に入っていたパンも食べきった。

 しかしこのパンも料理も本当に美味しかった。これはリピーターになる。

 いや、肉と魚のランチもすごく気になるんだよな。マスターの料理、絶対に外れが無さそう。

 隠れ家に帰ってからの食事として冒険者ギルドの簡易食事キットも買ってあるけど、絶対にマスターの料理の方が美味しそう……。

 なんて唸りながらカウンターの方に食器を返していると、酒場のカウンターにパンがみちりと詰まった袋が何個か置いてあった。


「前日に余ったパンはこうして一袋銅貨1枚で売っているんですけど、買います?」

「買います!」

 シシリーさんの言葉に即決してしまう。

「味は選べずランダムで5~6個入っているので袋の内容を見て決めてくださいね」

 無駄を出さない仕様が本当に上手い……。

 しかし名物料理、お持ち帰りしたかったなぁ。

 味が美味しかったのは勿論だけど、素材に興味があった。

 サラダに使われていた麻痺の実も、もしかしたら素材として試験管に採取できるんじゃないかな、なんて……。

 まぁ、また来た時に考えるか。

 銅貨1枚を渡してパンの袋を受け取る。


 えーと、ここを出る前に仕入れておかないといけない物は暦表カレンダーと近隣地図、後それから……どうやって資金を稼ぐかの方法かな。

 初期軍資金として持たされている石も無限ではないだろうから継続的に金銭を稼ぐ方法がないと心もとない。

 ふと、寂れたギルドボードに紙が貼りっぱなしになっていたのを思い出す。

 冒険者ってぐらいだから、依頼を受けて討伐や納品をするって感じなのかもしれない。

 素材採取系プロキュアメントなんて職業があるくらいだ。

 ギルドボードの依頼の中にはそれに関連する仕事もあるんじゃないかと確認することにした。


 ギルドボードに残っていた依頼書には依頼内容と難易度、依頼期間などが記されていた。

「えーと、イノリシシの討伐及び素材調達、難易度星1、推奨ギルドレベル2~、必須部位もも肉。全身納品だと報酬割高に。時期は土龍月の第一週火日って、いつから数えてなんだ……?」

 これは討伐依頼だと思うけど、他にも祈りの森の民との交流、推奨ギルドレベル5から、推奨スキル:交信とか、祈りの森のダンジョンの採取調査とか色んな依頼がギルドボードに貼られたままになっている。

 

 あ、この薬草とかの類が俺が出来そうな素材調達系かなと思ったけれども。

「いや、祈りの森が黒い森になったままでは採取できないのでは……?」

「兄ちゃん、そこに貼ってある依頼はどれも達成できないものばかりだから見ても意味がないよ」

 近くでランチを食べていたおじさんが声を掛けてくれた。


「これ、なんで貼ったままなんです?」

「マスターが何もないのは寂しいだろうってさ」

「依頼がないと困るな……冒険者として……?」

 ちょっと語尾が自信がない感じに言ってしまった。

「仕事無くて困っているんだったら俺たちみたいに牧場で家畜を育てるか? なんて聞いちまいそうだが兄ちゃんひょろっちくて体力無さそうだもんなぁ」

「は、はは……町中に人を見かけないと思ったんですけど、近くの牧場で働いているんですか?」

「まーそうだな。昔はここも錬金術師がいっぱいいて工房で回復薬なんかも作っていたんだが、今じゃ祈りの森で薬草が取れないから皆仕事が出来なくなってな。若い奴らは町を出て別の土地に移るやつらもいたけど、じいさんや昔から住んでいる奴らの中にはここを離れたくない奴らもいてな。昔みたいな魔牛や虹鶏なんかの家畜は育てられないが、魔力が無い土地でも育てられる家畜を仕入れて育てているのさ」

「魔牛や虹鶏……」

 聞きなじみのない名前が出て来たぞ……。

「美味いんだがなぁ、あれらが育てられるのは呪いの風の影響が薄い地域だけだな。なんにせよ、生きるなら食べなきゃならない。住む以上仕事もしないといけないからな」

「なるほど……」

 週に一度の商人ギルドからの物資だけでこの町の人間を一週間食つなぐことができるのかと思っていたけれど、そういう事か。

 働ける人たちは牧場にいたりするのか。


「……こういった植物とかに興味があるんですけど、この依頼書に描かれている植物とか、何かわかる資料はないですか?」

 もしかしたらと思うことがある。

 素材として試験管に納めたものはテラリウムに移植する時には本来の姿に戻る。黒い状態でなくなるなら、もしかしたら、今までに鑑定と採取した素材の中に薬草とかが含まれているかもしれない。

 今は鑑定レベルが低すぎて見分けがつかない。けれども資料があれば見分けることができるかもしれない。

 なんて思いながらおじさんに聞いてみた。

 

「それこそベクターに聞け。素材や薬草にもあいつが一番詳しいからな。昔は初心者冒険者の為のテキストなんかも作っていたそうだから、もしかしたらまだ資料を持っているかもしれん」

 詳しく教えてくれたおじさんに礼を言うと素材屋のカウンターに向かう。


「あのベクターさん、あそこのギルドボードに採取依頼が貼ってあるんですけど、ああいった祈りの森特有の植物とかの詳細って何かありますか? 植物図鑑みたいなのとか?」

「ほうほう、なるほど。すでに失われた素材ではありますが昔初心者講習で配っていた冊子があります。少しお待ちいただけますか」

 そう言うとベクターさんは後ろの棚をごそごそし始めた。

「あったあった。こちらが祈りの森に出てくる魔物や動物、植物や危険な毒草などをまとめた書類ですね」

 薄い冊子には模写らしき絵も書かれていた。

 それに薬草や毒草には見分け方のコツも。葉の大きさとか、茎の色とかも書かれているのはすごく有難い。

「もし近隣で何か採取したらここに持ってきてください。ギルドボードに貼られていない素材でも鑑定と売買はしますので」

「助かります」

 

 俺はこうして祈りの森の詳細情報を仕入れる事が出来た。

 

 

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