第14話 よろず屋
冒険者ギルドで入手した物を手に取る。
教えてもらった暦通りに光神月と第二週の光日に木の板をずらした。毎朝木の板をずらせば日付間隔も間違える事は無い、はず。
近隣の地図はこの町を中心としたもので、祈りの森の中のダンジョンの位置や山、小川の位置なんかも書かれていた。
暦表は毎年繰り返して使えるもので銀貨2枚、地図は冒険者特価で銀貨1枚だった。
正直チュートリアルの書で調べたい事は幾つかあるけれど、昼時で食事を取りに人が酒場の方に集まって来た。
シシリーさんたちも忙しそうなので、軽く手を振ってギルドを出る事にした。
地図には町の施設の名前も書かれていたが、ほとんどが黒字で×が書かれている。十五カ所ぐらい店が潰れているんじゃないだろうか。
よろず屋はギルドのある通りから一本中に入り込んだ場所にあった。
【よろず屋】
看板には蔦が這っている。第一印象は崩れそう。
よくわからない色んなものが積み上げられていて、ここに入るのか……? と勇気がいった。
「ごめんください……」
なんて店内に入ると右側には布地をロール状にしたものが山と積まれていて、左側には鉄製のフライパンみたいなものや鍋などが積まれていた。
「おや、外からの客だなんて珍しいね」
店の奥に山と積まれた座布団みたいなクッションの上にちんまりとした老婆が座っていた。
うまくバランスを取っているのかぐらつきもせず、煙管みたいなのを吸っている。
「よろず屋さんだと聞いてきたんですが……ここって何がありますか?」
「さてねぇ。今あるものだけはあるさね」
あ、これいわゆる『そこに無いなら無いですね』ってやつか。なるほど。
ってこれ……。
「あの、商品に値札も説明も書かれていないんですけど!?」
野ざらしの商品だけが山と並んでいる。
老婆はにまっと笑って煙管から煙を吐き出す。
「そこにあるものなら売ってやると言っているんだい。中には魔道具も含まれている。精々目利きを生かして頑張るんだねぇ」
「【鑑定】スキル、使ってもいいってことですか……?」
「いいねぇ構わないよ。ただしベクターのレベルだと出禁だからね。あんたは幾つぐらいだい」
「レベル2です……」
「あっはは! まだまだひよっこだね。思う存分見ていくといいよ」
笑われた!! いやだって鑑定スキルいくら使っても全然レベル上がらないんだよ!!
ぐぬぬっと思いながらも【鑑定領域】を使う。店内に【???】が数えきれないほど出てくる。
少し欲しいなと思ったのは食器類。ハウスキットには大鍋やヤカンは付属部品があってセットしたけれど、食器類は一切なかった。
他にも魔道具みたいなのがあれば良いなと思うけれど、贅沢はするまい。
目ざせ、なんだか鑑定団! 頑張れ! 俺の鑑定眼!
【木皿:レア度1:追加情報>スキル:神秘の胃袋の所有者なら食べられる】
【木皿:レア度1:以下略】
【木皿:レア度2:以下略】
【木皿:レア度1:以下略】
【鉄皿:レア度1:以下略】
ですよね!! 知ってた!! くそ、いちいち俺なら食べられるって情報はいらないんだよな!!
こうなればと片っ端からやってやる!
頭がぐらぐらするほどとにかく【???】を鑑定していく。
すると食器コーナーの奥で変な物を見つけた。
【食器セット:レア度8:追加情報>スキル:神秘の胃袋の所有者なら食べられる】
見た目は古びたケースだ。鍵もなく、開かない。
けれども、レア度8って掘り出し物では?
「婆ちゃん。これ気になるんだけど中みてもいいの?」
「……ほう、目は悪く無いねぇ。真価を知る者じゃないと開けられないよ。名前を当てられたら銀貨1枚で売ってもいいぞ」
「銀貨1枚!? ちょっとだけ待ってて……」
ぐぬぬ……レア度が高いし、気になる。
ここで鑑定レベルが上がれば、ワンチャンあるか!?
頭痛に耐えて鑑定を進める。これだけ、これだけやればレベルもあが……。
あがらない、だと!?
少なく見積もっても3、40は鑑定したぞ!!
かくなる上は……。
「チュートリアルの書さん、どうかどうかお助けください」
小声でぼそぼそと願う。皆大好きチュートリアルの書さん……女神よりも信頼している君よ頼む。
『「食のマリアージュかよ」は少々古いですね。今なら食のカンブリア紀大爆発や! でしょうか』
は!? 何の話!!?
――このパンにめちゃくちゃ合うじゃん……。食のマリアージュかよ。
――いや、もう少しよさげなことを言いたいから誰か気の効いた言い方教えて。
いや今?? このタイミングじゃないだろ!?
そちらじゃなくて、この食器セットのこと知っていたら教えて……。
『宮廷魔導士ロードスター作の【望める者の食器:四季の森シリーズ】です。100年前に限定100セットが販売された魔道具です』
100年前!? そんなにも古い食器セットなのか……。
「ええと、宮廷魔導士ロードスター作の望める者の食器:四季の森シリーズ……ですか……」
「おや、そこまで変わるのかね。伝説の宮廷魔導士ロードスターの作品ということまではわかっておったが、シリーズまではわからんかったわい」
心底驚いている老婆の言葉に、俺は良心が痛んだ。
「う……ごめん……なさい。実はカンニングを……この本で少し調べて……」
チュートリアルの書をそっと持ち上げる。
「なんだい、図鑑や手記でもそうだが、有益な情報源を持っている事も冒険者の能力だぞ? 使いこなす事が出来なければ宝の持ち腐れだしのう。その本に書かれていたとしても、それを使ったあんた手柄だ。よし、その食器セットを売ってやろう」
「有益な情報源を持っていることも一つの強みになるのか……あの、この食器セットの鍵は……?」
「無いわい」
「無いの!?」
老婆がにんまりと笑う。
「望める者として認められたら開くんじゃないのかのう。盗賊のジョブ持ちに鍵開けを頼んだこともあったが、とうとう開けられることもできなかったからな。ほほほ。あんたが選ばれたら鍵も開くじゃろうて」
あ、これ……そもそも『高級だが鍵が開かなかった食器セット』だから捨て値で売っているんじゃ……。
俺はガクリと肩を落とした。
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