第27話 ギルドへの納品


 【ギルド兼酒場】は相変わらず人がいなかった。

「あ、タカヒロさん、こんにちは! もうそろそろいらっしゃるかなって思っていたんです」

 色々なところの受付のシシリーさんが笑顔で迎えてくれた。


「こんにちは、シシリーさん。あの、さっき『噂の旅人』って言われたんですけど、俺なんて噂をされているんです?」

「金払いの良い、じゃなかった。とっても良い風をもたらしてくれる旅人さんですって紹介させてもらいました!」

 シシリーさん、滅茶苦茶金蔓扱いじゃないですか。


「はは、良い風。だといいんですけど」

「私の目利きに間違いはないですよ! 商人ギルドの方は午後からいらっしゃるので、ちょっと早めですけど食事取りますか?」

「えっと、滞在許可証を受け取ったら少しご相談したい事があるんですけど、えーと買取はベクターさんを待った方が良いかな」

「まもなく出勤されると思うので、少し中で待っていてもらっても良いですか?」

 滞在許可証を受け取ると、少しギルドボードの前で待たせてもらうことにした。


 寂れたギルドボードに貼られた依頼の薬草関係を見る。

【癒しの薬草調達依頼、難易度星0、推奨ギルドレベル1~、必須部位:葉と花、全身だと割増報酬在 5本で銅貨5枚】

【回復の薬草調達依頼、難易度星0、推奨ギルドレベル1~、必須部位:葉と茎、全身だと割増報酬在 5本で銅貨6枚】

【寒冷草調達依頼、難易度星1、推奨ギルドレベル2~、必須部位:根、全身だと割増報酬在 1本で銅貨2枚】

【ボルボルの実調達依頼、難易度星0、推奨ギルドレベル1~、必須部位:実、傷のない実だと割増報酬在 5個で銅貨3枚】

  

 薬草の調達依頼系は難易度が星0から始まっているのか。討伐系に比べたらハードルが低くて良いな。難易度は低めなんだな。

 全身……根から花の先までってことかな。それが揃っていると割増報酬とかも発生するのか。

 寒冷草1本で銅貨2枚!? 他の納品が5本セットに比べても、1本単位で買い取ってもらえるし、報酬も高めだ。

 今回この四種類を20本ずつ持ってきたから、全部納品すれば結構な金額を稼ぐことができるかもしれない。

 それを軍資金に午後に来る商人から色んなものが買えると嬉しいな。


「タカヒロさーん、ベクターさん来ましたよ~」

「あ、今行きます!」


 ベクターさんは今日もにこにこと白い鑑定用手袋をきゅっと装着して待ち構えていた。

「こんにちは、タカヒロさん。今日はどういった品を持ち込んでくださるんです?」

「えーと、鑑定というか、納品というか……その……」

 上手く交渉できるかな。

 ……不審がられないように上手く話さないといけないんだけど、腹芸には長けていない。


「あの、ちょっとご相談がありまして……以前冒険者にとって素材調達先は重要な情報なので秘密にされることが多いって言ってましたよね。それを頼みに納品させて頂いても良いですか?」

「つまり、どこで調達したかは秘匿させて欲しいという事ですね? もちろんです。密猟や犯罪によって持ち込まれた物については厳しく処罰しなければなりませんが、採取場所などはお伝えいただかなくても結構ですよ」

「犯罪によって持ち込まれたかどうかの鑑定もできるんですか?」

 ベクターさんの隣に居たシシリーさんがむふんと得意げに胸を張った。

「そんな時こそ【目利き:対物】がお役に立つんですよ。物の良し悪しはベクターさんの【鑑定】ほどの精度はありませんが、それが盗品かどうかの目利きはできますもの」

 シシリーさんって意外と優秀だよなぁ。


「えーと、それでは、これをご納品させてもらいたいんですけど……」

 マジックバックからボルボルの実を一つ取り出す。

 二人の眼が驚きに見開かれる。

 ベクターさんはすっと胸元に挿してあったハンカチを取り出すと、そっとボルボルの実の上に掛ける。そして鞄にしまうように頼まれた。

「タカヒロさん、ギルドマスターを呼んできます。……いけませんね。舌の根の乾かぬうちに、どこでそれを……なんて聞いてしまいそうになりました。続きはマスターの執務室で、お取引について条件を詰めさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 ベクターさんは少し緊張した様子で尋ねてくる。手は少しだけ震えていた。

 俺は酒場の中に他に人がいないことを確認して、こくりと頷いた。

 シシリーさんが、昼食の仕込みをしているだろうギルドマスターを呼びに行く。

 

 白いワイシャツに黒いエプロンを付けたギルドマスターが酒場の方の扉から出てくる。

「え、服装普通にエプロンなんですね……」

「あ? たりめーだろ。料理舐めてんのか」

「まぁまぁ、ギルマス。お料理中邪魔したからってカリカリしないでください。仕方ないんですって。それよりも急用ですからマスター室開けてください」

 シシリーさんはそのままカウンターに残るみたいで、ベクターさんとギルマスと一緒に2階にあるギルドマスターの執務室に連れて行かれることになった。


 見送るシシリーさんも、ベクターさんも表情が硬い。ギルマスは元々顔が怖いけど。

 ギルマスに執務室への連行って……思ったよりも大事おおごとなんじゃないのか?

 

 俺は冒険の書が入っているマジックバックをきゅっと握りしめた。

 

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