第10話 素材屋


 ベクターと名乗った素材屋は細身の男性だった。

 素材屋って、魔物の解体や採取した薬草とかを取引してくれる人……なんだと思うんだけど、どちらかと言えば学者や研究者って言われた方が納得するような初老の男性だった。


「シシリーさん、この方は……」

「旅人のタカヒロさんです。冒険者ギルドの登録は素材採取系プロキュアメントですよ。タカヒロさん、ベクターさんは【鑑定】レベル8なので、ほとんどの素材を鑑定できるんです。その道のプロなので任せてくださいね!」

 この受付の女性はシシリィさんと言うのか……。

 そしてベクターさんは鑑定レベル8! スキルのレベル上限値がわからないから何とも言えないけど、俺の鑑定レベル2よりも相当わかる内容が多いんだろうな。

「いえいえ、私は裏週期の光日こうじつから雷日らいじつまでこちらに勤めておりますので、御用がある時にはお声掛けください」

 裏週期……!? 光日、雷日ってなんだ!? あとでチュートリアルの書に尋ねよう……。

 

「それで、鑑定希望の品とは何でしょうか」

 シシリーさんはにこにこと隣の素材屋カウンターにどうぞと言ってくれたので素材屋のカウンター前に移動する。

「えっと、鉱石類なんですけど……」

「呪いの風の影響で鉱山での採掘等もままならないですからね。珍しい鉱石があれば中央の市場に卸しますので、できる限り勉強させてもらいますよ」

 勉強ってことは高く買い取ってもらえるのか。

 マジックバックの中から軍資金用の皮袋を取り出す。6種類ぐらいの小粒な鉱石や宝石が複数入っていたので、一種類づつ鑑定と試験管に採取済みだ。

 ……まぁ、鑑定レベルが低すぎて鉱石と宝石としかわからなかったけれど。

 じゃらりと中のものを取り出して、カウンターの上の黒い布が敷いてある平たいトレイの上に広げる。

 鉄っぽい色の鉱石や黄色い石。あと恐らく銀と金、乳白色の石と透明な水晶みたいな石がいくつかあった。

 

「ほう、鉄鉱石と黄鉱石、琥珀石、銀粒に金粒……珍しい。これは精霊石ですね」

「精霊石、ですか?」

 透明な水晶のような石が精霊石なのか。

「ええ、昔は召喚術師が精霊や召喚獣を呼び出す時に使っていましたが、最近では産出量が減り貴重なんですよ。ふむ、小粒ではありますが希少価値が付きますので、ここよりも大きな町で換金することをおすすめしますよ」

「えと、そんな感じで……」

「はは、では精霊石だけお返しして、鉄鉱石2石で銅貨4枚、黄鉱石1石で銅貨6枚、銀粒2粒で銀貨4枚、金粒1粒で小金貨1枚、合計で小金貨1枚と銀貨幣4枚と銅貨10枚で交換しておきますね」

 そ、相場がわからない……!!

「精霊石は私ですとこの大きさなら金貨5枚まで出せますが、おそらくもっと価値は上がっているでしょう。毎週取引している商人に別の町での相場を聞いてみましょう」

「ありがとうございます……ええと、この中から銀貨2枚をギルドの登録料に払って……あと、食料品とかを幾つか仕入れたいのですが、ここの相場がわからなくて……」

「あ、タカヒロさん。もしよければ銀貨1枚頂けたら冒険者ギルド推奨の食事セットを5日分詰めれますよ」

 ベクターさんの隣でにこにこと聞いていたシシリーさんがここぞとセールスしてくる。

「え! そんなセットあるんです?」

「はい、乾燥パン3食、干し肉2食、簡易スープ2食、甘味菓子1つを1日分としたセットですね。冒険者支援も兼ねているので値段は一日分銅貨2枚と抑えてあるんです。ダンジョン探索や長期の旅用に買われていますね。あ、水袋も別にお付けする事もできますよ」

 価格相場がわからない!! けれども、ものすごく安いということだけはわかる……。

「ええと、水袋は大丈夫なので、とりあえずそのセット、5食分ください……?」

「よろこんで! いやー在庫抱えていたので助かります~」

 シシリーさんは後ろの箱から小さな包みを5つ取り出してカウンターにのせる。

「あはは、どうも……」

 銀貨1枚をトレイに置くと小さな包みを鞄にしまう。


「タカヒロさんって不思議な方ですね……。普通旅の方ってもっと癖があるというか、個性的な方が多いんですが……なんというか……地味というか……」

「うっ」

 シシリーさんの言葉はわりと致命傷を負わせてくる。

「ほほっ。シシリーさん。この方のような冒険者は貴重ですよ。タカヒロさんのお出しした鉱石はどれも混じりが少なく品質が良いものばかりでした。冒険者にとって、素材調達先は秘匿される方が多いので詳しくはお聞きしませんが、きっと良い鉱山を知っているのでしょう。もししばらくこの町に滞在されるのでしたら、2日後の氷日ひょうじつに商人ギルドから仕入れがありますので、覗いてみてはいかがでしょうか。もしかしたらタカヒロさんが望むものもあるかもしれません。この町で店はこの【ギルド兼酒場】か【よろず屋】しかありませんので」

 ほんとうに廃れているんだな……。

「あ、でも宿屋の主人もずっと前に廃業しちゃって……町に滞在するなら誰かに頼まないと……ベクターさん一人ぐらい泊めてもらえないかしら」

「まぁやぶさかでもありませんな。私のコレクションをお見せすることにしましょうか」

「この近くに野営しているので、大丈夫です! 2日後にまた来ます!」

「あらそう?」

 とりあえずなにも知らない状態だといつボロが出るかわからない。とりあず今日は食事をしてから町の【よろず屋】に行ってみよう。

「あと、酒場って食事をとりたいんですけど、注文受け付けてくれますか……」

 シシリーさんはにこっと笑うとカウンターの中を移動して、酒場のカウンターに立つ。

「いらっしゃいませ、祈りの森亭へようこそ! 祈りの森亭ランチがおすすめですよ。ランチプレート一つ銅貨3枚になります~」


 酒場の受け付けもシシリーさんだった。

 そして、ランチが冒険者ギルドの食事セット一日分より高い!


 相場が本当にわからない!!

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