第50話 公爵様のご子息

 レイラ嬢が入学して三日が過ぎたんだけど、レイラ嬢はクラスの子たちと仲良くなったらしいんだ。

 全員が女の子なのは僕の所為かな?


「でね、クウラ様。男爵家の方なんですけどマリア様ってとっても博識なんですの。何でも色んな知らないことを子供の頃から知りたくてたまらなくって、お父様にお願いして王立図書館に毎日通ってらしたそうですの」


 特に今話が出てるマリア嬢と仲良くなったのがよく分かるよ。二日目にマリア様とお友達になりましたのって言ってたからね。で、三日目にしてマリア嬢と家の話や、学園に入る前の話をしてるなんてレイラ嬢とかなり話が合うんだろうね。


「そうなんだね、レイラ嬢。良かったよ、レイラ嬢にも同い年の友達が出来て。僕も嬉しいよ」


 僕がニコニコとそう言うとレイラ嬢もニコニコと笑いながら、今度は僕について聞いてきたんだ。


「クウラ様は学年が上がられて新しいクラス編成になりましたけど、どうですか新しいお友達はお出来になりましたか?」


 うーん、残念ながらレミー嬢とアーミア嬢しかまだ親しく話してないんだよね。

 何故かこの二人が休み時間ごとに僕の側にきて他の子たちが遠慮して近寄って来ないんだ。

 レミー嬢が言うには僕とレイラ嬢の為だっていうんだけどね。どういう事なんだろうね?


「僕はまだ一年生の時に仲良くなった人としかじっくりと話は出来てないなぁ」


 僕がそう言うとレイラ嬢が励ますように言ってくれたよ。


「まあ、そうなんですのね。でもクウラ様ならきっと良いお友だちがお出来になりますわ」


 うん、そうだねと僕も返事をしたんだ。


 そして翌日、今日はみんなも一緒に学舎まで連なって歩いて向かっていたら、校門前にとても立派な馬車がとまっていて、中から一人の少年が降りてきたんだ。


「あの方はワタクシの同級生となられたサイラン公爵様のご子息で、ハーメル様ですわ」


 レイラ嬢がそう教えてくれたけど、僕たちには関係ないから会釈だけして素通りしようとしたんだ。

 けれどもハーメルくんが僕たちを見てから声をかけてきたんだ。


「ちょっと待って頂けますか、そこの淑女レディたち」


 どうやら用事があるのはレイラ嬢にレミー嬢にアーミア嬢にティリアさんみたいだね。


 僕たちがその場で足を止めると、スッスッと素早く寄ってきて先ずはレイラ嬢の手を取り、


「美しい淑女レディ! 放課後に我が家に来て頂き僕のもてなしを受けて頂けますか?」


 って言ってからレイラ嬢の返事も聞かずにレミー嬢の元に行き、


「貴女のように気品ある美しい淑女レディには初めて会ったよ、是非コチラの淑女レディと一緒に来て欲しい!」


 そしてまたもや返事も聞かずにアーミア嬢の元へ、


貴女あなたは何てチャーミングなんだ! 貴女も是非とも来て欲しい!」


 最後にティリアさんの元に行き、


「君の瞳の輝きには夜空に輝く星さえ敵わない! 君も是非来てくれるかい?」


 と、またたく間に女性四人を誘ったのには僕たち男性陣はポカーンとして見てるしかなかったんだ。

 けれどもレイラ嬢がハッキリとお断りの言葉を口に出してくれたよ。


「申し訳ございませんけど、ワタクシたちは皆が婚約者がおりますので、殿方のお誘いにはのれませんわ」


 正確にはレミー嬢とティリアさんには婚約者は居ないけれども、こう言っておけばいい口実になるからね。さすがはレイラ嬢だよ。でも……


「おお! 何とつれないことを! 淑女レディ、婚約という事はまだ誓いを立ててないという事だろう? それならば僕の誘いを受けても大丈夫だよ!」


 いや、婚約者が居るのに他の男性の誘いにホイホイ乗るようじゃ貴族社会だとアウトだよ、ハーメルくん。そこで僕がハッキリと言うことにしたんだ。


「ハーメルくん、こちらの女性たちは先ほどもレイラ嬢が言ったけれども婚約者が居るんだよ。婚約者が居る女性が他の男性からの誘いに乗るなんて事は貴族社会ではダメな行為と見なされてしまうからね。だから君からの誘いには乗れないよ」


 僕がそう言ってしゃしゃり出ると初めて目に入ったかのように僕を見たハーメルくん。


「ん? 君は誰だい? 偉大なるサイラン公爵家の至宝と言われる僕に気軽に話しかけてきたりして? おい、執事、この者を処罰しろ!」


 そう言って後ろにひっそりと立っている男性に言ったけれども、執事であろう男性は「はあ〜……」とため息を吐いてからハーメルくんにこう言ったんだ。


「坊ちゃま、旦那様から言われていますよね? あたり構わずに女性を口説くなと。それにこうも旦那様から言われましたよね? 口説く女性を己の力でモノにしようというならば他人を頼るなと! 真横で私も聞いておりましたので、私が坊ちゃまの今のご命令を遂行する事はございませんよ。皆様、うちのバカぼんが申し訳ございません。どうぞ無視して学舎にお入り下さいませ」


 良かったよ、執事さんはまともな人で。


 僕たちは執事さんに言われたとおりにハーメルくんを無視して学舎へと向かったんだ。その後ろから、

「お前はクビだーっ!」

「私をお雇いなのは旦那様ですので、坊ちゃまからのクビ宣言は何の意味もございません」


 そんな会話が聞こえてきたけど、それも無視して僕たちは歩き続けたんだ。レイラ嬢を教室まで送る途中で、このあとは大丈夫かな? って聞いてみたら


「ハーメル様とはクラスが違いますので大丈夫ですわ、クウラ様」


 ってレイラ嬢が言うから僕は心配だったけど自分の教室に向かったんだ。

 けれどもその事を僕は後悔したよ。何とハーメルくんは二日後にレイラ嬢をさらってしまったからね。


 それを僕に知らせてくれたのはレイラ嬢から友だちになったって聞いたマリア嬢だったよ。


「クウラ様、クウラ・ローカス様は居られますか!? レイラさんが大変なんです!!」


 その声と共に僕の教室まで走ってきてくれたマリア嬢。


「わ、わたくしはレイラさんの友人のマリアと申します。実はサイラン公爵家のハーメル様が、取巻きの方二名と一緒にレイラさんを強引にご自分のお屋敷に連れて行ってしまったのです! わたくしも一緒に連れて行かれそうになったのですが、レイラさんが機転を利かせて逃してくださって…… レイラさんからクウラ様がご婚約者で一学年上のクラスにおられると聞いておりましたので、直ぐに駆けつけたのです」


 僕は普段からあまり怒るほうではないけど今回ばかりは怒っても良いよね?


「教えてくれて有難う、マリア嬢。レミー嬢、ティリアさんと一緒にマリア嬢を寮まで送って上げてね。僕はちょっと出かけてくるよ」


 僕から出てる負のオーラにレミー嬢もティリアさんも何も言わずに頷いてくれたよ。


 僕は先ずは王宮へと向かったんだ。第二王子殿下は卒業されたからね。でも卒業後は王太子殿下の補佐が出来るように修練を積む為に王宮内の魔法騎士団に所属されてるんだ。

 いつでも訪ねてきてくれって言われてたから僕は先ずは第二王子殿下の元へと向かったよ。


 第二王子殿下には直ぐに出会えて、事情を説明したら、


「分かったよ、僕の方から宰相と父上、兄上に伝えておこう。サイラン公爵もちょうど執務に来ておられる筈だから、ついでに知らせておくよ。クウラくん、ハーメルを懲らしめてやってくれ」


 そう仰って下さったから、そこから僕は走り出して、ユルナに言った。


「ユルナ、場所は分かる?」


 僕の影からユルナの返事が聞こえる。


「はい、クウラ様。しかし、何故レイラ様はペンダントで箱庭へと戻られないのでしょうか?」


「きっとレイラ嬢は他の女性がこれ以上、ハーメルに煩わされる事が無いようにと考えているんだと思うよ」


 僕の返事にユルナから、


「なるほど…… クウラ様があのバカぼんを半殺しにして、懲らしめる事によって後顧の憂いを断つのですね」


 っていう返事が…… いや、怒ってはいるけれども半殺しまではするつもりは無いよ…… 

 多分だけどね……


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スキルにランクがある世界で、僕のスキルのランクは☓(バツ)でした!? しょうわな人 @Chou03

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画