第27話 稽古の前に遭難です……
翌朝、僕たちは別れて行動を開始する。レイラ嬢とレミー嬢はティリアさんと一緒にメイリアさんとの稽古に。僕とロートくんはジンさんとライさんと一緒に道場の裏山に入る。
サーフくんはちょっと一足先に領地に戻って、四日後にまたここに帰ってきますって言って出かけていったよ。何か用事を思い出したのかな?
そして、今僕たちは遭難してます……
「あれ? 確かコッチだった筈なんだけどなぁ……?」
ジンさんの五度目のその呟きを聞いたとき、ライさんが突っ込んだ。
「あのなぁ、ジン。もう五回目だぞ、その言葉。本当にこっちなのか?」
「いや、ライ、間違いないって! こっちから爺さんの匂いがするから!」
「匂いって、お前はいつから犬種になったんだ? すまないな、クウラくん、ロートくん。こいつがここまであてにならないとは俺も知らなかったんだ」
ジンさんもライさんも二人きりだと呼び捨てで呼び合ってるんだね。
「いえ、低い山とはいえこうして道なき道を歩くのもいい稽古になると思ってます」
「ハア、ハア、ぼ、僕もそう思ってます……」
ロートくんはちょっと疲れてしまってるね。そんな様子を見ていたライさんだけど、ロートくんに話しかけたんだ。
「ロートくん、あと十分ほど歩けば開けた場所に出ると思うから、そこでいったん休憩をとろう」
「ぼ、僕ならまだ、大丈夫です!」
ロートくんは自分が足手まといになってると思ってるんだね。でも、ライさんの考えは多分ちがうよ。
「いや、違うんだロートくん。ジンがあてにならないから、開けた場所に出たら俺の身付スキルで先代のザン様を探そうかと思ってるんだ。それには少し立ち止まって貰わないと発動できないからね」
そのライさんの言葉にロートくんは恥ずかしそうに顔を赤くして
「あ、そ、そうなんですね。ごめんなさい」
と謝ったんだけどライさんは
「ロートくんは何も悪くないさ。悪いのはアイツだっ!!」
とジンさんを指差して叫んでたよ。
それから歩くこと十分、ホントにライさんが言ったように少し開けた場所に出たんだ。
「よーし、ここで少し休憩をしててくれ。俺の身付スキルで先代のザン様の場所を探してみるよ。ちょっと時間がかかるかも知れないけど、十五分〜二十分ぐらいで分かると思う」
「そんな便利なスキルを持ってたんなら早く使えよなー、ライ」
いや、ジンさん貴方が出発する時に道は知ってるから任せろって言ってましたよね?
「お前が任せろって言ったのを信用したんだろうがっ!? とにかく黙ってろ、ジン」
僕は二人から少し離れた場所に座り込んでるロートくんの所に行き、この世界の瓶に詰め替えた地球産のスポーツドリンクを手渡したよ。
「喉が乾いたでしょ、ロートくん。コレはポーションじゃないけど喉の乾きを潤してくれるから一緒に飲もうよ」
二本のうち一本を手に取ったロートくんは有難うございますって言って蓋をあけて一気に飲み干したよ。すると、
「うわっ!! 凄いです、クウラ様。ハイポーションですか? 疲れが一気に無くなりました!!」
あれ? そんな効果はスポーツドリンクにはない筈だけど…… 僕も飲んでみたら、確かに僅かに感じていた疲れが無くなったよ。
どうやら地球産のスポーツドリンクは異世界では喉を潤すだけじゃなくて疲れも癒やす効果があるみたいだね。新発見だよ。
「お、クウラくん、それいいな。俺たちの分もある?」
ってジンさんが言うから僕はジンさんとライさんにも手渡したよ。
「クワーッ、効くなぁ!!」
「味も美味しいし、凄いな!」
瓶を回収しながら二人の言葉にニコニコになっちゃったよ。
ライさんがスキルを発動し始めたから、僕は辺りを警戒しながらもロートくんの横に座ったんだ。すると、ロートくんが思い詰めたように話しかけてきたんだ。
「あ、あの、クウラ様!!」
「ん? 何、ロートくん?」
「クウラ様は成人なされたらティリアさんを第二夫人にお迎えされるのですか?」
僕はその質問に思わずブッと吹いちゃったよ。
「ゲホッ、ゴホッ、な、何を言ってるのロートくん。僕はレイラ嬢以外の女性と結婚するつもりはないよ」
僕の返事にロートくんはホッとした顔をして、そして
「そ、それなら僕がティリアさんに告白しても大丈夫ですよね?」
って言い出したんだ。えーっ! そうだったの? ロートくんはティリアさんが好きなんだね。でも、良いの? ロートくんの後ろに仁王立ちしてる
ジンさんはロートくんの後頭部をガシッて掴んで言う。
「真後ろにいる俺の怒気も感じられずに簡単に頭を掴まれるロートではうちのティリアには相応しくないな!」
まあ…… 物理的な強さで言うなら確かにそうなるんだろうけど……
「ジンさん、離して上げてもらえますか? それに、今回の稽古でロートくんも強くなるでしょうし。まあ、ティリアさんには及ばないでしょうが…… でも、これから言うのは僕の私見なんですけど、強さって物理的な強さだけじゃないと思うんです。その部分を今回の稽古でロートくんは見せてくれると思いますよ」
僕がそう言うと渋々ながらもロートくんの頭から手を離してジンさんが言う。
「クウラくんが言うから離してやったけど、生半な気持ちだとティリアは振り向いたりしないぞ、それに、俺も許さないし両親も許さないと思うぞ」
それだけ言って離れて行くジンさん。
涙目になりながらもロートくんは宣言したよ。
「生半な気持ちじゃありません! 僕は絶対にティリアさんを守れるような男になってみせます!!」
うん、頑張れ、ロートくん。
それからライさんがスキルを止めた。そして、ジンさんに向かって言う。
「ジ〜ン〜、お前、全然違う方向に俺たちを誘導してきてるじゃないかっ!! 先代のザン様は真反対に居られるぞ!!」
「えっ! 嘘ーっ!?」
という事は低いとはいえ一山は超えてきたから…… うん、頑張ろう。
「かなり休めましたし、早速出発しましょう! 言い合っていてもたどり着きませんし」
僕の言葉に年長者二人は言い合いを止めて、ライさんを先頭にロートくん、僕と続いて
で、途中何度かスポドリを出して飲みながら、遂に僕たちは先代のザンさんの住む小屋にたどり着いたんだよ。
朝早くに出たのに着いたのは真っ暗になる直前だったね……
「おーい、よう来たな。狭いが寒さはしのげるし、腹も空いておるだろう、早く入ってこい」
小屋の中からそんな声が聞こえてきて、ジンさんが真っ先に中に入ったんだけど、
「爺さん、元気、ッイテッ!!」
「フォッフォッフォッ、隙ありじゃ、ジン」
どうやら不意打ちをされたみたいだね。ライさんは落ち着いて中に入って、
「ご無沙汰しております、ジライ様。ジンの所為でこんな時間になってしまいました。今回は少年を二人一緒に連れてきております。我らと一緒に鍛えてやってもらえますか?」
「ライは相変わらず真面目じゃのう。下の道場ではノホホーンとしておるのに、ワシの前でもあれぐらいで良いんじゃぞ。おお、それで二人来ておるのだな。さあさあ、早くお入り」
言われて僕とロートくんは小屋の中に入ったんだ。そこには、ザンさんを渋くしたいぶし銀という言葉が似合う、お爺さんというにはまだ若いぐらいの年齢の人が座って待っていたよ。
で、その人がいきなり闘気を僕とロートくんに向けて来たんだ。
クッ、物凄い闘気だよ。ロートくんは大丈夫かな?
「ホホウ! 二人とも耐えよったか。良い良い、明日から鍛えてやるからの。今日はもう十分に山歩きで鍛えられたじゃろうよ。飯を食って寝るのじゃ」
どうやら僕もロートくんも合格を貰えたみたいだ。僕たちはお言葉に甘えてご飯を食べてから寝させて貰ったよ。
さすがに僕も疲れてたからね。
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