第48話 アキラの思惑

 

 俺の名前はアキラ・ローカス。現在は王立職能学園の一年だが、学園卒業と同時にローカス侯爵家当主となる事が決まっている。

 そんな俺には出来の悪い弟がいる。いや、以前は兄だったのだが、馬鹿な父が事実を捻じ曲げて弟としたのだ。産まれた年は同じだが、産まれた月は弟の方が早いのにも関わらずだ。


 弟の名はクウラという。神授の儀式で奴が得たスキルは最低のランクバツというクズスキルだった。

 俺は元から奴が嫌いだったからここぞとばかりに弟を貶めてやったのだが、馬鹿父は学園卒業までは面倒を見ると宣言しやがったので、仕方なく俺も了承してやった。

 まあ俺が当主になったら馬鹿父も早々に表舞台からは姿を消して貰う予定だ。

 馬鹿父は自分が侯爵家当主となったと勘違いしてるようなのでな。実際には当主代理なのにだ。アチコチの侯爵家より格の低い貴族たちにいい顔をしまくっているが、あんな雑魚どもは俺が当主となったら直ぐに出入り禁止としてやる。


 そんな事を考えながらも今日も俺は訓練をしていた。それは何故か? 奴に負けたからだ。この俺がだ! スキルランクSの【剣神】を授かった俺が奴に負けた。それにより俺の怠惰な生活は終わりを告げた。

 馬鹿父の人脈を使ってこの国の一番の剣の遣い手というコーライ・スペリオル伯爵を俺の指導につける事になった。聖騎士団の団長を務めるこの男は俺に対しても容赦なかった。


「脇の締めが甘い! 隙だらけですぞ、アキラ殿!!」


 そう言ってスペリオル伯爵に叩きのめされる日々。しかし、俺は歯を食いしばりその特訓に耐えた。夏季休暇が終われば俺はクウラの奴と再戦しなくてはならない。その為には授かった【剣神】を完璧に使えるようにならなければと考えたからだ。


 こうしてスペリオル伯爵の時間の許す限りの個別指導に加えて、俺は夏季休暇中に聖騎士団の訓練にも参加をし、遂にはスペリオル伯爵をも上回る剣の腕を身に着けた。

 更には他のスキルにも磨きをかけていた俺は、スキルランクAの【弱点看破】とスキルランクSSの【知識神の導き】により死角は無くなった。


 フフフ、今からアイツの悔しそうな顔が目に浮かぶな。俺は早速だがクウラの奴と夏季休暇が終わり次第に対戦する為に学園長の元に向かったのだが、第三王子クソバカが先に手を打ってやがったのだ。クソッ、俺の邪魔をしやがって。権力だけはあるからと派閥に入ったが、俺の邪魔をするならば入っている価値はない。

 なので俺は手紙を出して派閥を抜ける事を宣言した。

 第三王子クソバカは俺がスペリオル伯爵よりも強くなってる事を知っていたので報復などはしてこなかった。

 

 フンッ、取り敢えずはクウラの奴の手の内をさらけ出して貰おうか。


 俺は第三王子クソバカの陣営とクウラの邪魔をの対戦を観覧席より見学していた。


「ほう、複数人のデバフ魔法をものともせずに勝つか…… レミー・グラシアも中々の腕のようだな……」


 俺がそう呟くとグレータがその横で、


「確かに、夏季休暇前よりも強くなってるようですが、あれならば私でも勝てますよ」


 と言う。そう言えばグレータも俺と同じく聖騎士団の訓練にも参加してたからな。

 スキル【剣鬼】にもかなり慣れてきていたようだしな。だが、今のグレータではレミー・グラシアには勝てまい。俺は直ぐにグレータにそう教えてやった。


「残念だがグレータよ。俺の見立てではお前ではレミー・グラシアには勝てん。サーフ・ビレインには勝てるだろうがな」


「なっ!? 私が負けるですと? それはアキラ様のお言葉でも納得がいきません!!」


 俺の言葉に意見できるのはコイツぐらいだ。だが、それで良い。俺が欲しいのはイエスマンではなく参謀だからな。


「フフフ、納得出来ぬか? ならば普通の授業内容に戻った時にレミー・グラシアと模擬戦をしてみるが良い。恐らくは二分も持たんぞ」


「グッ、分かりました、アキラ様がそう言うのならば。だが、納得はしておりませぬ、模擬戦でアキラ様が間違っていたと証明してみせましょう!」


 そう意気込むグレータにまあ頑張るが良いと伝え、レミー・グラシアが負けたのを見ていた。


「ほう、あのテレンスとやら、どうやらヨウ一族の者のようだな…… これは見ものだ」


 スキルランクSの【拳神】を持つ者にも勝てると言われるヨウ一族の拳法を俺は初めて見たのだが確かに強い。


「クウラの奴めが出てきたか…… どう対処するのか見ものだな……」


 俺はクウラが剣を手にすると思っていたのだが、奴は拳法で対戦するようだと知り、吐き捨てた。


「馬鹿な弟だ。ヨウ一族に対して素人の拳法が通用する筈がっ!? 何っ!?」


 俺は目の前で見た光景が信じられなかった。たった一つの突きでテレンスが倒れ起き上がれなかったからだ。


「馬鹿な! ヨウ一族を一撃だとっ!!」


 俺の驚愕を見ていたグレータが俺に聞いてきた。


「対戦者のテレンスとやらが未熟だっただけでは無いですか?」


「それは無いな、グレータ。レミー・グラシアを破ったテレンスは一流の遣い手だ……」


 俺の言葉にならば次を見て判断しましょうと言ってきた。


「クウラの奴の次の対戦相手はナンレイ嬢です。北辰流槍術の正統後継者で、まだ守護の術しか使えないそうですが、その護りは鉄壁だと聞いております。クウラがナンレイ嬢の鉄壁を崩せたならば本物だと分かるでしょう」


 俺はグレータの言葉に頷き、ナンレイ・ホクシンとの対戦を見守った。


「どうやらクウラの奴の力は本物のようですね……」


「フフフ、面白い。グレータよ、俺はすぐには奴との対戦をせぬ事にした。学園卒業のタイミングまで対戦を引き伸ばす。卒業前日に全校生徒の前でクウラを完膚無きまでに叩き潰すことにしたぞ……」


「畏まりました、アキラ様。我らもその時までに今まで以上の稽古をして更に力をつける事に致します。あ、ですがレミーとの模擬戦は行いますよ」


「それは構わん。力を測るのにもちょうどよかろうからな。クッフッフッ、待っておれ馬鹿な弟よ。俺は更に己の力に磨きをかけて貴様を叩き潰すからな……」 


 こうして俺の計画は卒業までの間に更に力をつけてクウラを叩き潰すという事に変更したのだった……

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