第20話 悪魔に会いました
ナッカンさんや第三王子殿下のその後について語ってなかったね。ナッカンさんは学園を退学となり、また宰相閣下からは僕あてに謝罪の手紙が届いたんだ。その内容は…… 今はまだ言えないんだけどね。レイラ嬢とセバス、ユルナとは共有しておいたよ。
第三王子殿下については陛下からお叱りがあり、二週間の停学と、夏季休暇までの奉仕活動を義務付けられたそうだけど、やってたのはお付の貴族たちだったよ…… 陛下もご自分の息子にはやっぱり甘いのかな?
僕たちは楽しく馬車旅を続けていた。
王都からティリアさんの実家のあるデッケン子爵領までは馬車だと凡そ三日〜四日かかる距離なんだ。そこからビレイン男爵領へは馬車で二時間ぐらいだとサーフくんが教えてくれたよ。
更にはハイヒット侯爵領はビレイン男爵領から馬車で三時間、ハイヒット侯爵領からレミー嬢の家があるグラシア伯爵領へは馬車で一時間ぐらいなんだって。
デッケン子爵は中立派でどこの派閥にも入ってない変わり者と貴族社会では言われてるそうだよ。
それでも領民にとってはいい領主らしくて税も取りすぎず、魔物の脅威からもしっかりと領兵を組織して守っているそうなんだ。僕はもしかしたらそんなデッケン子爵に会えるかなとも期待をして、ティリアさんの実家に向かっていたんだよ。
レイラ嬢がそんな僕を見て言ったんだ。
「クウラ様、もしもお時間があればハイヒット侯爵領にも行ってみられますか?」
そう聞かれた僕は少し考えてレイラ嬢に返答したよ。
「そうだね、レイラ嬢。伯父上の代からの家臣たちにも会ってみたいし、母上がお願いしている家臣たちにも会ってみたいから、時間が取れれば一緒に行ってみよう」
ってね。それを聞いていたレミー嬢が、
「それでしたら、
そう言ってくれたから僕たち二人は甘える事にしたんだ。
そうこうしている内にいよいよ明日の午前中にはデッケン子爵領の領都に着くだろうという手前の街で問題が起こったんだよ。
魔物の群れが街を目掛けて進軍してきてるそうで、暗くなって来てるのに街は光で照らされていたんだ。何で目立つように光で照らしてるんだろうと思ったら、どうやら神聖結界の光のようで魔物がやって来ても街に入れないし、弱い魔物だと近づく事も出来なくなるからなんだって。
こうして結界で街を守っている間に領都から領兵がやって来るのを待つんだって。
「ですのでお嬢様方もご安心して下さいね」
と言うのが宿の女将さんの言葉だったよ。僕は馬車の護衛の一人に声をかけて結界の端、街の門まで着いてきてと頼んで迫りくる魔物たちを見る事にしたんだけど、何故かみんながゾロゾロと着いてきちゃったんだ。あまり大勢だと街の防衛をしている人たちの迷惑になるかなと思ったけどね。
門の防壁の上に貴族特権で上がらせて貰うと、神聖結界の光に照らされて魔物たちの姿が見えた。
どうやらあれ以上近づけないみたいだね。
「どうですか? 子爵様が考えて作られた神聖結界の威力は? 魔物たちを寄せ付けてないでしょう!」
「凄いですね。この結界はデッケン子爵領だけにあるんですか?」
僕がそう聞くと、ダーン男爵が教えてくれたよ。
「いいえ、ちゃんと他の領主様に販売しておりますよ。最も購入して下さったのは、お隣のビレイン男爵と更にその隣のハイヒット侯爵領、更にその隣のグラシア伯爵様の三家だけですが。それでもビレイン男爵領では三ヶ所分、ハイヒット侯爵領では五ヶ所分、グラシア伯爵領も同じく五ヶ所分を購入して下さったそうです。領民を大切に思っている領主様たちです」
僕たちはそれを聞いて安心したんだ。そんな話をしていたら魔物たちの中から三体の魔物が前に出てきたんだ。
「ムッ!? この結界を前にして街に近づいて来るとは…… これは危険だな。皆様はどうか宿にお戻り下さい。私たちは今から迎撃態勢を整えますので」
そう言われたので僕たちは素直に宿に戻る事にしたんだけど、既に遅かったみたいだ。
三体の魔物からそれぞれ魔法のような攻撃が飛んできて、門の前の結界を一部分壊されてしまったんだ。それでもその三体以外はまだ近づいて来れないみたいなんだけど、その三体は壊れた部分を目掛けて走り出したんだ。
僕は咄嗟にみんなに箱庭に行くように告げた。みんなが箱庭に入ったのを確認して、僕も箱庭に入ろうと思ったんだけど、迎撃しようとした街長の組織する兵たちが魔物に倒されるのが目に見えたから、慌てて魔物たちの前に立ち塞がったんだよ。
「ナッ! お、お逃げ下さい! クウラ様!」
まだ意識のある街長がそう言うけれど僕は安心させるようにニコッと笑顔で言っておいた。
「大丈夫だよ。それよりもあまり動かずにその場にジッとしててね。それ以上怪我が酷くならないように」
三体の魔物は立ち塞がった僕を見て、何と言葉を喋り始めたよ。
「グフフフ、まさかこんな子供が我らに立ち向かうとはな」
「ゲゲゲゲ、面白いな。依頼には入ってないがこの子供を血祭りにしてやろう」
「グハハハ、ワシにヤらせろ!」
どうやら誰かに依頼されたそうだけど、魔物に依頼って出来るんだね? いったい誰がこんな事を依頼したんだろう。僕は分からない事は素直に聞くのが一番だから聞いてみたよ。
「あなた達にこの街を襲うように依頼したのは誰なんですか?」
僕の質問に魔物は大笑いしだす。
「グワーッハッハッー、この子供、思ったよりも肝が座っておるわい!」
「ゲーゲッゲッゲッー、教えて欲しいなら我らのうち誰かを倒してみよ」
「グハハハーッ、ワシか? ワシが相手で良いだろう?」
どうやら一体を倒したら教えてくれるみたいだね。だからさっきからワシワシ言ってる魔物を相手にする事にしたよ。
「それじゃ、あなたにします。この人を倒せばさっきの質問の答えを教えて下さいね」
僕がそう言うとピタリと笑うのを止めた魔物三体は、
「どうやら舐められておるようだぞ、グルガ」
「ウム、そのようだなゼルガ」
「我ら悪魔三体に舐めた態度だな、小僧」
魔物だと思ってたら悪魔だったんだね。僕はアイテムボックスから金剛樹の棍を取り出して構えた。そして、油断なくスキル【クウカン】を発動したんだ。
忘れてる人も居るかも知れないから説明しておくね。スキル【クウカン】は空間を支配するスキルだよ。僕は自分の周りの空間を支配して、相手の出方を待った。
「グフ、ワシで良いな? グルガ、ゼルガ」
「良かろう、この小僧に恐ろしさを教えてやれ、ダルガ」
その言葉と同時にダルガという悪魔が僕の背後に立ち、そして僕の頭を掴もうとしたけれども……
「何っ!? ど、どうなっておる?」
その手はゼルガの頭を掴んでいたよ。僕は僕の周りの空間を支配して、ゼルガの周りの空間と入れ替えているから、ダルガは僕を掴まえようとしたらゼルガを掴まえたって訳。
僕は動揺しているダルガの左足の甲に正確に棍を突き出したんだ。
「グワッ!! こっ、小僧!! 何故貴様に分かる!! ワシの心臓がココにある…… と……」
その言葉を最後にダルガの身体はサラサラと砂のようになり崩れさったんだ。
僕の脳内では
「さあ、約束どおり倒したよ。依頼主を教えてくれるかな?」
ゼルガとグルガは信じられない物を見たっていう顔をしていたけど、僕の言葉にハッとした顔をして
「小僧、貴様は何者だっ!?」
「我らは悪魔! 少なくとも人に敗れる存在では無いぞ!!」
なんて質問に答えてくれそうにないんだ。まあ、実は既にスキルランクX【鑑定】で依頼主は分かってるんだけど、悪魔の口から言って欲しいよね。ダーン男爵にも聞いて貰わないとね。
「いいから質問に答えてよ」
僕がそう言うとグルガが口を開いた。
「良かろう…… 依頼主はな王国の公爵であるハルマス・カレディアよ。デッケン子爵領を潰せという依頼が我ら悪魔にもたらされたのだ!」
でも僕はその答えに否と言ったんだ。
「さすが悪魔だね。嘘は良くないよ」
「嘘など言ってはおらぬぞ、小僧」
しらばっくれる悪魔に僕は更に言ったんだ。
「そう、ならあなたは要らないや。嘘を言う悪魔は必要ないよ」
そう言ってから僕はグルガの心臓を棍で潰したんだ。
「ガハッ! な、なに! いつの間に……」
その言葉を最後にグルガもサラサラと崩れていったんだ。それを見たゼルガは逃げようとしたけれども、
「無駄だよ。あなたはココから逃げられないよ」
その僕の言葉にギョッとした顔をしてるよ。
「さあ、依頼主を教えてくれるよね?」
僕の言葉にゼルガの答えは……
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