第19話 ナッカンさんの自滅劇場

 僕とナッカンさんは学園の闘技場の中央で睨み合っている。既に神の誓約書にもお互いにサインをして、第三王子殿下も自分が命令を出したという誓約書にサインをした。


 そして、ナッカンさんはレイピアを左手に持ち、バックラーを右腕に装着しているんだ。今は自慢げに装備について説明をしてくれてるよ。


「フフフ、見ろランク☓。このレイピアは我が家に伝わる宝剣でな! 父上に内緒で我が手にしているのだ! このレイピアに突かれた者はその穴が塞がる事なく血を垂れ流して死に至るのだ! そしてこのバックラーは細工職人の親方ローバックの手による細工が施されているのだ! どうだ! 貴様に分かるか? この美しさが!!」


 いや、まあ…… 宝剣はともかくとして防具に細工を施して美しく見せるのってどうなんだろうね? それってもう防具じゃなくて美術品だと僕は思うんだけども。

 それに宝剣っていうけど効果を聞くと妖剣もしくは呪剣みたいに思っちゃうよ。もしかしてホントにそっち系かも知れないけど、鑑定してみようかな?



【鑑定結果】

相死そうしのレイピア

 攻撃力を使い手の筋肉を引き裂きながら限界以上に上げて、確実に敵を屠るが使い手は五回も振れば腕が壊れて治らなくなる呪剣



 うん、呪いの剣だったよ…… 五回振ったら腕が壊れるらしいけどそんなのを宝剣と信じてるナッカンさんは大丈夫なのかな?

 まあ、僕には関係ない話だよね。 


 前世でもそうだったんだけど、僕は仲良くしてくれる人の事は気にかけるけれども、僕に対して攻撃的な人には関心が無いんだ。冷たい奴って言われてもこれは持って生まれた性格なんだからしょうがないよね。


 そして、僕の手にしている武器を見て吹き出すナッカンさん。


「ブフッ!? まさか、貴様、その木の棒で相手をするつもりか? 我が宝剣の切れ味を知らないのだからしょうがないか……」


 木の棒でっていうけど、箱庭産の一番硬い木、金剛樹の枝で作ったこんだから、その辺の下手な武器よりも強力だよ。まあそれもワザワザ言うつもりは無いんだけどね。


 ロール先生が僕たち二人を見て準備は良いか? と聞くので僕たち二人は頷いた。


「それでは、始め!!」


 ロール先生の合図と共に飛び出してくるナッカンさん。その速度はさすがに早いけれども、攻撃が単調すぎますよ。上から振りかぶって振り下ろすレイピアを僕は難なく棍で弾いた。


「ほう? 自慢の振り下ろしを弾くとは…… どうやらそれなりに実力はあるようだな? だがコレは決闘! 剣だけじゃないぞ!!」


 そう言ってナッカンさんは僕の目の前で詠唱を始める。


「深淵の中に潜む紅きほむらよ、来たりて…… って、待て待て! 卑怯な! まだ詠唱途中だぞっ!! ッイテ!!」


 僕は詠唱が終わるのを悠長に待ったりせずに、棍でナッカンさんの頭をコツンと叩いた。今回は決闘なので与えたダメージはそのままその身に反映されるんだ。

 ナッカンさんは頭を抱えてのたうち回ってるよ。


「どうした? ナッカン、降参か?」


 ロール先生の言葉に半泣きになりながら立ち上がるナッカンさん。


「うっ、ぐすっ! だ、誰が降参なんかするかっ!! 食らえ! ランク☓!!」


 そして魔法を諦めたナッカンさんはレイピアを僕に対して振ってくる。

 えーっと、先に一回振ってるから、これで、二回、三回、四回、あ、五回目も振っちゃったよ!


 その瞬間にナッカンさんの腕があらぬ方向にグギリという音と共に曲がり……


「ギャワーッ!! う、腕がーっ!! 貴様、何をしたーっ!!」


 いえ、僕は何もしてないです。あなたの自滅ですよ、ナッカンさん。 

 僕は静かに開始線まで下がって待つ。


「そこまで! 決闘の勝者はクウラ!! それによりナッカンは学園を退学処分となる事が決定したっ!!」


 ロール先生の声が辺りに響いた時に、第三王子殿下は汚物を見るような目でナッカンさんを見た後に闘技場を後にした。アキラは僕を睨みつけた後に、その第三王子殿下に着いて出ていったよ。


 で、ギャーギャーと喚いてるナッカンさんに近づく人が一人……


「ナッカン、このバカ弟が!! 呪いの剣を勝手に持ち出し、あまつさえ我が家で禁じられている決闘を行うなど…… 父上が知ればお前は追放になるのは確実だっ! あれほど第三王子殿下とは離れ、我が目で何事も確かめよと助言してやったというのに…… これでお前との兄弟の縁も無くなった。さあ、無様に喚くのを止めて着いてこい! 父上の元に行くぞ!」


 とナッカンさんに言ったその人は今度は僕の方を見て謝ってきた。


「クウラ・ローカスくん、僕はこのナッカンの上の兄で、学園の四年生のハリルと言います。弟が大変失礼したね。だが、その弟も今、現在進行系で罰を受け、更にはこれから我が父により更なる罰を受ける…… 僕の謝罪とその事だけでは納得いかないかも知れないが、どうか手打ちしてもらえないだろうか?」


 ああ、この人が宰相閣下の二番目のご子息のハリルさんなんだね。理路整然と喋られ、今さっき弟との縁を切ったというのに、僕に対しては弟の罪を許してくれと頼むなんて…… 心根は優しい人なんだろうね。

 まあ、僕としては自滅したナッカンさんを見た瞬間にナッカンさんに興味が無くなったから許すも許さないもないから、頷いてハリルさんの提案を了承したんだ。


「そうか、受けてくれるんだね。有難う。後ほど父からも謝罪があると思う。どうか、よろしく頼むね」


 そう言うとハリルさんはナッカンさんを気絶させて担いで闘技場を後にしたんだ。まあ、まだ喚いていたから気絶させたんだろうけど、サッカーボールを蹴るみたいに弟の頭を蹴ってたよ……

 心根は優しい人って言った前言を撤回しようかな?


 それからの学園は表面上は穏やかに過ぎていたんだけど、アキラのぽっちゃり体型が少しずつ痩せてきて、すっかり、スッキリ体型になった時に学園は夏季休暇に入ったんだ。


 さあ、今は嫌な事は取り敢えず忘れて、ティリアさんのご実家にレイラ嬢と一緒に向かう事を楽しもう!!


 って思ってたら、レミー嬢、サーフくん、ロートくんも方角が同じだからとレミー嬢の用意してくれた馬車で一緒に移動する事になりました……


 レイラ嬢とのふたり旅のつもりだったけど、これはこれでレイラ嬢が喜んでいるからいいかと思い直したんだ。


 あ、ティリアさんは一足先に自分の実家に向けて旅立っているよ。コレも訓練だと言って走ってね…… うん、体力だけならティリアさんには敵わないと思い知ったよ。



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