第46話 第三王子いえ、只の平民です

「それではこれよりウルム対クウラの模擬戦を始める…… 始めるぞ、ウルムよ。何処に行こうとしてるのだ?」


 ロール先生が僕たちに背を向けて歩き出した第三王子にそう聞くと返ってきた答えは、


「フンッ、俺様自身が戦うなどという野蛮な事が出来るかっ! 俺様は王族だぞ! だから俺様陣営に入る奴を連れて来るのだ!!」


 って宣言したんだけど…… えっとそれって大丈夫なのかな? そう思ってた時に観覧席から飛び出して第三王子の目の前に立つ人がいた。


「ウルムよ、情けない…… 王族ならばなおさら兵士たちの前に立ち、前線にて士気を上げねばならない。そんな事も分からないのか?」


 第二王子殿下だったよ。兄からの言葉に第三王子は言い返す。


「兄上、何を馬鹿な事を仰っているのです。王族あっての兵士でしょう。前線などに立って万が一があれば兵士たちが浮足立つ事になり結局は争いに負けてしまいます!」


 どうだとばかりに言い返したけど、第二王子殿下が冷静にそして冷たくその意見に反論したよ。 


「馬鹿はお前だ、ウルム。その万が一が起こらないように日々鍛えておけと父上からも言われていた筈だ。いついかなる困難をも乗り越える力を付けよと言われ畏まりましたと返事をしたのを忘れたというのか?」


 第二王子殿下の目が細く鋭くなって第三王子を見ているよ。殺気に近い闘気まで出てる。


「あ、兄上…… いや、その、私は争い事が苦手ですので、人を傷つけたりするのは……」


「お前は十分に下級生であるクウラ・ローカス殿やその友人たちを傷つけただろう? そのようないい加減な言い訳は私には通じないぞ。さあ、戻ってクウラ殿と模擬戦を行え!」


 兄からの一喝で第三王子は渋々といった様子で戻ってきたよ。そして開口一番に、


「良いか、俺様は王族だ! その玉体を傷つけたならどうなるか分かってるんだろうな?」


 何て僕に言ってきたよ。


「馬鹿もん! お前が模擬戦を申し込んでおいてその言い草は何だ? クウラ、構わんから徹底的にしごいてやれ!」


 いや、ロール先生は審判なんですから中立でお願いしますよ。


「ふっ、不正だ!! こいつ、審判を抱き込んでやがるぞ!! この勝負は無効だっ!!」


 ほら、こんな事を言い出しちゃったじゃないですか…… 僕がそう思って困っていたら、


「ならば私が審判を務めよう」


 って言ってその場に現れたのは何と王太子殿下だった…… アレ? 今日って王家の参観日な何かですか?


「あ、あ、兄上? な、何故ここに?」


「【可愛い】弟が下級生を相手に華麗に勝つところを見に来たのだが、どうやら不正があるようだと【可愛い】弟が言う。ならば私が【可愛い】弟の為に審判ぐらいはやらねばなるまい。っという訳で構わないか? ロール・クルーガ子爵よ」


「ハッ、王太子殿下の仰せのままに」


 そう言って下がっていくロール先生。それを見届けた後に王太子殿下は観覧席に向かって宣言したんだ。


「先ずは審判として言おう。【可愛い】弟の為であろうが、それもまた不正である。観覧席よりデバフ魔法を仕掛けている者は今すぐ止めるように。さもないと王家に対する反逆者として一族郎党を含めて処罰する事になる…… その覚悟があるのならば止めずとも良いが……」


 流石に気づいてらっしゃったようだ。王太子殿下は我が国一番と言われる魔力操作の匠だから、凡人が魔力を抑えてデバフをかけていても直ぐに察知されていたんだと思う。

 王太子殿下の言葉を受けて僕たち陣営にかかっていたデバフ魔法はその全てが取り払われたよ。

 王太子殿下はそれを確認されてから今度は僕に向かってこう仰ってきたんだ。


「クウラ・ローカスよ、模擬戦前の神契約の変更を求めたい。ウルムとその取巻きを退学させて辺境地へと赴任させるとの事であったが、ウルムは退学後に市井へと降らせ、ゲスタムとグズリオは一ヶ月の謹慎、テレンスとナンレイ嬢についてはクウラ・ローカスの采配に任せるという形にしたい。頼めるか?」


 僕はその言葉に畏まりましたと頷いたんだ。第三王子にとっては市井に放り出される方が辛いだろうしね。


「あ、兄上、いくら兄上といえども父上の承諾もなくそのような事を決める権限はっ!?」


 第三王子が王太子殿下にそう抗議をするけれども、王太子殿下は


「何を言っておるのだ、【可愛い】弟よ。私が勝手に決めた筈がなかろう。父上と宰相の承諾は既に得ている。だからお前は安心してこの下級生であるクウラ・ローカスを叩きのめしてやるがいい。勿論だが、お前が弱ければクウラ・ローカスに叩きのめされるのだろうだがな……」


 目から怒りを迸らせながらそう仰っていたよ。うん、かなりお怒りのご様子だね。その怒気に怯えたように第三王子は分かりましたって返事をしてたよ。


「うむ、それでは神契約を結び直して模擬戦としよう…… 出来たか。それでは双方とも用意は良いな、始め」


 ロール先生と違って静かに王太子殿下が始めと仰られた。


 第三王子はすぐさま僕に向かって初級火魔法を放ってきた。


「食らえ! 俺様の必殺、火の玉ファイアボール千個!!」


 前世でのピンポン玉サイズのファイアボールが千個は言い過ぎだけど、それでも五百個はあるのが僕に向かって飛んでくる。僕はスキル【クウカン】を使用してその尽くを第三王子の背中側から第三王子自身に向けて飛ぶようにしたんだ。


 相手に向けて飛ばした自身の魔法が背中から自分に当たってくるのに第三王子はなす術無しで食らっていくよ。


「ギャッ、グハッ、な、何? なぜだ!? あ、熱い! や、止めろ! 今すぐ、やめろーっ!?」


 いえ、止めろも何も貴方が魔力を消すと止まりますけど……


 そのまま身体の背面すべてを自身のファイアボールで打たれた第三王子はプスプスと焦げながら気絶したんだ。


「それまで、勝者クウラ・ローカス。これにより我が愚弟はたった今より庶民となる。学園も退学する。愚弟により迷惑をかけられた者には謝罪しよう。どうもすまなかった。勿論だが補償も行うのでコチラで調べた者以外にも愚弟により損を被ったという者は第二王子であるナリスに言って欲しい」


 そう宣言された王太子殿下は僕にだけ聞こえる声で、


「それにしてもクウラ・ローカスよ、凄まじいスキルだな。ランク☓ではなくXだという伝説はどうやらホントの事のようだな……」


 って囁かれてからその場を去っていかれたんだ。どうやら王家には僕が秘密にしたかったスキルランクの件はバレてるみたいだね。

 まあ、それはしょうがないか。王家には伝承として伝わってるようだし。


 そうこうしていたら学園長がウルムくんを治療したみたいだ。

 ウルムくんはガバッと起き上がる。


「クソッ! このままで済むと思うなよ! クウラ・ローカス!!」


 って叫んだけど、すぐ様学園の中の治安を護る衛兵さんに囲まれて、ボコボコにされてる……

 もう学園の生徒じゃなくなったんだから、貴族である僕にそんな風に言うとこうなるよね。


「グハッ、き、貴様ら! 俺様を誰だとっ!?」


「庶民の分際で侯爵様ご子息の方に無礼な口を聞きおって! 来い! 痛めつけて放り出してくれるわっ!!」


「おっ、おぼえーてーろーっ!!」


 こうして只の平民となった第三王子は連れ去られていったんだ。

 さようなら、ウルムくん。また会う…… 事は多分ないだろうけど、お達者で…… 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る