第45話 拳法対決だ!
僕が無手で対戦開始位置まで進むとテレンスさんが話しかけてきたよ。
「クウラ・ローカス様、庶民である私に合わせて無手で対戦する必要はございません。どうか木剣をお取りになって下さい」
礼儀正しいなあ、ほんとに。どうして第三王子に従ってるのかな? 僕はそう思いながらもテレンスさんにこう答えたんだ。
「確かに僕は剣を使えるけれども、無手の技も鍛えているんだ。だからテレンスさんとは無手で勝負をしてみたいと思ってるんだよ」
「私はヨウ一族の者です。それでもですか?」
おおっと、まさかの宣言だよ。この世界で無手で世界最強と言われているヨウ一族だったなんて知らなかったな。でもだからこそ相手にとって不足無しだよね。
「勿論だよ。なおさら対戦が楽しみになったよ」
僕の返答にテレンスさんはため息を吐く。
「ハァ〜…… なるべく怪我をしないようには致しましょう……」
アレ? 手加減するって言われたのかな? 一流の武術家は例えどんなに自分より弱そうに見えても手を抜かないっていうのが常識だと思ってたけど……
「双方とも用意は良いな、では、始めっ!!」
僕の思考はともかくそれならそれで僕は全力で行くだけだよ。
僕は拳真ハニワとともに鍛えた拳法の構えをとる。って言っても自然体なんだけどね。僕の自然体を見たテレンスさんが目を見張ったよ。
「ムッ!? ま、まさか、老師以外にも居るのか…… 自分が本気を出しても大丈夫な相手が……」
そう呟いた後にテレンスさんは僕に向かって無造作に歩いて近づいて来たんだ。そう、まるで散歩でもしてるようにね。
そして、間合いに入った途端に最短の距離で近づいてくるテレンスさんの拳。その拳は正確に僕の水月を狙ってきていたんだ。
僕は慌てず騒がずその拳を半歩前に出ることによって躱す。そして、そこで僕の拳も最短距離でテレンスさんの水月に向かう。
「フッ、この間合いで拳を打っても私には通用しない」
って自信たっぷりにテレンスさんが言うけれども、僕の拳がテレンスさんの水月に吸い込まれるように入った途端にテレンスさんは、
「グハッ! ば、馬鹿な……」
って言ってその場に崩れ落ちたよ。ヨウ一族の拳法は前世でいうところの南拳。その本質は
「グッ、まさか、起き上がれない、とは……」
テレンスさんがお腹をおさえてうずくまったままなのを見てロール先生が僕の勝利宣言をしたよ。
「それまで! 勝者クウラ!!」
そのまま何とか第三王子陣営に戻ろうとするテレンスさんだったけど、第三王子であるウルムが、
「ゴミクズのカスめが! こっちに来る必要は無い!!」
何て言うから僕はテレンスさんの側に行って僕が放った勁によって得たダメージを治す為に背中の側から軽くトントンと叩きながら
「テレンスさん、後でお話がありますから取り敢えず僕たちの方の陣地に居て下さい」
って伝えたんだよ。ダメージが軽くなって歩けるようになったテレンスさんは素直に分かったって言って僕たちの陣地の方に向かってくれた。
「さて、ウルムよ、残るはお前とナンレイだけだがまだやるか?」
ロール先生が第三王子にそう問いかけると、側にいたナンレイさんが前に進み出てきた。
「愚問ですわ、ロール先生。今からこの私が四人を敗れば私どもの勝ちにございます」
そう言って静かに虚空に手を伸ばして、
「来なさい、北辰槍!!」
そう叫ぶとナンレイさんの手には神々しいまでの槍が現れていたんだ。
「クウラ・ローカス様、お相手を!」
って槍を構えたままそう言うナンレイさんに僕は頷いて、僕もアイテムボックスから僕の愛用の棍を取り出したんだ。
「まさか、北辰流槍術を相手に棍で相対なさるとでも? 私も舐められたものですね…… 手加減は致しませんわ、覚悟なさって下さいませ!!」
どうやら僕が棍を手にしたのがナンレイさんには気に入らなかったようだけど…… いや、僕の愛用の棍は無敵なんですよって心で答えながら先生の合図を静かに待った。
「用意はいいな、二人とも。それでは…… 始めっ!!」
先生がもったいぶって始めって言ったけど、僕は棍を構えて待つ。北辰流槍術って名前は聞いた事があるけど、どんな感じなのか知らないんだよね。実際に攻撃して貰わないと対処の仕方も分からないしね。
って待つこと五分…… アレ? 何で攻撃してこないんだろう?
そう思ってたらナンレイさんが僕にこう言ったんだ。
「ま、まさか、私が北辰流槍術の守護しか学んでいない事を知ってるとは思いませんでしたわ! けれどもそれもここまででしょう! このまま攻撃が来なければお互いに決着がつかず、時間だけが無為に過ぎていき引き分けとなりますわ! そうなれば偉大なる第三王子殿下が貴方の陣営の残りの面々を倒してしまわれますわ! そう、私はこうして時間が過ぎるのを待つだけで良いのですっ!!」
僕は思ったよ。あ、ナンレイさんってザンネン娘さんだったんだなって。このまま引き分けでも第三王子しか残ってない状態で僕の大切な仲間たちがやられる事はないのに。サーフくんでも第三王子には勝てるよ。
それにほら、焦った第三王子が攻撃しろナンレイって叫んでるよ。ナンレイさんには聞こえてないみたいだけどね……
「フフフ、これで私たちの陣営の勝ちは決まりましたわ!」
何て言ってるけど、僕もまあ知らない武術には興味があるし、攻撃してみよう。
そこで僕は攻撃の為に棍の構えを変えたんだ。
「ま、まさか、攻撃して来ると言うの? フッならばお見せ致しますわ、北辰流槍術の真髄を!!」
真髄も何もナンレイさんが学んで今使えるのは防御だけなんですよね? 僕は内心でそう思ったけれども口には出さずに先ずはそのまま真正面から棍をナンレイさんに突き出してみた。
「笑止!」
それをナンレイさんは笑いながら弾いたけど、アレ? コレって本気で突いたらダメなヤツだね…… 確かに反応は早いけど、その力だと僕が本気で突くと弾けませんよ。
それから僕は九割の力をセーブして一割の力でナンレイさんに攻撃を仕掛けたんだ。
その尽くを弾き、捌き、躱すナンレイさん。なるほど、北辰流槍術の防御技って優れてるなぁ。内心でそう感心してたら、調子にのったナンレイさんからこんな言葉が。
「フッ、北辰流槍術の防御技に死角無し! クウラ・ローカス様といえども手も足も出ない!! 私こそ最強よ!?」
うーん…… このままだとナンレイさんの武術修行が進まなくなりそうだね。そう思った僕は心を鬼にして、今まで一割の力で攻撃してたのを一割二分の力にして攻撃を開始したんだ。
これまでの攻撃よりも早く強くなった僕の攻撃に何とか対処してるナンレイさんだけど、段々と腕や足に負担がかかってきたようで……
「クッ、クッ、ま、まさか! そんな! 私は最強の筈!!」
って言いながらも足をもつれさせて転んでしまったんだ。すかさず僕はその頭頂目掛けて棍を振り下ろす。そこに、
「そっ、そこまでっ!? 勝者クウラ!!」
ロール先生の少し焦った掛け声と共に僕はナンレイさんの頭頂まであと一ミリっていう場所で棍をピタリと止めたんだよ。
「ヒッ、ヒィッ!!!」
ナンレイさんは怖気づいてその場で固まったまま身体だけがブルブルと震えていたから、僕はこれからのナンレイさんの為に忠告をしたんだ。
「ナンレイさん、防御技については素晴らしかったです。でも、圧倒的に力が足りてません。それは腕力もそうですし、全体的な筋力の不足、それに持久力もです。それらも同時に鍛えていかないとせっかくの技も死んでしまいます。これからも頑張って精進して下さいね」
僕の言葉にコクコクと頷いた後にナンレイさんはクルッと目を裏返して気絶してしまったよ……
そこにティリアさんがやって来て僕に言う。
「クウラくん、やり過ぎは良くないよ」
はい、ごめんなさい。僕はそう謝りながらティリアさんがナンレイさんを抱えて僕たちの陣営に連れて行くのを見ていたんだ。
そして、そういよいよ最終決戦だよ!!
さあ! 第三王子! 決着をつける時が来たよ!!
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