第44話 家政婦のムタソノ

 後からユルナに聞いた話だよ……


 時が止まったその場に動くものは居なかったけど、止まったままのグズリオの真ん前にとつぜんレイラ嬢が現れたんだって。

 それを見てユルナも僕の影からニュルンと出たらしいんだ。その場に出ると同じように時が止まった影響を受けるかも知れないって思ったらしいけど、レイラ嬢を見て慌てて飛び出したんだって。


「レイラ様、一体これは?」


「まあ、ユルナお姉様! そうですのね、影の中に居られたので影響が無かったのですね」


 レイラ嬢は何かに納得したようにそう言ったそうだよ。


「レイラ様、何をなさるおつもりですか?」


「ユルナお姉様、制裁ですわ! この方がクウラ様とワタクシの大切な友人であるサーフ様を傷つけた方。ワタクシは学園に通っておりませんので、このような方法しか取れません…… だから止めないで下さいませ」


 レイラ嬢の言葉にユルナは少し考えたそうだよ。そして、


「制裁ならばこの後レミー様が……」


 そうレイラ嬢に言ったらしい。けれども、


「はい、目に見える制裁はレミー様にお任せいたしますわ。ワタクシは目に見えない、けれどもご本人が徐々にショックを受ける制裁をさせていただきますわ。身体を傷つけただけでなく、サーフ様は心にも傷を負った筈ですもの……」


 レイラ嬢はそう言ってどうしても制裁すると言って聞かなかったそうなんだ。ユルナはまだ八歳のレイラ嬢がそんな重荷を背負う事はないと説得したそうだけど、頑なに拒まれたんだって。


 説得を諦めたユルナはせめて何をするのかをレイラ嬢に聞いたそうだよ。


「それでレイラ様、この者に目に見えない制裁という事ですが何をなさるおつもりでしょうか?」


「ユルナお姉様、【去勢魔法No.5】ですわ!!」


「あの…… レイラ様、No.5とはどのような?」


「失礼いたしましたわ、お姉様。去勢魔法のNo.5はゴニョゴニョになりますのよ!!」


「そ、そうなんですね…… (ああ、これでグズリオくんは嫡子を得られなくなるのね…… 確かにある意味では去勢に等しいわ……)」


「ユルナお姉様、クウラ様へのご報告はお姉様からお願いいたしますわ。ワタクシの口からはクウラ様にご説明するのは難しいですから」


「畏まりました、レイラ様。私からクウラ様へちゃんとご報告しておきます。それで、その魔法はいつ?」


「もう終わりましたわ。ですのでワタクシは今から消えますわ。ワタクシが消えて二秒後に時が再び動きだしますのでユルナお姉様も早く影にお戻りになって下さいませ」


 そうレイラ嬢に言われてユルナは慌てて僕の影に飛び込んだそうだよ。  


 そして再び時が動き出し…… 何事も無かったかのようにレミー嬢とグズリオさんの対戦が始まったんだ。って、時が止まってたなんてユルナ以外は知らなかったからね。


「フフフ、グラシア伯爵家の秘宝、レミー嬢と対戦出来るなんて僕は果報者だな。そうだ、こう言うのはどうだろう? 身体の何処かに武器が触れたら服を一枚ずつ脱いでいくっていうのは? ウルム様から服を切り刻めとご命令されたけれども、その服を切り刻むのも勿体無いからね、どうかな、レミー嬢。いや、怖じ気づいたならば受けなくても良いんだけどね」


 名は体を表す人のようだよ。レミー嬢は白けた顔で返事をしたよ。

 

わたくしには鍛えられてないブヨブヨの殿方の裸を見て喜ぶ趣味はございませんわ、グズリオ・デラールさん。親が同格の伯爵ですから最低限の礼節をと思っておりましたが、貴方にはそれも必要ないようですわね。そうですね…… 貴方の武器がわたくしの身体に触れる事が出来ましたなら服を脱いでもよろしくてよ。でも、わたくしの武器が身体に触れた時には脱がなくてもよろしいですわ。醜い身体なんて見たくないですから」


 ウワーッ、レミー嬢、辛辣だーっ! コレはかなり怒ってるよ。


「クッ、女の癖に偉そうに! ならばその条件でやってやる!! 覚悟しろよ!」


 その言葉が終わった途端にロール先生が始めって合図を出したんだ。先生、レミー嬢が負けるなんてちっとも思ってないですよね。


 そして、開始と共にグズリオさんの下半身の服は切り刻まれてハラリと儚く散って……


 観覧席にいる女子生徒たちからの悲鳴と、男子生徒からの失笑が響きわたったんだ。


「キャーッ、ハ、ハレンチよ!!」

「ワーハッハッハッ、俺の二歳の弟よりも可愛らしいなっ!!」


 何かは言うまい…… そして、グズリオさんは下半身を手で隠し、レミー嬢は峰打ちでその頭を叩いて気絶させたんだ。


「それまで、勝者レミー!!」


 ロール先生の勝利宣言により、第三王子がギリギリと歯ぎしりしてるよ!!


「この愚か者がーっ!! もう良い! 今までのは遊びだっ! テレンスよ、行け!!」


「ハッ、ウルム様!!」


 気絶して転がっているグズリオさんを先ほど気絶していたゲスタムさんが連れ出していった。

 うん、グズリオさん、今後の学校生活をお察しするよ。まあ、サーフくんを傷つけた報いだよね。


 けれども次のテレンスさんは要注意だね。レミー嬢と同等か、ひょっとしたらティリアさんクラスかも知れないって思うんだ。


 開始線まで来たテレンスさんはレミー嬢に挨拶をしているよ。


「レミー・グラシア様。私は庶民でございますからただのテレンスと申します。この度、故あって敵対する事になりましたが、そこに恨みなどは無いことをここに宣言いたしておきます。正々堂々と尋常に勝負いたしましょう」


「何か事情がお有りなのかしら? 後ほど教えて頂けると良いのですが…… 仰る事はわかりましたわ、いざ!!」


 ロール先生が始めと言って【め】の余韻が残っているうちにレミー嬢は敗れていたよ。


 それにはティリアさんも目を瞠ってるよ。


「それまで! 勝者テレンス!!」 


 僕は慌ててレミー嬢の元に向かい、抱っこしてみんなのもとに連れて下がったんだ。そして、


「みんな、僕が出るからね」


 って有無を言わさずに僕がテレンスさんと対戦する事にしたんだよ。僕以外だと多分、負けちゃうからね。

 でも楽しみになったなぁ。まともそうな人なのに何で第三王子に仕えてるんだろうね? 

 その辺の事情も知りたいけど、どんな修行をしたのかも知りたいよね。


 テレンスさんは無手だったから僕も無手で対戦するよ!! 拳法対決だ!!




【ユルナの報告】


 時を止めたレイラ嬢の話を聞き終えてから、グズリオさんにかけられた去勢魔法について報告を受けたんだ。


「クウラ様、グズリオくんはレイラ様の去勢魔法No.5により去勢されました。どうやらサーフ様を傷つけたのがどうしてもレイラ様は許せなかったらしく…… No.5の効果は、この先グズリオくんは男の娘を相手にしたときにしか下腹部の生殖器が大きくならないそうでございます。心の中では女性が好きなままですが、女性が相手では大きくならなくなったとの事にございます。レイラ様から、私からクウラ様にご報告をして欲しいとの事でしたのでここにご報告させて頂きます……」


 

 うん、No.5って事は他にも色々あるんだろうね…… 僕にはかけないでね、レイラ嬢……

 それにしても、時が止まっていたなんて知らなかったよ。家政婦のムタソノは規格外だね…… 






 

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