第43話 模擬戦の始まり

 翌日だよ。僕たちはまた寮から一緒に学園に向かったんだけど、既に昨日の事が大きく話題になっていたんだ。

 何人かの同級生からは頑張ってって声をかけられたんだけど、最上級生である第ニ王子殿下が途中で僕たちを待っておられてその頭を下げられたのにはビックリしたよ。


「私の弟が済まない。父上にもお話したのだが手出しするなと言われてしまってな…… 本来ならば私が諌めて何事も無いようにするべきなのだが……」


「いえ、第二王子殿下。どうか頭をお上げください。僕たちにとっても良い経験になるかと思いますので。けれども、第三王子殿下には少しばかり痛い思いをして頂く事になりますが……」


「ああ、それは構わない。幾度も言い聞かせたのだが私の言葉が届いてないようなのでな…… ただ可能であれば命までは取らないでやって欲しい。あのような馬鹿でも幼い頃には可愛い一面もあったのでな…… 虫の良い話をしているのは重々承知しているのだが」


 いくら怒ってるからって命まで取るつもりはないですよ。

 僕は心の中でそう言いながらも第二王子殿下に頷いていた。


 それから少し遅くなったから走って教室へと向かう僕たちを一人の教師が止めた。


「おい、お前たち、そっちじゃなくてコッチだ。ウルムとその取巻きが待ってる」


 その先生はさも面倒くさそうに僕たちにそう言いながらも謝ってきた。


「いや、済まん。お前たちが悪い訳じゃないのは分かっているんだがな。余計な仕事を増やされたんでついな…… まあクウラよ。あの馬鹿に少しばかりお灸をすえてやってくれ」


 その先生は二年生の統括主任をしてるそうで、名はマーラック先生というらしい。


「いえ、まあ、その…… 出来る限りはやってみます」


 という僕の言葉にマーラック先生が笑いながら言う。


「ハハハ、謙遜するなクウラ。この学園の教師の大半は夏季休暇をどう過ごしたかを見抜いているぞ。お前たちはとても有意義な夏季休暇を過ごしたのだろ? 全員が休暇前よりも強くなってる事はお見通しだぞ」


 うっ、見抜かれてるのか…… まあそれも仕方ないかもね。ここの先生たちは一流の人たちばかりだって聞いていたし。僕がそう思ってるとマーラック先生の言葉が続いた。


「レミーやティリアはもはや俺たち教師でも太刀打ち出来ないレベルだろうし、サーフやロートで俺たちと互角ぐらいか? クウラに至っては学園長でも危ういレベルだな」


 えっと…… そんなに成長してますかね? 僕自身はそこまで成長を実感してないんですけど。


「おっと、ここだ。さあ、着いてこい」


 マーラック先生が学園の競技場の一つに僕たちを導いていく。そこには、第三王子とその取巻きが中央に立って待っていたよ。

 それから何故か観覧席にはこの学園の全生徒が居るんじゃないかという人数が居たんだ。


 僕たちがマーラック先生に着いていくと第三王子の取巻きたちから野次が飛んできたよ。


「おいおい、王家の方をお待たせするなんて一体いつから侯爵は王家より偉くなったんだ?」


「ケケケ、おーいひ弱いサーフよ。みんなが俺様の命令であれほど痛めつけたのにここによく来たなぁ」

 

「レミー嬢はこの模擬戦の後で俺たちのグループに強制参加な」


「ティリアとかいう平民は奴隷として扱ってやるよ」


 言いたい放題だけどその場にアキラやグレータくんは居ない。僕が不思議そうな顔をしてると、第三王子が言う。


「フンッ、貴様の兄であるアキラは俺様の派閥から抜けるなどと言って去っていったわっ!! 全く、兄弟揃ってこの俺様を馬鹿にしやがって! お前への制裁が終わったら次はアキラの番だ!!」


 へぇー、アキラは第三王子から離れたんだね。それは少し意外だったよ。

 それにしても、取巻きからは大した強さを感じないけどホントに大丈夫なのかな?


「静まれっ!」


 っと、そこにマイクを持ったロール先生が現れたよ。


「良いか、ウルムよ。お前が授業の一貫だと言ったから学園長も許可を出されたのだ。だから全校生徒の観覧も許可が降りた。これからやるのは模擬戦だぞ。そこを間違えるなよ。観覧する生徒にも言っておく。これから始まるのは模擬戦であって殺し合いではないからな。そこを間違えるなよ」


 そこでひと息入れてロール先生が言う。


「さて、今回の模擬戦では互いに相手に対して条件を述べる事が可能だ。神誓約によって結ぶから反故にはできなくなるから良く考えて勝利時の条件を述べるんだぞ」


 その言葉に先ずは第三王子から条件を言い出したよ。


「フンッ、俺様の条件を言ってやろう。クウラ・ローカスの退学に、レミーとティリアが俺様の専用メイドになる事。サーフも退学、ロートとやらは実家の商会の稼ぎの五割を俺様に献上する事だ!! この条件を飲むか、クウラよ?」


 僕はみんなを振り返ってみたけど、みんなが笑顔で頷いてくれたから、


「良いですよ」


 って短く答えたんだ。それからロール先生に促されて僕の条件を言う事にした。


「僕の条件を言います。第三王子殿下の退学並びに王位継承権の放棄、更には辺境地ライグンへの赴任です。その際にはこの場で第三王子殿下に付き従うみなさんも従者として着いていく事を望みます」


 僕の出した条件に良いだろうとニヤニヤと笑いながら同意する第三王子と取巻き四人。


 双方の条件を神聖紙に書き、それぞれがサインをする。その場で神官の資格を持った先生が契約の神にその誓約書を捧げて神契約は成立したんだ。


「ルールを言おう。今回の模擬戦は勝ち抜き戦となる。互いの一人目で勝ったほうがその場に残り、次の対戦相手と対戦していく。それで間違いないなウルムよ」


「フンッ、そうだ。但し一回戦目の対戦相手は互いに指名制となる。それを忘れてるぞ、ロール・クルーガよ」


 クッ、まさかそんなルールを決めていたなんて。最初から僕が出るつもりだったんだけど、それだと指名されないと無理だという事か。


「そのルールは無しだと学園長から言われたのを忘れたのか、ウルムよ。それを守れないならばこの模擬戦自体を無しにするぞ」


 あ、それなら良かったよ。学園長ナイスです。


「フンッ、まあ良いだろう。それじゃ、ゲスタムよ、最初に決めた順番どおりお前から行け。相手がレミーではないだろうがな」


 ああ、ゲスタムって言うのは最初に野次を飛ばして来たときにレミー嬢へグループ強制参加を言ってた人だね。僕は自分が前に出て最初から僕が出ようとしたんだけど、レミー嬢に止められてしまったよ。


「ウフフフ、お待ち下さいませ、クウラ様。どうやらアチラはわたくしをご指名のようですわ。ですので是非ともわたくしにヤらせて下さいませ」


 アレ? 修羅はレイラ嬢だけだと思ったんだけど…… こ、ここにも居るよ…… 僕は今は僕に向いて届く修羅の気を早くそらせたいから頷いて素早く後ろに下がったんだ。


 もう既に気力が少し減ってるからね。危なかったよ。

 

 鈍感なゲスタムは気がついてないみたいだよ。修羅の怒りに…… ご愁傷さま。


「それでは細かいルールを言うぞ。今回の模擬戦は互いの普段使用している武器の使用を許可する。また、魔法についても解禁する。勝敗はどちらかが致命的なダメージを負うか、気絶した場合に決するものとする。致命的なダメージについては心配いらない、直ぐに学園長が治して下さるからな。それでは、双方ともルールは理解したな、では、始め!!」



 ロール先生が開始の合図を出した途端に、何故か僕たちの側だけにデバフフィールドが現れたよ。けれども、第三王子の側からは魔力を感じない……

 これは可怪しいと思って魔力の出処を探っていくけど、アチラコチラからで特定の場所からじゃないみたいだ。どうやら第三王子は観覧席に自分の手の者たちを配置していたみたいだね。


 それにより修羅レミー嬢の怒りが更に高まるとも知らずに。


 レミー嬢はデバフなんて物ともせずに愛用の剣を抜いてゲスタムに迫ったんだ。その速さに対応出来てないゲスタムの利き腕の腱を先ずは切るレミー嬢。返す刃で利き足の腱を切る。


 すると、ゲスタムが、


「ウワーッ、きっ、切ったな! パパにも切られた事が無いのに!!」


 なんて言い出したから観覧席から盛大な失笑が出ているよ。更には、


「ま、参ったーっ、僕の負けで良いから治療してくれーっ!!」


 って涙と鼻水と下の方からも盛大に漏らして言うから更に失笑が大きくなる。でもロール先生はレミー嬢の勝利宣言をしない。

 ルールでは致命傷か気絶だったからね。それを悟ったレミー嬢はこんな奴は相手にするだけ無駄だという感じでゲスタムの頭を峰で叩いて気絶させたよ。


「勝者、レミー・グラシア!! さあ、ウルムよ二人目は誰だ?」


 今回、僕たちにかけられているデバフは常人ならば満足に動けないレベルのデバフだけど、その中であまりにも速く動いたレミー嬢に驚いてるみたいだね。それでも、第三王子は怯えも見せずに宣言したよ。


「フンッ、ゲスタムの役立たずめ! 二人目はグズリオ、お前が行け! あのクソ生意気な女の服を切り刻んで裸にしてやれっ!!」


 第三王子のゲスな命令にニヤニヤしながら出てきたのはサーフくんを痛めつけるように命じたヤツらしいよ。


 そしてそいつが出てきたときに、時が止まったんだ……


 

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