第30話 ロートくん、頑張る!
僕は四日ぶりにみんなに出会って思ったよ。みんな自信が表情から溢れ出ているなぁって。
サーフくんは何故? とは思ったけど先ずは女性陣にちゃんと挨拶をしないとね。
「レイラ嬢、レミー嬢、ティリアさん、僅か四日間ぶりだけど久しぶりだね。三人とも見違えるほどの自信を顔に見いだせるけど、きっとメイリアさんからの稽古で得る物が多かったんだね」
僕の言葉にレイラ嬢が代表して返事をしてくれたよ。
「クウラ様。はい、本当にお久しぶりという感じでございます。ワタクシたち、メイリア様からのご指導を受けて一段階は高みを登ったと自負いたしております。それよりも、クウラ様もサーフ様もロートさんもお三人ともに自信をうかがえる表情を致しておられます。サーフ様はお稽古に参加なされていないと聞いておりましたが、何かしらございましたか?」
レイラ嬢の質問にサーフくんが待ってましたとばかりに答えたよ。
「はい、実はお二人のご了承を得られたらの事になりますが、移動手段の確保の為に自分の実家とハイヒット侯爵領まで行っておりました。ここから自分の実家までは走り、また帰りも実家からここまで走って戻って参ったのです」
ああ、サーフくんは箱庭経由で直ぐに行けるように準備してくれたんだね。でもどうしようかな? 僕としてはレイラ嬢とユックリと景色を楽しみながら行っても良いと思ってたんだけど……
僕と同じような気持ちだったら嬉しいなとレイラ嬢を見たら、レイラ嬢はサーフくんに
「まあ、それは有難う存じますサーフ様。後でクウラ様と相談した上でお返事致しますわ」
とサーフくんに答えていたよ。うん、デッケン子爵領の事もあるし、セバスとも相談したいしね。
こうして四日ぶりに顔を合わせた僕たちを見ていたザン師匠がジンさんとライさんを見て言ったよ。
「フフフ、ジンよお
「師匠……」
ザン師匠の言葉にライさんは驚いていたけど、少しだけその目は潤んでいたよ。
そう、ライ師範は僕を指導する傍ら、ご自身の成長も成し遂げられたんだよ。
はっきり言って今のライ師範はジンさんよりも強いと思ってたんだけど、僕は
まあ、相当に強くなられたジンさんだけど、相変わらず方向音痴は直ってなかったんだけどね……
帰りも危なかったんだよ。こっちが道場だぞってジンさんが指差した方角は明後日の方向を指し示していたからね。老師が、「ジンよ、お主は何も言わずにライかロートに道を任せておくのだ」って言い聞かせてたぐらいだからね。
「フム、ジンとライよ、これより他の門人たちの見取り稽古の為に試合をせよ」
ザン師匠がジンさんとライさんの二人にそう命じたよ。
二人とも直ぐに頷いて道場の中心の開始線前に竹刀を持って立っている。審判はメイリアさんだよ。
メイリアさんの始めの合図で、お互いに一歩踏み出して竹刀が合わさった瞬間に、二人の竹刀が折れ飛んだんだ。
「それまで!! この勝負、引き分け!!」
メイリアさんの声で二人とも柄しか残ってない竹刀を腰にすえ、互いに礼をして引き下がったんだけど、門人の人たちは声も出ずに驚いてるよ。
「フッフフフ、フワーッハッハッハッー、マルメイよ、お前の息子はトンデモナイなっ!! まさか社に入ったジンと互角とはな…… それもまた一つの才能だぞ、ライよ。お前は我が剣術道場の理想の一つを体現してくれたのだ。師匠として誇りに思うぞ、ライ。そして、ジンよ。父上より聞いたが、お前、三日も良く篭ったな? 俺なら発狂してるぞ」
「仕方がないだろう、親父殿。爺さんが篭もれって言ったんだから…… それに、俺もライには脱帽だ。俺は社の中で親父殿すら超えたと思っていたが、その俺の打ち込みと互角とは…… お前、一体どうなってるんだ?」
「ジン、それに師匠…… 全てはザン剣術のお陰であり、また父の言葉のお陰です」
「ほう、マルメイの言葉のお陰とは?」
ザン師匠がそう問うと、ライ師範は素直に答えたよ。
「悩んだ時は基本に帰れと教えて貰いました」
「フッフッフッ…… さすがは愚直のマルメイ。最も大切な事よな。それを忠実に守るライもまた愚直か…… デッケン子爵領はこの親子が居てくれる限り安泰だな」
とその場をザン師匠が締めくくった後に、ロートくんがティリアさんに試合を申し込んだんだ。それに食いついたのはメイリアさんだった。
「来たわ〜!! もちろんその申し出を受けるわっ! さっ、ティリアも早く用意なさいっ!」
「えっ、えっ、母さん、何で私が返事する前に了承してるのよ?」
などと言いながらもティリアさんも用意して開始線前に立った。そんなティリアさんにロートくんが言う。
「ティリアさん、この試合にもしも僕がティリアさんから一本とれたら、一つお願いを聞いて欲しいんだ」
これまで、ロートくんがティリアさんから一本を取った事はない。それは単純に実力差ゆえなんだけど、ティリアさんの中では自身も稽古を通して強くなったと知ってるから、今回の稽古でロートくんがどれほど強くなったとしてもまだまだ自分には及ばないと考えていた筈なんだ。だから、
「一本取らなくても、無茶なお願いじゃなかったら聞くわよ」
ってロートくんに言ったけど、ロートくんは一本取ったらでお願いしますって頼んだから、それを了承してたよ。
「ウフフフ、青春ねぇ〜、ロートくん、頑張って! それでは、始め!!」
明らかにロートくんを応援してメイリアさんが開始宣言をしたら、ロートくんは竹刀を腰だめにして目線を下方にしたまま微動だにしない。
「居合では私には勝てないわよ、ロートくん」
そう言うとティリアさんが真正面から行くと見せかけてロートくんの真後ろに飛んだ。そして、袈裟斬りにしようとした時には、ロートくんの竹刀がティリアさんの胴を打っていた……
「それまで! 胴一本! 勝者ロート!!」
「ウソ…… なっ、何で?」
「ウフフフ〜、ヤられたわね〜、ティリア。
メイリアさんがそうティリアさんに教える。ティリアさんもその言葉に素直に「そうか、そうだったのね……」と頷き、ロートくんに頭を下げた。
「参りました、でも、次は勝ちます!」
うん、うん、次はティリアさんが勝つかも知れないね。そして、約束通りにロートくんがティリアさんにお願いをする。
「あの、その、ティリアさん!! ぼ、僕はティリアさんが好きです! でも、それは僕の一方的な思いです! それだけは伝えておきたくて。けれども、これで今までのように気軽に話が出来なくなるとかは嫌なので、お返事は急ぎません! ですのでお返事を頂くまではこれまで通りに気軽に話が出来る関係でいて下さい!! これが僕からのお願いですっ!!」
ティリアさんは顔を真っ赤にしながらも、
「わ、分かったわ。今すぐ返事はしないし、これからも、今まで通りに話をするから」
と了承してくれたんだけど…… 二人の男が立ち上がったよ。
「フフフ、我が娘を好きだとっ!! 面白い! ならば我が屍を超えてゆけっ!!」(ザン師匠)
「ロートくーん、俺の妹に手出ししようなんて、君って命知らずだったんだね? いや〜、若い身空で死に急ぐなんて……」(ジンさん)
けれども、そんな二人は一本の竹刀で脳天を叩かれてその場にうずくまる。
「はいはい、二人とも馬鹿を言って娘の
般若の気を噴き出しながらのメイリアさんの言葉に男二人はスゴスゴとだけどロートくんをジト目で睨みながら引き下がったよ。
男のジト目は需要が無いから止めて欲しいよね。
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