第29話 それぞれの稽古

 レイラは思った。これを会得すればクウラ様のお役に立てると。


 レミーは思った。これを会得するのに四日は短すぎると。


 ティリアは思った。私だけ別メニューなのはどうしてなのと。

 ティリアは自業自得なのだが……


「それじゃ、二人とも今の私が見せた動きは分かったかしら?」


 メイリアがレイラとレミーにそう聞く。レミーは分からなかったようだが、レイラは考えながらも分かった事を答えはじめた。


「メイリア様、ワタクシが思ったのは【】をお造りになり、そのに入った攻撃を受けられ、また攻撃の為のに入ったワタクシたちを攻撃されたのだと考えました」


 レイラの答えにメイリアは満足げに頷き、レミーは小さく「【】とは何ですの?」と呟いた。


「正解よ、レイラちゃん。まさか東方の国の【】の概念まで知ってるなんて素晴らしいわ!! レミーちゃん、ちゃんと教えるから心配しないでちょうだい。これから【メイリア式刀陣術】について二人に説明するわ……」


 こうしてメイリアから指導を受け、レイラ、レミー、別メニューをしているティリアも更に強くなっていく。


「四日間で身につけるのは無理でも毎日の積み重ねが大切よ。取っ掛かりぐらいにはなる筈だからしっかりとここで基礎を固めましょう。それが次へと進む糧になるからね」


 四日間、レイラ、レミー、ティリアはメイリアの指導のもと、【メイリア式刀陣術】の基礎を叩き込まれるのだった。



 一方その頃、初日は遭難して終わったクウラたちだったが、翌朝に先代のザンことジライにより、それぞれが稽古内容を言い渡されていた。


「さてと、残り三日しかないが…… ジンよ、お主はあのやしろに三日間篭もれ。三日たつまで出てはならんぞ」


「ええーっ!! 嘘だろ爺さん! 親父でも二日だったじゃないかっ!?」


「バカもんっ! いまここでお主を指導するわしは師匠じゃ!! ちゃんと言葉に気をつけんかっ!!」


「いや、でも道場じゃないし……」


 ジンの言葉に反論したのは何とロートであった。


「いえ、ジン様。学びの場は全てが道場です。ですので、ザン様が師匠であるので僕はジライ様を老師とお呼びすることにします」


 ロートの言葉にジライが嬉しそうに言う。


「フォッフォッフォッ、老師か。良いのう。慣れしたんだザンの名は息子にくれてやったし、かと言って今さら本名のジライの名もむず痒かったのでな。うむ、そうじゃわしは老師じゃっ!! 良いな!」


「ハア〜、分かりました。老師。それで、本当に三日も俺は篭もらなければいけませんか?」


「うむ、三日じゃ。そもそもお主はわしやザンを超える力を持ちながら超えぬように制限しておるじゃろう? その力をやしろで解放するのじゃ。まあ、解放せねば死ぬだけじゃがな」


 その言葉にがっくりと項垂れて、分かりましたとやしろに向かうジン。そのままやしろに入っていった。


「さてと、ライよ」


「はい、老師」


「お主にはクウラの指導を任せる。ザン剣術道場で初心者の学ぶ五つの基本型をクウラにお主が教えるのじゃ、良いな。今日は一と二の型、明日は三と四の型、最終日は五の型じゃ。しっかりとクウラに教えるのじゃぞ。それがお主の更なる成長へと繋がるからの。クウラもライから良く学ぶように」


「「はい、老師!!」」


 二人の返事を満足そうに聞き、それからロートに向けて言う。


「ロートよ、ティリアに勝ちたいと申したの?」


「いえ、老師。僕はティリアさんに勝ちたいのではなく、ティリアさんを守れる力が欲しいのです」


「フォッフォッフォッ、守るからにはティリアよりも強くならなければの。良かろう、お主はわしに着いてくるのじゃ。特別稽古じゃがつけてやろう。じゃが三日でティリアには勝てんぞ。そうじゃの…… わしが今回、お主につける稽古を三ヶ月も続ければティリアを追い越す事は可能じゃろうて…… それをわしに約束出来るか?」


 ロートはそっとクウラを見る。クウラはロートに分かってるよという風に頷きかけた。


「はい! 老師! 僕は三ヶ月と言わず、ずっと稽古を続けて参ります!!」


「その意気や良し! ならば着いて参れ、ロート!!」


 そう言うと老師ジライは山を駆け上り始めた。ロートも遅れるものかと必死に着いて駆けのぼっていく。

 それを見送ったライとクウラの二人はそれぞれ竹刀を手に持ち、開けた場所に向かった。


「さて、それじゃクウラくん。今からザン剣術道場の基本型の一を披露するよ。良く見ててくれ。午前中はこの型をしっかりと覚えて貰い、午後からは二の型を覚えて貰う」


「はい、お願いします、ライ師範」


 クウラの返事を聞いてからライは基本の型を見せる。一の型は動きも単調で手数も少ない。振り下ろし、振り上げ、足捌きなどの動きを伝える型のようだ。


「単純な動きだけどこれを早く、正確に行うとこうなる」


 と、先程まではクウラに覚えて貰う為にユックリと動いていたが、今度は段違いの速さで動くライ。その動きを見てクウラは思った。


「凄い、これが型を極めた動き……」


「クウラくん、まだまだ俺は極めてないよ。未だに道の半ばだ。さあ、クウラくんもやってみよう」


「ライ師範、クウラと呼び捨てでお願いします! それでは、やってみます!」


 午前中、クウラは一の型を必死になって稽古した。 


「うん、かなり良くなったね。ただ、左からの振り上げの際に腰が浮く癖がある。それは意識して直していくように。それじゃ昼食にして、午後からは二の型をやって行くよ」


「ハア、ハア、有難うございました」


 昼食後に少し休憩をして、二の型を習い始めるクウラ。そこで実際に自分で始めた際に気がついた。

 動きが止まったクウラにライが聞く。


「どうした、クウラ?」


「ライ師範、この二の型の初動の動きはひょっとしたら、ライ師範がレイラ嬢たちと対戦した際に竹刀を飛ばした動きではないでしょうか?」


「フフフ、クウラは凄いな。普通はそんな簡単に気がつくものじゃないんだけど……」


「やっぱりそうなんですね。凄いな基本の型だったのか……」


 クウラの言葉にライは少し話をしようとクウラをその場に座らせた。ライ自身も座り、クウラに話を聞かせる。


「クウラ、ザン剣術道場では俺とジンを竜虎と門下生たちが言ってるけれど、本当はジン一人で竜虎なんだよ。俺は虎なんかじゃないんだ。考えてみてくれ、強い虎が普段からより強くなろうと鍛錬なんかしないだろう? 俺は少しでもジンに追いつき並びたちたくて、だけどもそこまでの才能がない事も分かっているんだ」


「いえ! そんな事はありません!!」


 クウラがライの言葉を否定するが、ライは笑っていう。


「フフフ、いや、そんな事はあるのさ、クウラ。一時はあまりにも自分の才能の無さに剣術をやめようとも思ったぐらいだ。だが、その時に俺に剣術を続けてみようと思わせてくれたのは父の言葉だった。父は子の俺から見ても愚直だ。その父が俺と竹刀を交えながら、覇気のない俺にこう言ったんだ……」


『ライよ、思い悩むのもまた大切な事ではあるが、何事も大切なのは基本だ。悩んだ時には一度基本に戻ってみても良いと私は思うぞ。私はいつもそうしてきたのだ』


「この言葉を聞いた時に俺はザン剣術道場の五つの基本型を徹底的に身体に正確に覚えてみようと思ったんだ。止めるのはそれからだと思ってね。そうして、俺は先ずはザン師匠に付きっきりで型を見てもらい、合格を頂いてからまだこの山に入っておられなかったジライ様にも見てもらった。ジライいや、老師は俺の型を見て『ザンの型を忠実になぞっておるな』と仰られ、それから老師自身の型を教えてくださった。師匠の型とは少し違っていたから俺は悩んだよ。そんな俺に老師は教えてくれたよ。『ライよ、人はみな体格が違えば筋肉のつき方も関節の柔軟さも違う。同じ型とはいえ、ザンとわしで違うのは当たり前なのじゃ。それでも基本の動きは同じじゃから悩む事はない。お主も動きは変えずにお主だけの型を身に着けていくのが大切じゃぞ。それにしても…… 型に目をつけるとはさすがはマルメイの息子よの。ライにならば言うておこうか。この五つの型はザン剣術の基本にして奥義じゃ。今は分からずもいずれ分かる時が来よう』と。今では俺も老師の言った事を少しだけ理解している。だから何とかジンの横に並び立てているんだよ」


「やっぱり…… 基本は大切ですよね。僕は本当の意味で基本となるものを学んでなかったので……」


「だから今、こうして学んでいるじゃないか。しっかりとやっていこう、クウラ」


「はい! ライ師範!!」


 こうして、それぞれがしっかりと稽古をして、四日間を終えた。


 五日後に顔を合わせた時には、みんながみんな(サーフも含め)、とても成長したような自信に溢れた顔をしていたのだった。


 


 



 

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