第31話 ビレイン男爵家にて
それから僕たちは用意された僕の部屋に集まり、取り敢えず箱庭に入ったんだ。
そこにはセバスとユルナが待機していたよ。
「そろそろ来られると思って待機しておりました、クウラ様」
セバスがそう言うけど、僕は知ってたからね。サーフくんの影にユルナが居た事を。まあ、それを指摘したりはしないけど。
サーフくんはユルナを見て嬉しそうにしてるし、っていうかアレは恋する人の目だね。
うん、サーフくん、その初恋は実らないと思うよ…… ユルナって何を考えてるのか分からないからね…… まあ、ショタじゃないのは確かだよ。
「それで、サーフ。この箱庭を経由してハイヒット侯爵領まで行けるようにしたという事だけど、デッケン子爵が領地を出られるのは二日後よ。それでハイヒット侯爵領に着くのが更に二日後になるわ。四日の猶予で何かをするの?」
レミー嬢がサーフくんにそう聞くと、サーフくんの返事はこうだったよ。
「レミー嬢、先ずは今日、さっそくうちのビレイン男爵領にみんなで来て貰って僕の両親の歓迎を受けて貰いたいんだ。それで明日はうちの領都を観光していただく。で、観光を終えたらそのままハイヒット侯爵領に向かい、代官であるロッテンさんと挨拶を交わして、明後日はクウラ様と家臣団のご対面。そのまま侯爵領の視察と考えてるんだけど、どうかな?」
なるほど、サーフくんはデッケン子爵が来られるまでにハイヒット侯爵領の事を僕が少しでも知れるようにと考えてくれたんだね。うん、僕としては有難いんだけど…… 僕はチラッとレイラ嬢を見てみたんだ。すると、
「まあ! サーフ様! それは素敵ですわ! ワタクシも途中の景色を楽しみたいとは思いますが、早くクウラ様をお待ちになさっている家臣団の皆様の事を考えますとその方がよろしいかと存じます。他の方はいかがですか?」
と、サーフくんの考えに賛成してくれるみたいだ。レイラ嬢に問われたレミー嬢、ティリアさん、ロートくんは、それぞれ賛成してくれたから、僕たちはセバスに言って、一度ザン師匠やメイリアさん、ジンさん、ライ師範、それにデッケン子爵自身に先に向かいますって伝える為に箱庭から出たんだ。
「もう、ビレイン男爵領へと向かわれるのか、クウラ様」
ザン師匠が残念そうな顔をしてそう聞いてくる。そうか、ティリアさんも一緒に来てくれるからね。夏季休暇中にせっかく戻ってきてくれた娘と離れるのは寂しいだろうね。だけど、メイリアさんは
「ティリア、クウラくんを守れるようになるまで稽古を続けなさいね。稽古は何処ででも出来るのだから」
って、既にティリアさんを送り出す気が満々だったよ。それを聞くとザン師匠もジンさんも諦めたように頷いてくれたよ。
そしてライ師範は僕に、
「クウラ、悩んだら基本に戻るんだぞ。そして、クウラ様、父の事、デッケン子爵領の事をよろしくお願いします」
と師範らしい言葉で僕たちの旅立ちを祝ってくれたよ。
マルメイさんは、
「少し遅れますが、四日後にハイヒット侯爵領でお会い出来る事を楽しみにしております」
って言ってくれたので、僕たちは形としてデッケン子爵領の領都の門を出て、門から見えなくなるまで歩き、箱庭に入ったんだ。
馬車を用意してくれるって言うのを断るのを苦労したよ。
で、僕たちはセバスとユルナも一緒にサーフくんの自室に居た……
「あの…… サーフ、一つお聞きしてもよろしいかしら?」
僕たちを代表してレミー嬢が聞いてくれた。
「ん? 何かな、レミー嬢?」
サーフくんはみんなの雰囲気を気にせずに気軽に言う。
「コチラのお部屋はサーフのお部屋なのよね? で、このたくさんの肖像画なのですが……
その言葉にサーフくんは満面の笑みで嬉しそうに言ったんだ。
「さすがはレミー嬢だね! そう!! この肖像画は全てユルナさんだよっ!! 僕が先に戻って来た時にユルナさんにモデルをお願いして、画家三人に描きに描いてもらったんだよ! 素晴らしいだろう!?」
「そっ、そうね…… 確かに画家たちの腕はうちの領地に居る画家と遜色ない高いレベルだと思うわ…… でも、何故?」
レミー嬢はまだサーフくんの初恋には気がついてないんだね。いや? ひょっとしたらサーフくん自身も気がついてないのかな?
「何故? レミー嬢は分からない? ユルナさんのこの素晴らしさをっ!! ほら、こっちの肖像画を見てごらん! 儚くも美しい笑みを浮かべるユルナさんが忠実に描かれているだろう? この絵はもう国宝級だと僕は思ってるんだ。クウラ様もそう思いますよね?」
突然僕に振ってきたよ。
「そうだね、有難うサーフくん。僕の侍女をこんなにも美しく残してくれて。末代まで大切にしてくれるよね?」
「もちろんですよ! クウラ様! 末代どころか、ビレイン家が終わってもこの絵たちは残りますよっ!!」
僕はその言葉にチラッとユルナを見たけど、何の感情も表れてなかったよ…… うん、サーフくん、頑張れ!!
「それでは、サーフ様。お時間も少ないですのでさっそくですがビレイン男爵様にお会い出来るように取り計らって頂けますでしょうか?」
何の感情もなくそう言うユルナの言葉に、サーフくんは声をかけられただけで嬉しいのか、
「そうだね、ユルナさん! 時間は有限だから、直ぐにそうするよ!」
と言って部屋を出ていったよ。部屋からサーフくんが出ていくとユルナはフゥ〜とため息を吐いてたよ。そのやり取りを見てたまだ気づいてなかった面々も、ユルナに向かって
「若い男の子特有の病ですわ。ユルナさんには迷惑でしょうが、優しく見守ってやってくださいませ」
とレミー嬢が言い、レイラ嬢も、
「ユルナ姉様、優しい気持ちで接して上げて下さいませ」
とユルナを気遣っていたよ。僕やセバス、ロートくんは苦笑いで何も言わなかったけどね。
それから暫くして、慌てたように部屋がノックされ、僕が代表して返事をすると執事さんと侍女さんが二人、頭をさげながら
「お待たせして申し訳ございません。急なご訪問でございますが当家の主人ともども皆様のお越しを歓迎致します。先ずはご案内致しますので着いてきて頂けますでしょうか?」
と言ってきたので僕たちはサーフくんが家に何も伝えてない事を知ったんだ。
僕は代表して二人に謝ったよ。
「何も先触れも出さずに訪問してごめんなさい。急な事ですから準備も出来ていないでしょうし、僕たちは領都の宿に移動しますけど」
と言うと二人とも大慌てで、それはご容赦下さいませというのでセバスを見たら、
「クウラ様、急なご訪問とはいえこれぐらいの事態に対応できないのは貴族に仕える者として恥になります。ですので、ここは彼らの言うとおりに行動して差し上げるのが一番かと思います」
って言うから僕たちは彼ら二人の案内で屋敷の応接室に連れて行って貰ったんだ。
「まもなく主人夫妻がご挨拶に参りますので暫くお茶でもお飲みになられてお待ち下さいませ」
と言うと執事さんは出ていったよ。それから直ぐにまたノックの音がして、どうぞと言うとサーフくんによく似た二十代後半の男性と、二十代前半の女性が失礼しますと入ってきたんだ。
「お初にお目にかかります、クウラ様、レイラ様。愚息がお世話になっております。クーフ・ビレインと申します。以後よろしくお願い申し上げます」
「はじめまして、クーフの妻でユーリ・ビレインでございます。息子と仲良くしていただき本当に有難う存じます」
うん、サーフくんのお母様は僕の母上には負けるけれども美人さんだね。
それから二人はレミー嬢とティリアさんの方を向いて挨拶をはじめる。
「レミー嬢、お久しぶりでございます。明日は我が領都を観光して頂けるとか、どうかよろしくお願い致します。それと、ティリア嬢。どうか息子を鍛えてやって頂きたい。よろしく頼む」
その言葉に合わせてユーリさんも頭を下げた。
「お久しぶりでございます、クーフ様、ユーリ様。明日は一日をかけて確りとビレイン男爵領都を観光させていただきます。
とレミー嬢が返答すると、ティリアさんは慌てたようにクーフさんに言ったんだ。
「あの、私は平民ですので嬢はお止めください。普通にティリアと呼び捨てでお願いします」
「いやいや、ティリア嬢。それは難しいですぞ。メイリア様は他国の王族の出であらせますから、確かにこの王国では平民となられましたが、我ら貴族からすれば元の出自を知ってなお平民としての扱いなどは出来かねるのです。まあ、中には馬鹿な貴族もおりますが…… ですのでどうかご容赦願いたい」
それにはユーリさんも頷いてから、
「ティリアさん、それがまともな貴族の考え方なのです。ですので主人のいうとおり、許して上げて下さいませ」
そうティリアさんに言ったんだ。それにはティリアさんも困った顔をしたけれども渋々と頷いたんだよ。
ロートくんは親戚だからか挨拶はしないみたいだね。それからセバスとユルナを見たクーフさんが言う。
「フフフ、カミソリセバスとこうして領都で出会えるとは思わなかったぞ」
「どうかその二つ名はご容赦願えますかな、ビレイン男爵、いや
「フッフッフッ、互いに二つ名だけが大層ではあるな」
「間違いありませんな…… フフフ」
なんか変な空気になってるよ。ユルナなんて知らん顔してるけど。後で聞いてみよう。
それから僕たちは各部屋に案内され、お風呂をちょうだいして着替えてから夕食を共にしたんだ。
クーフさんもユーリさんも学園でのみんなの様子を聞いてきて、楽しそうに話に聞き入ってくれたよ。レイラ嬢も学園での僕の様子を知れて良かったみたいだ。
こうして時間も過ぎて、その日はそれぞれの部屋で寝る事になったんだよ。念の為にレイラ嬢の元にはユルナに着いて貰っているんだ。
僕の方にはセバスが居たから先程の二つ名について聞いてみたんだけど、セバスは
「若気の至りでございます…… 詳細はご容赦下さい、クウラ様……」
って悲痛な顔で言うものだからそれ以上聞けなかったよ……
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