第32話 領都観光(一)
翌朝、よく寝た僕たちは早朝に目覚めて箱庭に集合していた。
「さあ、みんな朝稽古してから今日を楽しもうね」
僕の掛け声にみんながハイって大きな声で返事をしてくれた。
僕はライ師範の教え通りに基本の五つの型を忠実に、少しでも早く、力を抜かずに出来るように始めたよ。
レイラ嬢、レミー嬢、ティリアさんの三人は、それぞれがそれぞれを攻め、守りを繰り返している。
サーフくんはハニワと一緒に棍を基礎から学び直しているみたいだね。
そして、ロートくんだけど姿が見えない。でもハニワが三体ついて行ってるのを見てた僕は、老師から言われた稽古をしてるんだろうと思ってるんだ。
早朝一時間の稽古を終えた僕たちは箱庭内の屋敷のお風呂で汗を流してからそれぞれの部屋に戻ったよ。
まだメイドさんたちは来てないね。
僕はメイドさんが起こしに来るまで静かに部屋で待っていようと思ったんだけど、部屋の扉をノックされたので返事をすると、レイラ嬢が入ってもよろしいでしょうかと聞いてきたので勿論だよと返事をして扉を開けたんだ。
そこには箱庭でついさっき別れたレイラ嬢が立っていて……
「天界からようこそ、天使様……」
っていつの間にか口走ってたよ。僕の言葉にボッという音がする程に顔を真っ赤にするレイラ嬢。それを見た口走った僕自身も顔が赤くなってしまったよ。
「あの…… その…… クウラ様…… 有難う存じます……」
「いや…… あの…… ゴメンね、レイラ嬢。つい思ったままを口に出しちゃったんだ…… そ、それで何の用事かな?」
「あっ、はい。大した用事では無いのですが。皆さんがメイドさんたちが呼びに来られる前に食堂へと参りませんかと仰られてまして。それでクウラ様のご意見をお聞きしようかと思いまして……」
「メイドさんたちの仕事を無くすなら言伝しておいた方が良いと思うけど、レイラ嬢やレミー嬢、ティリアさんがそうしたいなら先に食堂に行ってても良いよ。僕の方からメイドさんに言伝するから」
僕の言葉にハッとするレイラ嬢。
「そ、そうでしたわ、メイドさんの仕事を増やすところでしたわ。ワタクシ、うっかりとしておりました。それにクウラ様にご負担を強いる訳には参りません、レミー姉様とティリア様にもお伝えして食堂へはメイドさんが来られてから行く事に致します」
僕はその言葉に真面目だなぁと思いながらも笑顔で返事をしたよ。
「フフフ、レイラ嬢の為なら苦にならないんだけどね。でも、もしも三人で一足先に行きたいならユルナに言伝を頼めば良いよ」
「はい、有難う存じますクウラ様。ユルナ姉様と共にお二人と相談してみます」
レイラ嬢が部屋の前から去ったあと、十分程してメイドさんが部屋にやって来た。
「クウラ様、おはようございます。朝食の用意が整いましたので、食堂までご案内いたします」
「うん、おはよう。ナイリさん、有難う」
食堂に向かうと女性陣三人は既に席についていたよ。どうやらユルナに言伝を頼んで先にきておしゃべりを楽しんでたみたいだね。
僕の後にロートくんとサーフくんもやって来て、みんなが揃ってから朝食を頂く事になったんだ。男爵夫妻は僕たちだけの方が気楽でしょうからと遠慮してくれたそうだよ。
「さあ、それではロートと僕で領都内をご案内しますね。気になるお店などがあれば遠慮なく行って下さい!」
サーフくんの音頭でいよいよビレイン男爵領都の観光が始まる事になったよ。
先ずサーフくんが案内してくれたのは中央広場。この広場を起点に東西南北でお店がそれぞれ違うんだって。
「東は主に冒険者や騎士、兵の為の街と言っていいと思います。武器、防具の商店だけでなく修理も行ってくれる鍛冶屋、革製の防具を作る革加工屋などと共に、冒険や兵役に必要な道具を取り揃えた道具屋もございます。
西は逆に庶民の為の鍛冶屋、包丁や農具、鍋などですね。それに薬屋、雑貨屋、家庭用魔道具屋などです。
南は食料品です。山、川、海がある我が領地ではそこでとれた食材を朝から売りに出しております。
そして、北! こちらは貴族用となっておりまして、庶民は入れないように門がございます。何故、分けているのかというと、以前に庶民の雑貨屋で買い物をされたとある貴族の方が、庶民の店だからと代金を支払わずに領地に帰った事がありまして…… それ以来ですが貴族の方は北の貴族用の商店が並ぶ方でお買い物をして頂く事に我が領地では決められております。あ、でもみんなは庶民のお店でも買い物がちゃんと出来ますからね。そこはご安心下さい!」
一気に説明してくれたけど、どこも魅力的だなぁ…… でもこういう時はレディーファーストだよね。
「レイラ嬢、先ずは何処に行ってみたい? 僕はレイラ嬢に合わせるから、教えてくれるかな?」
僕がそう聞いてみると嬉しそうに笑顔でレイラ嬢は返事をしてくれたよ。
「よろしいのですかっ!? クウラ様、でしたらワタクシは西の鍛冶屋さんに行ってみたいです。新しい包丁が欲しいのですが、実際に見てみたくて!」
「分かった、それじゃ西に行こう。みんなはそれぞれ行きたい場所があるならサーフくんに案内して貰って行ってね。僕とレイラ嬢は二人で行動するよ」
って言っても影の中にはユルナが居るんだけどね。
「まあ、それでは
「うん、勿論だよレミー嬢。そちらのビレイン男爵家の侍女さんが着いて行ってくれるそうだよ。あ、サーフくん、僕の方には付き人はいらないよ。セバスが着いてきてくれるから」
影からはユルナ。表にはセバス。完璧だね。
「お昼にまたここに集合して、サーフくんご自慢のお店で昼食にしようね!」
僕のその言葉を合図にバラバラに動き出す僕たち。サーフくんは僕の方に着いて来ようとしたんだけど、レミー嬢が手を引っぱって自分たちの方に連れて行ったよ。グッジョブ! レミー嬢!
「でも、クウラ様、本当によろしかったのですか? ワタクシの希望の場所で……」
歩き出したらレイラ嬢がそう聞いてくるから、僕は素直に気持ちを伝える事にしたんだ。
「勿論だよ、レイラ嬢。僕はレイラ嬢と二人でこの領都でデートをしたかったからね。だからこうして一緒に歩けてるだけでとても嬉しいんだ」
「あの、その、ワタクシも嬉しい、です……」
顔を赤くしてレイラ嬢もそう言ってくれたよ。だから僕は更に一歩進んで、レイラ嬢の手を握ったんだ。
「さあ、途中ではぐれちゃうと嫌だから手を繋いで行こう! イヤじゃない?」
「イヤだなんてとんでもないです。とても嬉しいですわ!!」
レイラ嬢も満面の笑みでそう言ってくれたよ。ああ、前世でも出来なかったデートを僕は今から満喫するんだ!!
そうして、西に三軒ある鍛冶屋さんに入り、一軒目ではペティナイフを購入して、二軒目では柳刃包丁を、三軒目で牛刀を購入したよ。
「ウフフフ、有難うございますクウラ様。必ずこれで美味しいお料理を作れるようになりますわ!!」
レイラ嬢がとても喜んでくれてるならいいけど、他の物は要らないのかな?
「レイラ嬢、この際だから鍋やフライパンなんかも新調しようか? それに、僕たち専用の食器類も買いたいな。いいかな?」
「ハウゥッ〜 ク、クウラ様がそう望まれるなら、勿論でございます」
こうして鍋やフライパンも鍛冶屋さんにもう一度行って購入して、それから雑貨屋さんにも行って僕たち二人で使う食器もペアの物を購入したんだ。
荷物はセバスが持ってくれたよ。
「セバスさん、重たいでしょう? ごめんなさい」
「フフフ、レイラ様。ご安心下さい。実は中身の大半はユルナに手渡しておりますので」
セバスはさすが抜かりがないね。
それからも僕とレイラ嬢は楽しく買い物をして、楽しすぎてお昼の集合時間に遅れそうになったんだよ。
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