第5話 ローカス侯爵家の秘事㈡

「ローカス侯爵家のこれまでの当主様たちには蒐集癖しゅうしゅうへきがございましたそうで、実は地下に封印された部屋にその蒐集された書物があるのです。亡くなられたメリエ様からも、クウラ様が困難に立ち向かう役に立つのならばと許可をいただいております。そこの書物にならばクウラ様のスキル【Kuukan】についての記述もあるかも知れません。しかしながら、旦那様やアキラ様にバレる訳にはいきませんので、封印された地下部屋に向かうのは深夜となってしまいます。よろしいですか、クウラ様?」


 僕はセバスの言葉に強く頷いたよ。ここまで母上からの愛情を貰って僕が何の努力もしないなんて考えられないからね。


「分かりました。それでは今夜より早速決行する事にいたしましょう。ユルナがクウラ様を深夜二時にお迎えに上がります。私は一足先に向かって封印を解いておきますので、そのおつもりでよろしくお願い致します」


 そう言うとセバスは僕の部屋を出て行ったんだ。そこで僕は自分のスキル【空間・くうかん・クウカン・Kuukan】と向き合う事にしたよ。


 先ずは【空間】からだ。空間魔法の劣化版らしいから、空間魔法で出来る事は全て出来るけれども、その能力は五分の一まで落ちてしまう。それでも魔力を消費しないで出来るんだからそれなりに使えるだろうと僕は思ってたんだ。


 スキル【空間魔法】で出来る魔法は、アイテムボックス、転移、転移陣作成、フリースペース作成、箱庭作成の五つなんだ。全てが魔力量によってそのサイズが決まるらしいんだけど、この世界ラージアースでは自分の魔力量とかを見る事は出来ないんだ。でも…… そう、でもだ。

 僕には神様から授かったスキルランクC【鑑定】がある。それを使って自分自身の能力を見てみたんだよ。すると、



【基礎情報】

名前:クウラ・ローカス【改め】クウラ・ハイヒット

年齢:七歳

性別:男

種族:人族

称号:ハイヒット侯爵(予定)

位階レベル:1

【身体能力】

体力:285

気力:1,800

魔力:8,800

器用:125

物攻:100

物防:100

魔攻:1,000

魔防:1,000

【神授スキル】

スキルランクD【剣技】【体術】

スキルランクC【中級属性魔法】【鑑定】

スキルランクX【空間・くうかん・クウカン・Kuukan】

【身付スキル】

スキルランクA【剣聖】【拳聖】【賢者】

スキルランクS【三ケンの思考】【三ケンの動作】

スキルランクSS【前世の知識】



 んん? ちょっ、ちょっと待ってよっ!? 何、このデタラメな能力は?

 あ、身付スキルは努力して身に付けたスキルっていう意味で、普通は神様から授かったスキルよりも下のランクのスキルが身に付く筈なんだけど……


 えっと、全てがランクA以上だよね? おかしくない? それに、バツじゃないよ!? Xエックスだよ! これもおかしいでしょ!!


 この世界ではアルファベットはA.B.C.D.E.Sがスキルランク表記用に。I.J.K.N.O.Q.T.Wが職人さんのランク表記用にあるってセバスから学んだから、無いはずのXは、そりゃバツって読むよね……


 っていう事は五百年前の英雄の一人もバツじゃなくてXだったって事なのかな?

 でも糠喜びするのはまだ早いよね。このXっていう表記がひょっとしたらEよりも下を表す表記なのかも知れないし…… もしそうなら僕は詰んでしまうけれども……


 うん、今考えても分からない事は取り敢えず先送りにしておこう。今夜、地下書庫に行けば何か分かるかも知れないし。

 取り敢えず、僕の【空間】でどこまでの事が出来るのか検証してみよう。先ずはアイテムボックスからだね。


「アイテムボックス!」


 僕はスキル【空間】を意識してそう唱えたんだ。すると、僕のアイテムボックスの容量と様式が頭の中に浮かんできた。


【アイテムボックス】

容量:二千恒河沙こうがしゃ立方メートル

様式:時間停止機能・時間遅延機能・時間短縮機能・通常時間機能・生物可・地球異世界産物資投入済・地球異世界産物資自動補給 


 えっと…… うん、前世で読んだから良く知ってるよ、チートって言うんだよね…… 神様からの贈り物なのかな? あの時神様が言ってたよね。僕が生きていくのに必要な能力は与えるって。

 コレだけで十分過ぎるんですけど、神様。でも本当に有難うございます。

 何だかこの後の検証が楽しみなような、怖いような…… でもやっぱり知っておく事は必要だと思うから、転移と転移陣作成はちょっと先送りにして、次はフリースペース作成を見てみようかな。

 僕はアイテムボックスを取り敢えず閉じて、


「フリースペース作成!」


 と唱えたんだ。すると、また頭の中に容量と様式が浮かんできた。


【フリースペース】

容量:新星状態を終え、落ち着いた星

   直径6,000キロメートル

様式:大気状態は地球異世界と同じ

   魔力の源である魔元素が満ちている

   大陸は二つ、大小様々な島が百二十

   生物はまだ居ない

   クウラの許可を得た生物が生活出来る


 うん、安定のチートだね…… 神様、有難うございます。


 よし、次は箱庭だね。僕はもう何が出てきても驚かない心づもりでフリースペースを閉じてから唱えたよ。


「箱庭作成!」


【箱庭】

容量:二十キロ立方メートル

様式:クウラの眷属ハニワが働く

【一級品の各種作物、一級品の各種肉類、一級品の各種魚介類、一級品の各種鉱石、一級品の各種宝石】を産出している。産出した物は自動的にクウラのアイテムボックスに保管されている



 うん、僕って仕事しなくても生きていける気がするよ。いや、せっかく動ける身体になったんだからちゃんと仕事もするつもりだけどね。年を取ったら悠々自適にレイラ嬢と一緒に過ごせるね。


 何て思ってたら既に深夜になってたらしくて、ユルナが部屋に来ていたよ。

 

「お迎えにあがりました、クウラ様」


 そこでユルナは僕を抱きかかえて、


「地下室まで誰にもバレずに向かう為に失礼いたします」


 と言って影の中に沈んだんだ。コレがユルナのスキル、ランクAの【影行者】だよ。自分が触れた者(物)も一緒に影に連れて行けるんだ。

 そして、浮かび上がった時にはくだんの地下室前に僕は立っていたんだ。


「お待ちしておりました、クウラ様。施されていた封印は既に解いてあります。さあ、どうぞ中へ」


 待っていたセバスに促されて僕は中に入ったんだ。すると、そこには数々の前世でいう同人誌や、小説、それに地球のそれも日本人が書いたと分かる日記が所狭しと並べられていたんだよ。


 僕がセバスを見たらセバスが教えてくれたよ。


「これらは今から二百年前に王国で禁書とされた書物にございます。五百年前に召喚によりやって来られた英雄様たちが書き残した貴重な書物ではございますが、読める者が居なくなってしまい、また変な解読を始めて宗教的な活動を行う者が相次いで現れたので、禁書となりました。しかしながら焚書ふんしょにするのは惜しいと当時の国王陛下が仰られ、それらを各侯爵家に分散して保管させたのです。が、各侯爵家も禁書指定の書物を持つのが怖くなったのでしょう。蒐集癖のあったハイヒット侯爵家に全てが集まり、それをメリエ様が引き継がれてこのローカス侯爵家の地下室に封印されたのです。しかしながら、メリエ様は必死に探されて、王国語に翻訳された書物を集めておられました。それが、コチラです」


 とセバスが案内してくれた場所には王国語に翻訳された同人誌と小説が凡そ百冊あった。母上、よほど読みたかったのですね…… 全てがBL中心なのは僕の心の中に仕舞っておきます……


「それでは、クウラ様。この中で今夜からクウラ様のスキルについて書かれた書物を探して参りましょう。文字は私たちは読めませんが、ランク表記文字があるものを集めてみましょう」


 とセバスがユルナと一緒になって集めようとしたのを僕は止めた。


「ちょっと待って、セバス、ユルナ。大丈夫、僕はこの文字を読めるから。僕が一人で探すよ」


 僕のその言葉にセバスもユルナも驚いていたんだ。


 





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