第6話 クウラの秘事(ひめごと)

 僕は、僕の言葉に驚いている二人に秘密を話す事にしたんだ。その前に二人から質問が飛んできたけどね。


「クウラ様、お聞き致します。何故、この文字を読めるのでしょうか?」


 と静かにユルナ。


「クウラ様! この文字は五百年前にこの地に召喚された英雄様たちが残された【日の本文字】にございます! 現在、この文字を読める者は誰一人としておりません。いえ、王族の方々は一部の文字をお読みになられるようですが…… しかし、クウラ様は読めると仰られる。いったい何故?」


 といつも冷静なセバスにしては珍しく性急な口ぶりで。


 僕は二人を見つめながら静かに言ったよ。


「それはね、セバスにユルナ。僕が前世の記憶を持っていて、その前世が五百年前にこの地に召喚された英雄たちと同じ日本という国だったからだよ」


 厳密に言うならばひょっとしたら召喚された英雄たちは、僕の住んでた日本じゃなくてパラレルワールドの日本からの可能性もあるんだけど、どう見てもこの同人誌や小説、日記の背表紙を見る限り同じ日本だと思うんだよね。

 だって、ある日記なんてドラ○ン○ールのコミックと同じで、下の部分にイラストを入れて並べると続き絵にしてあるんだもん。


 その僕の告白にセバスだけじゃなくてユルナも驚いた顔を更にビックリした顔にして僕を見つめてくるよ。


「そんなに驚かないでよ。前世の記憶を思い出したのは五歳の頃なんだ。だけどその頃は誰にも言うつもりは無かったんだけど、今ならば信じて貰えると思って二人に告白したんだよ」


 僕が続けて言うとユルナが母上のコレクションから一冊を持ってきて叫んだ。


「クウラ様!! この物語の続きを是非とも翻訳していただけないでしょうかっ!?」

 

 そんな大声で叫んじゃダメだよ、ユルナ。もしも父上やアキラに聞こえたらどうするの?


「遮音結界を張っておりますので大丈夫です、クウラ様」


 ユルナの大声で冷静さを取り戻したセバスが僕の顔色を読んでそう答えてくれたよ。

 そして僕はユルナに言ったんだ。


「ユルナ、翻訳するよりも原文を読んだ方が面白いよ。王国語に翻訳出来ない言葉も日本語にはあるからね。僕で良ければ教えるよ。この文字は四つの異なる文字が組み合わさっているけれども、一度覚えてしまえば簡単なんだ。漢字だけはちょっと苦労するかも知れないけど、それについても対策があるから」


 そう、僕のアイテムボックス内には地球異世界産の物がある。その中には漢和辞典もある筈だからね。辞典の見方を教えたらセバスもユルナも直ぐに漢字にも慣れると思うんだ。

 それに元々、王国文字も異なる三つの文字が組み合わさっているからね。

 そして、ここで僕はセバスに言ったよ。


「セバス、ここの書物だけど全てを僕のアイテムボックスに入れて保管する事にするよ。そして、ゆっくりと僕のスキルに関しての記述を探すよ」


「畏まりました、クウラ様。メリエ様よりここにある書物は全てがクウラ様の物だとお亡くなりになる前に言われておりますので」


 こうして僕は母上の黒歴史がセバスとユルナ以外に広まる事が無いように手を打つ事が出来たんだ。

 これで良いんですよね、母上? 


 そして、次の日から父上やアキラから無視されてるのを幸いに、僕はユルナが侍女たちに指示を出した後に、僕の箱庭に招いてひらがなとカタカナとローマ字を教え始めたんだよ。

 セバスには夕方から教えているんだ。セバスは張り切って夕方までに部下の執事たちに指示を出して仕事を割り振り、身体をあけてくるんだよ。

 ローマ字については二人ともランク表記以外の使い方があると知って驚いていたね。そして、A〜Zまである事にも。


 ひらがな、カタカナ、ローマ字については五十音表をアイテムボックスから取り出して説明をしたから直ぐに覚えたよ。苦戦するのはやっぱり漢字だったけど、それでも漢和辞典を出して見方を教えたら隙間時間に自習してるみたいだ。


 二人ともとても熱心に覚えようとしていて、何がそんなに二人を必死に動かしているのか聞いてみたら、セバスは、


「私は自分のスキル、ランクS【愚者の脳髄】の派生効果により、新たな知識を知らずにはいられないのです。初めてスキル名を聞いた時には何でこのスキルがランクSなのか分かりませんでしたが、【愚者】故に新たな知識を入れたならば幾らでも吸収出来る事に気がついたのはメリエ様のお陰でした」


 そう答えてくれて、ユルナは、


「実は私はメリエ様の仲間にございました。あの少年や青年同士の愛を貫く小説に魅せられてしまっているのです。メリエ様はありとあらゆる手を尽くして続きの翻訳版を探されていたのですが手に入らずに…… きっとさぞかし無念だったかと思われます。そのメリエ様の無念を晴らす為にも、私が原文を読むのが一番だと思ったのですっ!!」


 と答えてくれたけど、自分が一番読みたいんだよね、ユルナ? 母上は無念だったかも知れないけどユルナが読めるようになっても母上の無念は晴れないと僕は思うよ。


 まあ、そんな日々を送りながらもレイラ嬢とも手紙のやり取りをしたり、僕は僕で【Kuukan】についての記述を探して書物を読んだり、セバスやユルナから学園に入学する為の知識と、実技試験の為の訓練を受けたりしていたんだ。


 食事については二人と一緒に地球異世界産の物をアイテムボックスから出して食べていたよ。

 何せ全ての物が入っているから、星三つレストランの料理も出来たてで食べられるからね。

 近いうちに僕はユルナに連れて行って貰ってレイラ嬢の部屋とこの箱庭を転移陣で繋げようと思っているんだ。


 その際に役立つのがスキル【クウカン】だよ。転移陣を置いた場所の空間を支配して、レイラ嬢以外には反応しないように出来る筈だからね。

 そう、まだ筈なんだ。検証が出来てないからね。検証が出来てからレイラ嬢をお迎えに行くつもりだよ。


 こうして一年が過ぎて僕が八歳になった頃には、セバスもユルナも原文で読めるようになっていたよ。そして、僕も遂に見つけたんだ。


 そう、スキル【Kuukan】に関連した記述を!!


 それは行方不明だと言われたスキルランクバツ(実際はX)の英雄が残した日記にあったんだ。


 その英雄の名はすめらぎさくらさん。授かったスキルはスキルランクX【鑑定・かんてい・カンテイ・kantei・KANTEI】だったそうだよ。


 僕は熱心にその日記を読んだ。行方不明だって王国民(王族含む)には思われていたけれども、実際には一緒に召喚された仲間たちとは連絡を取り合っていて、邪神討伐の時には陰ながら手助けをしていたそうだよ。


 そんなサクラさんの日記にはこう書かれていたんだ。


【ローマ字表記のスキルは神に匹敵する力を持つスキル。だから扱いには慎重さが必要。臆病なぐらいがちょうど良い。私の小文字のkanteiは艦艇かんていを呼び出すスキル。軍艦が二艦、水雷艇が一艦、巡航艇が二艦。海戦ではレヴィアタンにも負けない。大文字のKANTEIは同じように艦艇かんていを呼び出すけれども、その船は空をも飛ぶ。空中戦ではバハムートにも負けない。


もしも、遠い未来にこれを読む事が出来る人に伝えます。貴方のスキルが大文字と小文字が混ざっているのならば、本当に慎重に使って下さいね。この世界を滅ぼしかねない力を秘めている筈ですから。ああ、少しでも手助けになればと思い、ここに私の力の一部を残します。どうか貴方がスキル【鑑定】を身につけているか、神授されてますように……】


 読み終えた僕に日記から光が飛び、僕の胸から体内に入っていった。


 そして、僕には……


 サクラさんのスキル、ランクXの【鑑定・かんてい・カンテイ・Kantei】が付与されていたんだ……


 うーん……

 こ、これはサクラさんに感謝するべきなのか、神様に感謝するべきなのか…… 

 うん、お二人に感謝するべきだね。僕は心の中で祈ったよ。


 もうこれ以上は大丈夫ですよと。


 もはや人外になってるからね…… 


 

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