第40話 夏季休暇の残り
マルメイさんが無事に派閥に入った事が決まった時に、クーフさんがさも当たり前のように【
「クーフよ、その手にある物は何かな?」
「ムッ? いつの間に我が手に? どうやらこの槍は私に使われたいようだぞ、カルダン」
「そんな訳あるか!? お前がガッツリ手に取ったのは私だけでなく、ここにいる全員が見ておったわっ!!」
だけどその言葉にもクーフさんは悪びれず答えたよ。
「フム、なるほど。では私が無意識に手に取ったという事か。つまり、この槍が私に使ってほしいと訴えてきているという事だな!」
「違うわーッ!!」
カルダンさんのツッコミにマルメイさんが笑い出す。
「ワーハッハッハッ、いやいや、それは元々クーフ殿に差し上げるつもりで持ってきたものだ。遠慮なく受取って欲しい」
マルメイさんのその言葉にクーフさんの顔が喜色満面となったよ。それからマルメイさんが言葉を続けた。
「もちろんだが、カルダン殿もロッテン殿も友好の証として受取っていただきたい。私が持っていても宝の持ち腐れとなるのでな」
マルメイさんの言葉に僕を見るロッテン。僕はロッテンに頷いたんだ。
「有難く頂戴致しましょう、マルメイ様」
「良いのか? マルメイ。あ、それと我ら三人、私とクーフとマルメイは同じ派閥の同士となる。なので三人だけの時や、このような会合の際には呼び捨てで呼び合おうではないか? 一番の年上のマルメイが良いのであればだが……」
いや既に呼び捨てで呼んてるよね、カルダンさん。
「フフフ、確かに三人の中では私が一番の年上となるが、爵位ではカルダンが一番となろう? 良いのかな?」
「マルメイ、学園に在学中は恐ろしく愚直な先輩がかつて居たと聞いていたのだが、このように話が分かる人物だとは思わなかったぞ」
「おう、それそれ、私も聞いた事があるぞ! 確か愚直すぎて教師陣も辟易していたとか」
クーフさん…… ハッキリ言い過ぎですよ。
「ワーハッハッハッ、そのような話になっておったのか。まあ、若い頃は確かに今よりもかたかったのは認めよう。だが年を経てそれなりにはなったと思っているぞ」
良かったよ、マルメイさんが怒ってなくて。
「それで、マルメイよ。先ずは帝国の第三王子の件だな。悪魔を放ってきたようだが、この事は私から陛下にお伝えしておこう。陛下ならば何らかの手を打って下さる筈だ。それと、クウラ様、もう二度とお一人で悪魔に対処なぞなされませんようにお願い致しますぞ。今回はたまたまクウラ様よりも弱き悪魔であったから良かったものの、次もそうだとは限りませんからな。必ず、最低でもセバス殿かユルナが一緒に居るようにしてください」
カルダンさんがマルメイさんの事情は知ってるとそう言い出して僕にまでお小言がやってきたよ。
うん、まあでもそうだよね。悪魔についてはこの世界でもよく分かってないみたいだからね。
でも僕は悪魔についての知識があるし、ランクXの【鑑定・かんてい・カンテイ・Kantei】もあるから自分に対処出来ない時には箱庭に逃げるよ。
「うん、分かったよカルダンさん。危ない時には僕のスキルで逃げるよ」
僕の返事にカルダンさんとクーフさん、マルメイさんにライ師範までウンウンと頷いてるよ。
「そうだな、マルメイよ。このクーフが帝国からの横槍があった時には即座に駆けつけるからな。直ぐに連絡が取れるような魔道具の開発は進んでいるのか?」
そんな魔道具の開発をしてたんだね。
「うむ、クーフよ。八割方は完成しているのだが、技術者たちが言うには魔力の消費が激しいらしくてな…… それを何とか抑えようと四苦八苦しているそうなのだ……」
作動する為に大量の魔力が必要になるからその魔力を抑える為にか…… あるよ!!
僕は直ぐに思いついたからマルメイさんに言ったんだ。
「あの、マルメイさん、その魔道具の材質は何ですか?」
「はいクウラ様。
「それなら、材質を
「ムム…… クウラ様、これで魔力の消費が抑えられますか? まあ、私には詳しい事は分かりませんが領地に戻って技術者たちに必ず伝えます」
こうして、デッケン子爵領の当面の問題である帝国対策の話も終わって、僕たちは昼食を取るために食堂へと移動したんだ。そこには……
レイラ嬢とそれを手伝った料理人たちの傑作がコレでもかっ!? っていうぐらいに並べられていたんだ。
「すっ、凄い!」
「何だ! この料理は!?」
「私も初めて見るぞっ!」
「オオーッ! あの日の再現がっ!」
最後の言葉はロッテンだね。この世界には馴染みの余りない【お造り】や、唐揚げ、天ぷら、豚カツの数々。レイラ嬢、かなり気合が入ってるね。
そこに、調理服を身に纏ったレイラ嬢がシェフよろしくやって来て挨拶をしたんだ。
「皆様、お話合いは終わりましたでしょうか? 本日は拙いワタクシの手によるものですが、今できる最高の料理の数々をお出ししております。どうぞご賞味下さいませ。夕食はまたこの料理たちとは違った趣のものをお出しする予定でございます」
その言葉にみんなは黙ったまま拍手をして、代表してカルダンさんがレイラ嬢にお礼を述べたよ。
「レイラ様…… 見ただけで分かる素晴らしい料理の数々。このカルダン、感嘆に堪えません。本日の昼食と夕食は心して食したいと思います。本当に有難うございます」
「「「有難うございます!!」」」
うん、見る人が見れば分かるんだね。この手の込んだ、更には愛情をも込められた料理の数々。
僕は待ちきれないんだけどまだご婦人方が来ていない。待てを言われた犬のようにヨダレが垂れないように我慢しながら僕たちは待ったんだ。そうして待つこと五分…… この五分がとてつもなく長く感じたのは僕だけじゃない筈だよ。
勿論だけど、僕はレイラ嬢がせっかく作ってくれた料理の数々が劣化しないようにスキルを使用していたよ。
「お待たせして申し訳ありません、皆様」
そう言ってマミーさんとユーリさんがやって来て席に着いた途端にカルダンさんが待ちきれないように立ち上がり、
「うむ、皆が揃ったようなので僭越ながらこのカルダンが食事の前の挨拶をさせて頂く。先ずはこのような素晴らしい料理を作って下さったレイラ様に感謝を! そして、数年後にはこの地でこれらの料理が当たり前に食べられるようになるであろう事に嫉妬を込めて、さあ、頂こうっ!!」
そう言ったけどいや、勿論だけどカルダンさんの所の料理人さんたちにも伝えてあげるからね。
料理は大絶賛され、またもやレイラ嬢はマミーさんとユーリさんに質面攻めにされてたよ。
昼食では食後のデザートは出さなかったんだけど、夕食の時にはレイラ嬢の渾身の作、僕の大好物であるティラミスが出てきたからね。
これは派閥内の領地だけで販売する事になりそうだよ…… 陛下にも献上はしないと誓約してたけど良いのかな?
そうして翌日になってマルメイさんとライ師範は子爵領へと戻り、カルダンさん夫婦もクーフさん夫婦と自領へと戻る事になったんだ。
僕たちはまだ訪れてないグラシア伯爵領へと一緒に着いていき、水の都と呼ばれるグラシア伯爵領都を堪能してから王都へと戻ったんだよ。
今回の旅は初めてだったけどみんながとても有意義な経験を積めて良かったと思ったんだ。
そして王都では夏季休暇の残りをみんなが僕の箱庭で過ごして、それぞれが訓練や勉強に励んだんだ。
そして、新学期がやって来たんだ。
新学期早々にあんな事に巻き込まれるとは僕は思ってもみなかったよ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます