第36話 ヤサイ村

 それからはネリーさんを交えて話し合いになったんだけど。僕がセバスやユルナから何も教えられて無いという事に二人は怒っていたよ。


「兄者も姪も何をしておるのだ!! これはロッテン、お前の怠慢でもあるぞ!!」


「なっ!? あ、姉者! 私が何故?」


「馬鹿者! 兄者も姪もクウラ様が学園に入られる前から侯爵領に顔を出しておったのだろう? その時にクウラ様に何処までお話しているのか確認を怠ったのはお前だっ!!」


 うん、中々の姉弟きょうだい喧嘩だけどそろそろ止めないとね。村の視察に来た訳で姉弟喧嘩の視察に来たんじゃないからね。


「はい、ストップだよ二人とも。セバスやユルナは何かしらの考えがあって僕たちに何も言ってなかったかも知れないし、そうじゃないかも知れない。でも、今から二人がそれを教えてくれるんでしょ? それなら何も問題は無いよ。それと、村の視察もしたいからかいつまんで教えてくれたら嬉しいな」

 

 僕の言葉に二人ともハッとした顔をして謝ってきたよ。


「も、申し訳ありません、お見苦しいところをお見せしました」とネリー。

「そうですね、兄者に代わりまして私から説明をさせて頂きます」とロッテン。


「うん、それじゃお願いするよロッテン」


 僕の言葉に自分たち一族の事を話して聞かせてくれる事になったよ。


「先ずはクウラ様、我らはその昔【影の一族】と呼ばれておりました。公式には既に影の一族は居ない事になっておりますが、それは先先々代のハイヒット侯爵様のお陰でございます……」


 そうしてロッテンが自分たちの一族について語り始めたんだ。


「我らが一族はその名が示す通り、歴史の影の中を彷徨って参りました…… そして、その我らの歴史を快く思わなかった王族が当時居ました。その王族の命令により、我ら一族が光の一族に狙われる事となったのです。光の一族とは表舞台で華々しく活躍し、常に王族の身辺警護を司ってきた一族でして、今も陛下のご家族、ご親族の側に多く仕えております。その力は強大で、我らは滅びるしかないと当時の族長は諦めていたのですが、先先々代のハイヒット侯爵様が陛下に願い出られて、我らが住んでいた土地もハイヒット侯爵領となったからには彼らも我が領民だと進言して下さり、また当時の陛下もそれに賛同なされました。なので、我らを滅ぼそうとしていた陛下のご親族の方も渋々ではありますが手を引かれたのです。何故、先先々代の侯爵様がそこまでのお力(陛下に進言し聞き入れられる)をお持ちだったのかは我らは存じませんが、それ以来、我らは代々の侯爵様に誠心誠意お仕えする事を魂に刻み今日まで過ごしてまいったのです……」


 うん、そうだったんだね。えーっと、先代が母上でその前が伯父上、でその前の侯爵様って僕のお祖父様になるのか…… 何となくだけどハイヒット侯爵になる人は凄い人ばかりの気がするよ。僕につとまるかなぁ……


「ですのでクウラ様。現在のハイヒット侯爵領の主要な仕事の長は全てが元影の一族の者たちが勤めております。村人たちの中にも数多くおりますし、また王国内の敵対派閥にも我らの手の者を配置すると共に、隣国の帝国にも間者を放っておりますのでご安心下さいませ」


 ってネリーさんが締め括るけど、いや【元】だよね? もう影の一族じゃないんだよね?


「フフフ、確かに我らは既に影の一族ではございませんが、せっかくの技術を腐らせるのも勿体無いと思いまして、今はハイヒット侯爵領の為の諜報組織【メリエイチ推し神セブンMIG7】として活動をしております」


 うん何故か母上の名前が入ってるけど誰が命名したのかな?


「先先々代の侯爵様が組織名を命名して下さいましたよ」 


 なるほど、お祖父様は親バカだったと……


 まあ諜報組織については後日に報告してもらう事になったんだ。それからネリーさんの家を出て村の中を散策した後に、畑の方も散策する事になったよ。


「この村には何人が住んでるの?」


「はい〜、現在は農家が三十世帯、老若男女合わせて百二十八名、それと独身建屋に住む農業に従事する者が男女合わせて二十名、商店が五店舗あって道具屋、鍛冶屋、肉屋、八百屋、薬屋で全部で二十二名、役所で勤める者が十二名、門番などの常駐兵士が二十名となっております〜」


 外に出た途端にゆるふわモードになったネリーさんがそう教えてくれた。二百二人かな? ネリーさんを入れれば二百三人になるのか。で、見てみると道具屋も鍛冶屋も肉屋も八百屋も薬屋もとても大きな建物だったよ。土地があるからかな? 八百屋さんなんて前世でいえば倉庫スーパーぐらいの広さに見えるんだけど……


「このように各店舗に広さを設けているのは備蓄倉庫も兼ねているからなのです〜。現在は魔力石を利用した魔道具が多くデッケン子爵領で開発されており、温度や湿度の管理も完璧なので〜、野菜類もかなり長持ちするようになりました〜」


 ネリーさんの説明を聞きながら店内を見て回る僕たち。そこに売り場の責任者さんが駆け足でやって来た。


「村長、それに代官様、こちらのお子様たちは?」


「おう、サダルさん、王立職能学園の学生さんたちでな、夏季休暇中に色んな場所の様子を見てみたいという事で、うちの領地に視察に来られたんだ。ほら、こちらのお二人は隣の領地を治めておられる家のお子様たちだよ」


 ロッテンの返答にサダルさんは感心したように言うよ。


「なんと、勉強熱心な! ああ! それならば歩いて移動されてお疲れでしょう。実は開発中の果汁を使ったジュースがあるのですが飲んで感想をお聞かせ願えますか?」


 それは有り難いね。僕たちは是非お願いしますと頼んだんだ。ちょうど喉が乾いてたしね。


「こちらでございます。着いて来てください」


 サダルさんに案内されたのは果物コーナーで、そこではお姉さんが手で紐を引っぱってる道具があったんだけど、手動式ミキサーのようだね。


「もっ、もう少しで、出来ますから、ちょっと、だけ、待って、下さい、ねーっ!、! 出来たっ!!」


 中には少しドロッとしたレモンイエローな液体が入ってるよ。うん、ミックスジュースだね。


 氷の入ったコップに人数分そそいでくれて僕たちは一気に飲んでみた。


 前世のミックスジュースを知ってる僕からしたら少し甘みが足りないかなと思ったけど、他のみんなは美味しいって喜んでるよ。


「中の果物はオレンジだけなんですね。バナナも足してみたらもう少しまろやかになると思いますよ」


 思わずそう言ってしまったんだけど、サダルさんのそうかという嬉しそうな声と、お姉さんのまた紐を引っぱっらないといけないの? という悲しそうな顔を見て良い事を言ったけど、悪い事をしたような気分になってしまったよ。ゴメンね、お姉さん……


 それからもう一度奮闘してくれたお姉さんによって改良されたミックスジュースはみんなからも好評で、今後はこれを瓶詰めして売って行く事にするって決まったんだ。

 日持ちはあまりしないから作る量は調整するらしいけどね。

 その辺りは僕が領主になったら改良するつもりだけどね。

 ただ、お姉さんの使ってる手動式ミキサーを借りて箱庭に隠れて戻り職人ハニワに見せたら、紐を引っぱる形式じゃなくてハンドルを回す形に改良してくれたから、その改良された手動式ミキサーを三つほど作ってもらい、戻ってお姉さんに手渡したよ。

 引っぱるよりは楽だと思う。


 そして、村から出て遂に畑に向かう事になったんだよ。


「今の畑では〜、夏野菜の収穫期であると共に〜、秋野菜の植付けも行ってます〜。どちらもご覧になりますか〜?」


 そのネリーさんの言葉に僕たちは大きく頷いたんだ。で、畑エリアに来たんだけど、写真や映像でしか見たことないけど、ここは北海道ですかっ!?

 っていうぐらい広大な畑が目の前に広がっていたんだ。


「凄く広いですわ!! この畑があるからこそ、また畑で作った作物をちゃんと保管出来る倉庫も備えているからこそ、不作の年にもハイヒット侯爵領は大丈夫なんですのねっ!!」


 レミー嬢が畑の広さを見て納得したように言ってるよ。


 うん、確かにこれだけの広さがあるならば凄いよね。


「そうなんです〜。でも今は〜、倉庫の備蓄も多すぎて〜、中には腐らせてしまう野菜もあるんです〜…… そこをどう改良するかが今後の課題なんですよ〜。まあ、腐らせてしまった野菜も〜ちゃんと肥料として再利用はしてますけどね〜」


 畑を移動しながらネリーさんが説明をしてくれる。今歩いているのは夏野菜エリアで、トマト、キュウリ、オクラ、早稲、なんかを収穫してたよ。


 そして、秋野菜エリアではジャガイモ、サツマイモ、更には僕が心から欲していたヤマト芋もあったんだ!!


「うわーっ!? やった、あったよ! 凄い! ネリー村長、この芋の種芋って少し分けて貰えませんか?」


 僕が思わず興奮してそう聞くと、ネリーやロッテン、それに他の三人も驚いて僕を凝視してるよ。


「僕、この芋が大好きなんですっ!!」


 だけど、この言葉が不味かったみたいだよ…… 次のネリーさんの言葉に思わず固まっちゃったよ。


「クウラ様は〜、どこでこの芋をお食べになられたんですか〜? この芋は〜、今年になって初めて〜、この王国に持ち込まれた筈なんですが〜……」


 うーん…… どうしよう、どう答えたら良いかな…… 

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