第35話 ハイヒット侯爵領(二)

 翌朝、僕たちは起きて準備を整えて馬車まで移動したんだ。

 朝食と昼食は領都内のロッテンオススメのお店で取ることになってるんだ。楽しみだよ。


 おっとその前にレイラ嬢が箱庭で成長してきた証を教えておこうと思うんだ。スキルを授かったばかりのレイラ嬢のスキルは、


【生活保護魔法】 スキルランクd

生活に関するありとあらゆる事を保護する魔法を使用出来るが、全てを使用するには成長させる必要がある。 成長させる為には使って使って使いまくるのが一番である。 今は授かったばかりなので、【支援金(返済必要なし)】しか使用出来ない。【支援金】は一回につき銀貨一枚が出てくる。使用制限があり、一日二回しか使用出来ない。


【家政婦の隠密】 スキルランクd

物事の重要な局面に誰にもバレずにその場に居られる能力。使えば使うほど成長し、スキル【家政婦シリーズ】を得ていく。


 って感じでスキルランクがdだったけれども、毎日使い続けてきたから今は、


【生活保護魔法】スキルランクc


【支援金】

 一日二回発動可能、一回銀貨二枚

【管理栄養学】

 生活を保護する為に必要な知識

【滅菌魔法】

 菌、ウイルスを滅する


【家政婦の隠密】スキルランクc


【家政婦はイタ】

 物事の重要な局面に居合わせる

【家政婦のムタ】

 家事全般だけでなく全てのジョブを卒なくこなす

【家政婦のシバ】

 食材を見て料理を考えつきその腕は一級品


 こんな感じなんだけど、遂にランクがcになったんだよ。凄いよね! でも一つ問題があると思ってるんだ……


 僕のように前世の記憶がある人には分かるよね?


 そう、家政婦シリーズだよ…… 大丈夫なのかな、こんな感じで……

 あと出てないのは一つぐらいだよね? コレってランクがbになったら出てくるのかな? ではその後はどうなるんだろうね? 

 それに最後のシバは人名だよ? とあるテレビ番組で超がつくほど有名になったシバさんがスキルって…… 


 でもそのお陰でとても美味しい料理を食べられます。そう、今やレイラ嬢の料理の腕はこの世界のプロの料理人たちをも唸らせるレベルなんだよ。だから昨日はレイラ嬢の周りには料理長を筆頭にして料理人さんたちがひしめいていたんだけどね。

 みんな真剣に聞いてメモを取っていたからね。そう言えば料理長が今日の視察が終わった後に相談があるって僕とレイラ嬢に言ってきてたよね?

 二人で何だろうって思ってたんだけど、今は視察に集中しようって事をレイラ嬢と決めたんだよ。


「さて、それではクウラ様、レイラ様、レミー様、サーフ様、よろしいでしょうか?」


「「「「はい、お願いします!」」」


 僕たち四人が視察に向かい、ティリアさんとロートくんは侯爵邸で一部の侍女さんと雑務をこなす使用人さんたちと共にザン剣術の基礎を教える事になってるんだ。それも昨日の立食パーティーの時に決まったんだって。


 で、ハイヒット侯爵領なんだけど、領都の他に町や街はなく、村が二つあるだけなんだけどその村が広いんだって。


 何でも一つは野菜農家さんの集合した村で、もう一つは畜産農家さんの集合した村らしいんだけど、その二つで町や街を作る土地を確保出来ないぐらい幅を取ってるって話なんだ。

 そうそう結界の魔道具を五つ購入したのも、村自体に一つずつ、村の畑に一つ、畜産の飼育地にも一つで四つと領都に一つの合計五つだったそうだよ。


 今から行くのは野菜農家さんたちの村だよ。どんな野菜を育ててるんだろうね。前世と同じ野菜たちの中でも僕は箱庭にはない野菜を期待してるんだけど、あったらいいなぁ…… ヤマト芋。


「さあ、着きましたよ。ここがヤサイ村です」


 ロッテンの言葉に僕たちは馬車窓から見てみると立派な門があったよ。木とこれはひょっとして漆喰かな? 石壁よりは弱そうだけど、木だけよりは頑丈そうに見えるね。

 門番がロッテンに声をかけているよ。


「代官様、今日はどうされましたか?」


「おう、ヘイルよ。今日は視察に来たのだ。私ではなくあるお方たちだがな。村長は家かな?」


「はい、今の時間なら一仕事終えて家に居るはずです」 


「分かった、有難う。それじゃ入らせて貰うぞ」


 門番さんが門を開けてくれ僕たちは馬車のまま村の中に入ったんだ。中は居住区らしいんだけど、それでも庭付の家が多くてその庭でも前世で言う家庭菜園を殆どの人がやってるみたいだね。


「ロッテン、集合住宅みたいなのは無いのかな?」


 僕は疑問に思った事を聞いてみた。


「いえ、クウラ様。反対の窓をご覧下さい。そちらに独身で独り暮らしをしたい者たちが住む用にと集合住宅を建ててあるのです」


 ロッテンの言った反対の窓を見てみると木造だけど二階建ての一棟十六部屋ある建屋が五つほどあったよ。

 大きさから言えば一部屋の広さがそれなりに広そうだね。


 そしたら馬車が止まったよ。


「着きました、こちらが村長の家になります。皆様、降りて頂けますか」


 僕たちは馬車を降りて家の玄関前に横並びして立ったんだ。ロッテンが馬車を家の裏手にまわしてから戻ってきて、玄関にあるボタンを押した。

 この世界にも呼び鈴があるんだね。と僕が思ってたらレミー嬢がロッテンに聞いている。


「ロッテンさん、その突起は何ですの?」


 アレ? レミー嬢は知らないの? ん、レイラ嬢もサーフくんも不思議そうな顔をしてるよ。


「ああ、コレはうちの領地で試験的に導入しましたデッケン子爵領で開発された【客が来たのお知らせ】という名の魔道具になります。この突起を押すと家の中にある対の魔道具が反応して音を鳴らすんだそうです。今は村長の家に付けてあるのです」


 その説明に僕以外のみんなが感心したように聞き入ってたら、玄関の扉が開いて眼鏡をかけポニーテールの優しそうな女性が現れたんだ。


「は〜い、あらロッテンさん。おはようございます〜。こんな朝からどうされたんですか〜?」


 口調までユックリとした女性だったよ。


「ネリー、こちらは今回、視察に来られた王立職能学園の生徒さんたちでな。紹介したいのだが中に入れて貰えるだろうか? 皆様、こちらがこの村の村長のネリーです」


 女性村長さんなんだね。この広い村をまとめてるんだからきっと凄い人なんだろうな。


「まあ、まあ、王都から。遠い所からようこそ〜。どうぞ皆さんお入り下さい〜。あ、うちは土足厳禁なので入って直ぐに靴を脱ぐ場所がありますのでそこで靴をお脱ぎになってからお入り下さいね〜」


 おお! 土禁だ。箱庭の僕の屋敷と一緒だね。だからみんなも違和感なく靴を脱いでるよ。


「あら〜、皆さん慣れておられますね〜。うちの領地以外にも土足厳禁のところをご存じなんですね〜」


 スリッパを用意しながらネリーさんがそう言ったよ。僕たちは頷いて同意しておいたんだけど、ネリーさんはそうですか〜と微笑んで、こちらにどうぞ〜と案内をしてくれた。


 で、案内された部屋に入った途端にネリーさんの口調が変化したよ。

 

「それで、ロッテン。この方たちはどちら様だ? わざわざお前が案内するぐらいだ、メリエ様の関係者か? ああ、ご安心をこの部屋は防音、防視の魔道具を使用しておりますので。私はさきほどロッテンより紹介されました通り、この村の村長をしておりますネリーと申します。皆様の事を教えて頂けますか?」


 途端に出来るOLさんモードに入ったネリーさん。先程までは優しそうだったその眼鏡がキラーンと光っているよ。


 僕たちは驚きながらもロッテンに促されて自己紹介する事にしたんだ。


「はじめましてネリーさん。僕はビレイン男爵家のサーフと申します」

「はじめまして、わたくしはグラシア伯爵家のレミーでございます」


 サーフくんとレミー嬢の自己紹介を頷きながら聞いていたネリーさんが僕とレイラ嬢を見る。


「ネリーさん、はじめまして。僕はクウラと言います」

「はじめまして、ワタクシはレイラと申します。クウラ様の婚約者です」


 僕とレイラ嬢の自己紹介を聞いたネリーさんは僕たち二人の前に跪くと、


「クウラ様、レイラ様! ようこそお越し下さいました。まだ先の事かと思っておりましたが、こんなにも早くにお訪ねくださるとは! 村民一同で歓迎致します!! ロッテン、何故知らせを寄越さなかった?」


 と僕たちの事を名前だけで知ってたようでそんな風に言いながらロッテンを責めてるよ。


姉者あねじゃ、少しは驚いて貰えたかな?」


 えっと、ロッテンのお姉さんなの? いやいやいやいや、どう見てもロッテンより年下だよね?


 僕の疑問が顔に出てたみたいで、ロッテンが


「クウラ様、こう見えて姉者は既にさん……「ロッテン、死にたいか?」何でもございませんクウラ様。今の言葉はお忘れ下さい……」


 途中でネリーさんの呟きが聞こえたけど何て言ったかは分からなかったよ。殺気だけは凄まじかったけどね。


 そうか、セバスよりは年下なのは分かったよ。セバスは四十代だからね。ネリーさんは二十代に見えたけどロッテンより少し上の三十代なんだね。

 ロッテンが三十三歳だって言ってたから…… と何故か僕がそんな思考をしてたらネリーさんから冷気が飛んできてるよ。


「クウラ様、妙齢の女性の年齢を探るのは失礼な行いになるんですよ、気をつけましょうね?」


 うん、コレはヤバいヤツだ。僕は素直に頷いて思考を停止したんだ……


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る