第37話 チクサン村へ
僕は悩んでいた。すると……
「お待ち下さい、伯母様、その事はトップシークレットです」
ニュルンって僕の影からユルナが出てきてネリーにそう言ったんだ。
「オバサマって言うなーっ!!」
えっと、先ずはそこなのネリー?
「失礼しました、ネリーオバサマ」
ユルナ、ワザとだよね。ネリーのコメカミがピクピクしてるよ……
「フッ、フフフ、どうやら私の怖さを忘れたようね、ユルナ……」
何処からともなくとても切れ味の良さそうなナイフが二本、ネリーの手に握られていた。
「ウフフフ、ネリーオバサマ、私がいつまでも成長してないとでも……」
対するユルナの右手にも漆黒の刃のダガーが握られている。ダメだ二人とも我を忘れているよ。僕が止めに入ろうとした時に、セバスが現れて二人に言う。
「御前で何をしているのだ、二人とも!!」
セバスが一喝したんだけど、ネリーは逆にセバスに食って掛かるんだ。
「何を言ってるのよ、兄さん! クウラ様に必要な事をお教えもせずによくもノコノコと私の前に顔を出せたわねっ!!」
「ネリーよ、何を言ってるんだ。お前とロッテンでちゃんとクウラ様にはご説明をしたのだろう? それが一番良いと判断した私が褒められこそすれ怒られる謂れは無いぞ。この地で代官や村長をしてきたお前たちの言葉だからこそ重みがあるのだ。そんな事はわかっていると思っていたのだがな……」
出た、セバスのもっともらしい事を言って相手に罪の意識をもたせる理論。これにはユルナも良く泣かされてたよね。でもネリーは
「兄さん、私が悪かったわ……」
効いたーっ! チョロかったよネリー…… いや幼い頃からの刷り込みかも知れないね。やはり長兄であるセバスに一日の長があるようだね。
「さてそれではクウラ様、種芋でしたら余裕はありますのでお分け致します。どれほどご入用でしょうか?」
「そんなに沢山は要らないよ。五個ぐらいあれば十分なんだけど大丈夫?」
「はい、それぐらいなら何の問題もありませんよ。直ぐに準備しますね」
ユルナとセバスが現れてすっかりゆるふわモードを解除してしまったネリーは植付けをしてる農民に話をしにいき、そのまま種芋を受取り戻ってきた。
「はい〜、これでよろしいでしょうか〜」
「うん、有難う」
僕はホクホク顔で種芋を受取ったんだ。そのままアイテムボックスに入れたよ。あ、勿論だけどアイテムボックスの中には地球産のヤマト芋もあるんだけど、どうせならこの世界のヤマト芋を食べてみたいっていう僕の気持ちがあって、食べ比べもしてみたいから種芋を手にいれたんだよ。
それから一通り畑を見てまわり、僕たちはチクサン村へと移動する事になったんだ。朝食はまだ食べてないけどチクサン村で食べるんだってロッテンが言ってた。
そういえばヤサイ村には食堂が無かったよね。
「ヤサイ村では村の共同食堂しか無いのです。みんな切りの良いところまで仕事をしてから食事をするので、時間がバラバラになりますから、手の空いた者が共同食堂でオニギリなどを作って、それを食べるという形になっております」
ロッテンがチクサン村へと向かう途中でそう教えてくれた。ちなみにチクサン村へはヤサイ村の畑から歩いて向かっているんだ。
乗ってきた馬車はユルナとセバスが取りに行ってくれてるよ。
「さあ、こちらがチクサン村でございます。ザーバン、久しぶりだな。入るぞ」
「おう、ロッテンさん。視察かい? 村長ならいつもの店で飯を食ってると思うぞ」
「そうか、私たちも行こうと思ってたんだ。ちょうど良いな」
僕たちも会釈しながら村に入った。それからロッテンの案内で食堂へと向かう。
「フフフ、ここが私のオススメの店です。少し遅くなりましたが、朝食を食べましょう」
【食事処 いっぱい】っていう名前のお店に僕たちは入ったんだけど、店の中はまばらに人が座っていて、ロッテンを見てみんなが会釈してるよ。
「村長、ここにいたか。今日は王立職能学園から学生さんたちがうちの領地に視察に来られてな。今から食事をしてその後に案内しようと思っているんだ、かまわないか?」
ロッテンが一人の男性にそう声をかけてるよ。口いっぱいにご飯を入れてるその男性はロッテンの言葉に僕たちの方を見て頷いている。
「それでは皆様、村長の許可もおりましたし食事に致しましょう。タマリ、いつもの定食を人数分たのむ」
「はーい、ちょっと待っててねー、ロッテンさん」
ロッテンの注文を受けて奥からお姉さんの返事があった。暫く待つと大きなプレートにご飯、肉、野菜が盛られたものが届く。
「熱いから気をつけてねー。当店自慢のステーキプレートだよー。お野菜は隣のヤサイ村から今朝、届いた新鮮なサラダだよー。ご飯は新米のコシツヨシだからねー」
肉が乗ってる部分は鉄板だったよ。全部がミディアムレアに焼かれていて、上にかかってるソースは玉ねぎのみじん切りにこの匂いはもしかしてポン酢? うん、ポン酢だ。さっぱり食べられて良さそうだね。
僕たちは全員が夢中で食べたんだ。野菜サラダもとても美味しい。ドレッシングもポン酢にゴマ油と七味が軽く入ったちょっとピリ辛だけど子供でも食べられるぐらいの辛さだった。
「とうですか皆様? 私はこのステーキプレートがイチ推しなんですが?」
「とても美味しいですわ! このお肉の焼き加減なんてうちのシェフを修行に来させたいくらいですわ!」
レミー嬢が絶賛だよ。
「このソースもあっさりとして肉の脂の重みを消してくれてますね」
さすがレイラ嬢だよ。
「美味いです! うちの領地に出店して欲しいなぁ……」
サーフくん、それは難しいかも知れないよ。この地だからこその味だと思うんだ。
「皆さん沢山褒めて下さって有難うございますー。でも出店は難しいでくねぇ…… 野菜は新鮮なまま、お肉も傷まないような輸送手段がない限りは無理ですねー」
お姉さんの言葉にガックリするサーフくん。まあ、その手段もあるんだけど今はまだ無理だね。それよりも将来の為に何人かの料理人をお姉さんに弟子入りさせておく事をオススメするよ。
って後でサーフくんに忘れずに伝えよう。
「タマリよ、今日もいつも通り美味しかった。また寄らせて貰う」
ロッテンが会計をしてお店を出た僕たちの前には馬車が届いていたよ。
「皆様、お乗り下さい。放牧地は広くて馬車でなければ回れませんので」
セバスが御者をしてるよ。僕たちはその言葉に馬車に乗り込んだんだ。
「それでは先ずは兎の放牧地へと向かいましょう」
えっ? 兎も飼育してるの? 僕と同じようにみんなの顔が驚きで固まってるよ。
「セバス、兎だと穴を掘って逃げちゃうんじゃない?」
僕が疑問に思った事を聞くと、セバスが意味ありげにフフフと笑う。
「百聞は一見に如かずですよ、クウラ様。兎の放牧地をよーくご覧になってその秘密を解き明かして見てください。皆様もですよ」
よーし!! 絶対にその謎を解くぞー!
って僕たちは気合が入ったんだよ。
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