第23話 剣術道場は立派でした

 翌朝だよ。僕たちの乗る馬車の周りをデッケン子爵が率いる軍馬部隊が取り囲んでくれてるんだけど…… 物々しいよね。

 僕たちに着いてくれてる護衛さんたちが、


「あの、自分たちって必要ですか?」


 なんて朝から聞いてきたぐらいだよ。


「クウラ様、何だか大事になってしまいましたね」


 レイラ嬢にそう言われたけど、僕も本当にそう思う。出来れば兵の皆さんは別で移動して欲しかったんだけどね。 


「クウラ様、レイラ様、レミー様、サーフくん、ロートくん、何があっても我が領兵がお守り致しますぞ」


 そう言うデッケン子爵だけど、ここは子爵領内だし盗賊なども出ないとの事。

 魔物も定期的に領兵を率いて狩っているらしいのでほぼ出ない。なので何事もなく領都にたどり着いたんだ。


 そこで領兵さんたちは詰め所に戻り、デッケン子爵と僕たちだけでティリアさんの実家に向かう事になったよ。


 で着いたんだけど、目の前にはドドーンッ!! ていう感じの大きな門構えの前世で言うお屋敷が建っていた。

 その大きな門は開かれていてそこから熱気がムンムンと外に漂ってきているんだ。

 気にせずに中に入るデッケン子爵に続いて僕たちも馬車ごと中に入ると、前世で本で見た事のある剣道着と同じ物を着た人が僕たちの方にやって来た。


「領主様、ご無沙汰しております。街の方は大丈夫でしたか? それとも救援要請でしょうか?」


「ハッハッハ、久しぶりだなジン殿。いや、救援要請ではない。街の方はとある方々によって私が向かった時には既に平和になっていたのだ。なので心配はない。で、その街にティリア嬢のご学友たちが居られてな。案内を兼ねてここに一緒に来たのだよ」


 ジンと呼ばれた人はオオッと目を見開き、


「俺の妹に勝ったというクウラ様とそのご婚約者のレイラ様、それにお隣ビレイン男爵家のサーフ様に、そのご親戚に当たるロートくん、更にはグラシア伯爵家のレミー様ですね。あちらの馬車に居られるのですか?」


 そう大きな声で言って僕たちの馬車の方を見たよ。窓を開けてるからその様子が分かった僕たちは馬車から降りる事にしたんだ。

 先ずは僕が降りてレイラ嬢とレミー嬢をエスコートしてから、サーフくん、ロートくんの順番に降りたよ。


「初めまして、僕の名前はクウラ・ローカスです。ティリアさんとは親しくさせて貰っております。今回はお言葉に甘えてご招待を婚約者と共に受けさせていただきました。よろしくお願いします」


「初めまして、クウラ様の婚約者でレイラ・ハマースと申します。ご招待、有難うございます」


「初めまして、グラシア伯爵家のレミーと申します。ティリアさんとは学園で切磋琢磨しております」


「初めまして、ビレイン男爵家のサーフです。今回はティリアさんのお言葉に甘えてやって来ました。よろしくお願いします」


「は、初めまして。僕はビレイン男爵領で実家がカッシールという商会を営んでおります、ロートです。よろしくお願いします」


 僕たちの挨拶をニコニコと聞いていたジンさんも、


「皆様、ようこそお越し下さいました。父も母も皆様がお越しになるのをとても楽しみにしておりました。もちろん、俺もです。なにせ、あのお転婆で同年代の子供たちをみんな竹刀で叩き伏せ恐れられてる妹が、目をキラキラさせながら同い年の友人が出来たと言っておりましたので。それに、クウラ様は妹に勝ったとか。我が妹ながらその天賦の才は俺も両親も認め、また妹も努力を怠らずに稽古をしてきたのを知っておりますので、その妹に勝ったというクウラ様の事は母が特に心待ちにしておりました。さあ、立ち話もなんですから道場へと参りましょう。むさい場所なのでご令嬢がたには失礼に当たるかも知れませんが、両親もティリアも今は道場におりますので。領主様はどうされますか?」


「うむ、私も久しぶりに息子の稽古を見学させて貰いたいのだが、いいか?」


 その言葉に頷いてティリアさんの兄であるジンさんの案内で僕たちは道場に向かったんだ。


 道場は二棟建っていて、


「コチラの少し小さな道場では五歳から十三歳までの年少組が稽古をする道場となっております。指導はうちの師範代が三名ついて行っております」


 と小さな方の道場を指差してジンさんが教えてくれた。入口から少し見させて貰うと、師範代の方の指導の元に、五歳から七歳ぐらいの子たち、八歳から十歳ぐらいの子たち、そして十一歳から十三歳の子たちと別れてそれぞれが指導を受けていたよ。

 道場は小さな方でも六十畳ある広さだったよ。


 そして、大きな方の道場に案内されると、中からは気合の声が響いている。

 

「近隣の迷惑になるといけないので、壁は音を吸収する素材を使っているのです。ですが、中はかなり煩いのでお覚悟を」


 そう言われ、僕たちは意を決して道場の玄関に足を踏み入れた。


「ウオーッ!!」「トリャーッ!!」「ていっ!!」「エイヤーッ!!」「うぉりゃーっ!!」


 様々な気合の声が僕たちを包み込んだよ。


 うん、確かに煩い…… けれども決して不快な感じはしない。みんなが真面目に剣に向き合っているのがよく分かる。

 大きな道場は百二十畳で小さな道場の倍の広さらしいけど、それでも何人かは座って見取り稽古をしなければならないほどの人数がいる。


 その中でティリアさんが居る場所を真っ先にロートくんが気がついたよ。


「凄いです! ティリアさんがあんな大きな男性を相手に一歩も引けを取ってないですっ!!」


 言われて僕たちもそちらを見ると、確かに僕たちよりも歳上の、身長も百八十センチぐらいある男性を相手にティリアさんが竹刀で圧倒していた。


 で、玄関でボウッとそれを見てしまっていた僕たちにジンさんが笑いながら声をかけてくれた。


「ハハハ、ロートくん。妹の相手をしているのはこの道場で稽古をしている中では師範代に次いで段位の最も高い者なんだよ。それでも妹には勝てないようだね。学園に行く前はあの者は妹に勝っていたのだが。さあ、それよりも皆様、履物を脱いでお上がり下さい。両親を紹介いたします」


 言われて僕たちは慌てて靴を脱いで、僕は自然にそこにある下駄箱に靴を入れ、そして上がる際には神棚に向かって正座をして礼をしていたんだ。前世の本で読んだ知識を実践してみたんだけど、それを見たジンさんが感心してくれたよ。


「ほう? クウラ様は道場は初めてではないのですね。作法をご存知のようだ」


 その言葉に他のみんなも僕の真似をしている。良かった、違う世界でも作法は同じだったよ。どんな知識でも頭に入れておいて良かったよ。


 それから道場の端を通り、神棚の下の場所で正座をしてみんなの稽古を見ているご両親の元に案内されたんだ。


 僕たちはご両親の真正面に案内されたので、正座をしてジンさんが紹介してくれるのを待ったよ。


「師匠、ティリアのご友人たちが本日、やって来て下さいました。クウラ・ローカス様、ご婚約者のレイラ・ハマース様、ティリアの学友である、レミー・グラシア様、サーフ・ビレイン様、ロート様です」


 ジンさんがご両親に僕たちを紹介すると、


「皆様、ようこそお越し下さいました。ティリアの母で道場では刀技を指導しております、メイリアと申します。お膝を崩して楽な姿勢になって下さいね」


 とティリアさんのお母さんが名乗ってくれて、お言葉に甘えて膝を崩すと、


「ようこそ、参ってくださった。ティリアの父で剣技を指導しておるザンと申します。むさ苦しい場所での挨拶で申し訳ない。だが、ここがティリアが産まれ育った場所でもあるのでご容赦願いたい」


 とティリアさんのお父さんも名乗ってくれたんだ。僕たちも再び正座をして、お二人に


「よろしくお願いします!!」


 と頭を下げたよ。すると、ザンさんが立ちあがってパンパンと大きく柏手かしわでを打って稽古中の人たちの注意を集めた。


「皆、一度、休憩を入れよ。これよりジンとティリアのご学友であるクウラ様との試合を行う。心して見るように」


 えっと…… 聞いてないですけど……


 僕の心の動揺を見透かして、レミー嬢たちはクスッと笑っているけれど、レイラ嬢が


「ウフフフ、クウラ様、しょうがない事ですわ。こうなる事も可能性としては考えておられましたでしょう」


 と言うので僕もしょうがないかと立ちあがったんだ。


「来て早々にこうなって申し訳ない、クウラ様。父は言い出すと聞かぬので、一手、ご教示願います」


 僕の横に立ったジンさんがコソッと言ったので、僕は軽く頷いてからよろしくお願いしますと頭を下げたんだ。


 それから竹刀を選ばせて貰い、僕とジンさんは道場の中央で相対した。


「楽しみだわ〜。僭越せんえつながら私が審判をさせて頂きますね、クウラ様」


 そう言ってメイリアさんが僕たちの側にやって来た。


「それでは、互いに礼! 構えて! 始めっ!!」


 メイリアさんの合図と同時にジンさんから尋常じゃない闘気が僕に向かってきたよ……


 強い! ティリアさんよりも!!


 僕は引き締めていた気を更に引き締め直したんだ……

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