第24話 参りました……

 ジンさんの踏込みは鋭く、早く、的確だった。その全てがティリアさんを上回っている。

 アレ? ティリアさんってランクSS【刀神】だったよね? ジンさんも同じようにランクSSスキルを授かってるのかな?


 僕はジンさんからの斬撃(竹刀)を躱しながらも疑問に思った事を考えている。けれども、集中してないと何度か身体にジンさんの竹刀が掠っているので、思考を止めたんだ。僕の竹刀は掠りもしてないよ。


 僕はそこで奇策に出る事にしたんだ。純粋な剣技ではジンさんには敵わない。ならばと僕は拳聖に切り替える事にしたんだ。


 僕の心の中で【拳】に対して師匠と呼ぶ人は沢山いる。前世の話なんだけどね。

【ブレース・リー】【ジャキイチ・チェーン】【ソモ・サン・キンポー】【ヨーン・ピョ】【ジエット・リーン】【アニキダ・ムイ】【ミシェール・ヨーン】【和製ドラゴンこと蔵田矢頭秋くらたやずあき


 数え上げればきりがないぐらいいるのだけれど、入院中に見た彼らの映画の数々は僕の頭の中で鮮明に残っている。動けない身体でイメージトレーニングはバッチリだったし、箱庭にいる拳真ハニワたちは彼らの動きをトレースしてくれているんだ。

 けんというと皆は徒手空拳をイメージしてるみたいだけど、僕の中では刀・槍・棍・さいすい・三節棍・ヌンチャクなどの多彩な武器術もけんの中に入っているんだ。


 その中の刀の動きで僕はジンさんに対抗する事を決めたんだよ。

 何気に一番訓練してたしね。 


 僕の竹刀の持ち方が変わったのを見てジンさんが少し警戒している。僕は気にせずに攻め込んで行く事にしたよ。けんとうは攻守一体だからね。


 流れるように攻め込みはじめた僕の動きにジンさんは戸惑いながらもなんとかついてきてる。流石だよ。でも、今までの攻めと違って留まる事を知らない僕の攻めに段々と後ろに下がっていってたんだ。


 気がついたらジンさんはそれ以上下がれない道場の壁にまで下がってしまっていた。


「なっ!? いつの間に…… クッ、だがここからでも手はあるっ!!」


 そう言うとジンさんは居合の構えをとった。やっぱりそう来るよね。


 僕は闘気だけをジンさんに向けて飛ばす。今の僕の全力の闘気だよ。ジンさんの目には実際に僕が竹刀を振りかぶって斬りかかろうとしているのが見えた筈。そして、その思惑どおりにジンさんは幻の僕に向かって竹刀を抜いたんだ。


「斬剣【活殺自在刀】!!」


 ティリアさんの居合とは比べ物にならない僕の目にも辛うじてっていうレベルの斬撃が僕の幻を間違いなく斬った。

 でも、それは僕自身じゃない。僕は振り切ったジンさんの竹刀を持つ右手首を打ったんだ。


「なっ!! 確かに斬った筈!! いや、まさか……」


「それまで!! 小手一本! クウラくんの勝ち!!」


 メイリアさんの勝利宣言により、ジンさんは残心を止めて竹刀を収めて僕に向き直る。


「参った! 強いね、クウラ様」


 その瞬間に道場のみんながどよめいたよ。


「ウオーッ!! まさかジンさんが負けるとはっ!!」

「ホントにティリアちゃんと同い年なのか?」

「事件だ! これは事件だぞ!!」

「ザン剣術道場の竜虎の竜が敗れたぞ! 次は虎であるライ様の出番かっ!?」


「静まれーいっ!!」


 そこにザンさんの一喝が飛んでザワザワしていたみんなも静かになった。


「全く持って落ち着きのない弟子たちで申し訳ない、クウラ様。さて、それではコチラに戻って来ていただけますか。暫しの休憩を挟んで次は私と試合をして頂きたい」


 とザンさんが言うとそこに待ったがかかる。その待ったをかけたのは、


「アラ? ダメよあなた。次は私と試合うんだから。ね、クウラくん?」


 メイリアさんだった。いや、あの僕としては返答に困るのですが…… けれどもザンさんは苦虫を噛み潰したような顔をしてそれを了承してしまったんだ。


「ムッ、ムウ〜…… 仕方があるまい…… ちゃんと加減するのだぞ、メイリア」


「ウフフフ〜、私が今までに道場破り以外の相手に加減を間違えた事は無いでしょう、あ・な・た?」


 と〜っても不安なんですけどーっ。僕の心の声は届かずに、ジンさんが同い年ぐらいの門下生に声をかけている。


「ライ様、俺は負けてしまいましたがこのままじゃザン剣術道場が弱いって思われてしまいます。出来ればティリアのご友人たちに真骨頂を見せてあげてもらえますか?」


 それを見ながら存在感の無かったデッケン子爵が


「あのライが私の息子でございます」

 

 って教えてくれたんだ。だからみんながライ様って呼んでるんだね。

 そこにレイラ嬢とレミー嬢が名乗りをあげた。


「あの、もしもよろしければ、ワタクシたちにも稽古をつけていただけますでしょうか?」


「弱いなんてとんでもない事ですわ。わたくし、ジン様と双璧を成すライ様とお手合わせをお願いしたいですわ!」


 二人の令嬢から請われて困ったような顔をしながらもライさんが中央に出てきてくれたよ。


「えっと、ライ・デッケンと申します。お二人掛かりできていただけますか? いや、そうだな、ティリアちゃんも入ってくれるとちょうど良いかな?」


 なんて言い出したのには僕もビックリしたよ。僕でもこの三人が相手だと手加減ができないレベルにまでなってるっていうのに、ライさんは三人が相手でも手加減が出来るんだ。


 それまで黙っていたティリアさんが立ちあがってライさんに言ったよ。


「ライにい、後悔しても遅いからね」


「うわ、怖いなぁ、ティリアちゃん。うん、でも多分だけど大丈夫だよ」


 なんてノホホーンと返すライさん。これは見逃せないぞ!! 審判は引き続いてメイリアさんがするみたいだ。


 で、始めの合図と共に、三人の手から竹刀が飛んでいったよ…… えっ!? 僕にも見えなかったよ?


「それまで! 小手三本! ライの勝ちよ!」


 三人ともポカーンとしている。何をされたか分かってないからね。もちろんだけど僕も……


「いや〜、何とかなって良かった〜」


 って言いながらライさんは下がったけれど、僕は思わず


「待って下さい! 僕ともお手合わせをお願いできますか?」


 って叫んだんだ。けれどもアッサリと


「いや、もう無理です。疲れちゃったし、クウラ様なら真正面から対峙したら、私の剣の秘密を直ぐに見破ってしまいますから」


 って言ってニャって笑って躱されちゃったんだ。


「そうねぇ…… 手の内を晒さないのも戦法の一つだものね、ここは諦めてクウラくんは私と試合しましょうねぇ」


 ってメイリアさんに言われてしまったから僕も諦めたんだよ。


「クウラ様〜、アッサリ負けてしまいました〜」

「クウラ様、面目ございません……」

「強くなった私を見てもらおうって思ったのに……」


 三者三様に落ち込んでるから、僕も見えなかったんだって正直に告げて三人を落ち着かせたよ。三人とも僕でも見えなかった事にビックリしてたけどね。


 で、僕は今、メイリアさんの前に立っているんだけど……  


「ウフフフ〜、ひっさしぶり、ひっさしぶり! 私が試合をするのはひっさしぶり〜!!」


 なんて鼻歌を歌われてます……

 

 審判にはザンさんがついてくれてるんだけど、そこで衝撃のお話がメイリアさんから出たんだ。


「さあ! クウラくん、やるわよ〜! 親友のメリエの息子がどこまで強くなったのか、私に見せてちょうだいっ!!」


 っていきなり母上の名前が飛び出してきたんだよ。えっ!? 親友って? 何何、どういう事?


 と僕の心の中の動揺が治まらないうちに試合が始まり、メイリアさんの竹刀は僕の頭頂部を遠慮なく叩きました。

 

 で、今は元の場所に戻ってお二人と話をしてるんだけど、


「まだまだねぇ〜クウラくん。あの程度で動揺してちゃダメよ〜。常に心は冷静に、クールに保ってなくちゃ〜。メリエだったら毛筋ほどの動揺も見せなかったわよ〜」


 と僕の知らない母上のお話がポンポンと飛び出してきてます。確かに動揺してしまったのは僕が悪いので、素直に僕は


「はい、参りました……」


 って頭を下げたんだよ。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る