第51話 ハーメルくん、悪魔と契約する

 ワタクシ、一体どこに連れて行かれてるのでしょう?

 そう、クウラ様の婚約者ことレイラ・ハマースであるワタクシは現在、ハーメル様とその取巻きの方二名に目隠しされて連行されておりますの。

 でも、徒歩でございますからいい加減どなたかがお止め下さってもよろしいかと存じますが……


 そう思ったのですがどうやら誰にも見えて居ないようなのです。可怪しいですわ。そのような能力がハーメル様にあるなんて聞いた事がございません。日頃から公爵家だと自慢そうに仰っているハーメル様はご自身の能力を余すところなくご自慢なさってますから……


 それに取巻きの方の様子も今考えると変でしたわね。

 まるで何かに乗り移られているかのようでしたわ。それでもワタクシは焦ってはおりません。何かの時にはクウラ様に頂いたペンダントがございます。

 ワタクシは少しでもハーメル様の策略を知る為にこのまま囚われているフリをしなくては。


「よし、ここまで来れば大丈夫だな。それじゃあそろそろヤるか……」


「ハーメル様、僕に一番をお願いします」


「いや、ここはハーメル様の一番の下僕たる僕に!!」


「待て待て、落ち着け。順番だからな。この女を傷つけるのは先ずは俺様からだ!」


「はい、ハーメル様!!」

「分かりました! ハーメル様!」


「フフフ、どうだレイラ嬢。今からでも遅くはないぞ。クウラと婚約破棄して俺様と奴隷契約を結べば傷つけずにいてやるぞ? まあ契約を結べば俺様に逆らえなくなるのだがな」


 ハーメル様が自信たっぷりにワタクシにそう申し出てまいりました。まるでワタクシが奴隷契約を承認するのが当たり前かのように……

 ワタクシがそのような契約を承認する筈も無いという事をハーメル様は分かっておられないようですわ。


「ワタクシはクウラ様の婚約者ですわ。卑劣な申し出を受ける事はございません」


 ワタクシが静かにそう申しますとハーメル様は怒りを覚えられたようです。


「フンッ! いつまでその強がりが続くかな? おい、お前たち。やってやれ!」


「へへへ、良いんですか?」

「先ずは服を切り刻んでやる!」


 ご自分が一番にと仰っていたのはどうやら嘘だったようでございます。ワタクシはそれでも落ち着いて取巻きの方お二人を静かに見ておりました。

 その時でした。お二人が剣を抜き、振りかぶられた時にワタクシの大切な方がやって来られたのです。


「レイラ嬢、遅くなったね。ゴメンね、怖い思いをさせて」


 そうです、クウラ様です。必ずここにやって来られると思っておりました。ワタクシはクウラ様を万感の思いを込めて見つめましたわ。


「いいえ、クウラ様。必ず来られると分かっておりましたので、怖くは無かったですわ!」


 ワタクシの言葉にクウラ様は笑顔になられました。そして、キッと顔を引き締められハーメル様と取巻きの方を睨まれてこう仰られたのです。


「僕の婚約者を理由もなく連れ出して傷つけようとした事は許されない。僕はかなり怒ってるよ、ハーメル!」


 クウラ様がそう言われた時にハーメル様の様子が一変しました。


「グゲゲゲ、き、来たか…… お前がグルガ、ゼルガ、ダルガを滅した者だな…… やれやれどんな凄い者かと思えば、こんな子供にしてやられたのか…… あの三人も情けない……」


 グルガ、ゼルガ、ダルガとはクウラ様からお聞きしたデッケン子爵領に現れた悪魔の名でございます。何故、ハーメル様の口からそのようなお言葉が出たのでしょうか? するとクウラ様がその答えを教えて下さいました。


「なるほど、ハーメルくん…… 悪魔と契約したんだね」


「グゲゲ、その通りだ。この小僧は力を欲していたからな。とても操りやすかったぞ、グゲゲ。我が名はドルガ、先の3名などとは比べ物にならぬぞ。覚悟するが良い、悪魔殺しの小僧よ」


 ハーメルン様を乗っ取っているのでしょう悪魔はクウラ様にそう言って脅しをかけています。けれどもやっぱりワタクシのクウラ様は一味違いました。


「君たち悪魔は学ぶという事を本当にしないんだね。僕もあの時とは違い成長してるんだって考えられないのかな?」


 余裕たっぷりにそうお答えになるクウラ様にワタクシはウットリしてしまいます。


「レイラ嬢、危ないから箱庭に戻っていてくれるかな? 僕なら大丈夫だし箱庭から映写ハニワに言えばここでの光景が見れるからね」


 クウラ様にそう言われてはワガママをいう訳には参りません。ワタクシは素直にそのお言葉に従う事に致しました。


「畏まりました、クウラ様。どうかご武運を!」


 そう言って箱庭に戻ろうとしたワタクシにハーメル様の取巻きの方が逃がすかと仰って襲いかかろうとして来ますが、ワタクシは既にペンダントに魔力を通しております。なのでお二方はワタクシを捕まえる寸前で見えない力によって弾き飛ばされて行きました。

 それを見届けてからワタクシは箱庭に戻りました。


 箱庭に戻るとユルナお姉様がワタクシを抱きしめて下さいました。


「レイラ様、ご無事で良かったです。次からは直ぐに箱庭にお戻り下さいませ。私は心配で朝食と昼食しか食べられなかったんですから」


 フフフ、ユルナお姉様が冗談を仰っておられます。それでも抱きしめられた腕から本当に心配して下さったのは分かりますのでワタクシはちゃんと謝罪致します。


「ユルナお姉様、ご心配をおかけして申し訳ございません。でも少しでもクウラ様のお役に立ちたかったのです」


「ええ、分かっております。それでも、次からはお願いいたしますね」


「はい、ユルナお姉様」


 そして、既にユルナお姉様が映写ハニワさんをお呼びしてクウラ様の事を壁に映しておられました。

 今はハーメル様と睨み合っている状態のようでございます。


「お姉様、クウラ様は大丈夫でしょうか?」


 ワタクシの問いかけにユルナお姉様は満面の笑みでお答え下さいました。


「レイラ様、クウラ様ならば何の心配もございません。恐らくはあの悪魔は10秒もかからずに瞬殺される事でございましょう」


 ワタクシはその言葉にホッと致しました。そして、信頼を込めて壁に映るクウラ様をお見つめします。


 すると、どうでしょう。クウラ様が何事かを口にされるとハーメル様から黒い靄が立ち上り実態化致しました。あれがドルガと名乗った悪魔の本当の姿なのでしょう。靄が抜けたハーメル様はその場にバッタリとお顔から倒れ込まれました。

 きっとお鼻の頭を物凄く擦り剥いておられる事と存じます。

 お声が聞こえないのは残念でございますが、ドルガという悪魔がクウラ様に何かを言っているのが分かります。

 それにクウラ様もお答えになったようです。ドルガが怒り狂って人では無理な極大魔法の更に上、究極魔法をクウラ様に向かって放ったではありませんか!? 


「クウラ様!?」


 思わず声が出てしまい目を瞑ってしまったワタクシですが、ユルナお姉様がワタクシに


「レイラ様、クウラ様ならば大丈夫ですよ」


 と落ち着いた声音で仰ったので恐る恐る目を開けて見たら無傷で立っていらっしゃるクウラ様が目に飛び込んできましたの。

 いったいどうやってあの究極魔法から逃れられたのか。疑問に思いましたがクウラ様ならば当たり前とも思い、ワタクシはクウラ様の目の前で何事かを喚いているドルガを見ました。


 すると、その姿がパッと消えてなくなりましたの。思わずユルナお姉様を見ると、


「ウフフフ、さすがはクウラ様ですわ。有無を言わせずに消してしまわれたわ」


 と小声で仰ったのが聞こえましたの。消えたのがクウラ様のお力なのを確信しておられるようでしたわ。

 続きの映像を見ますとクウラ様はハーメル様と取巻きの方に手を当ててドルガと同じように消してしまわれました。

 クウラ様がお手を汚されてしまった!?


 けれどもそれが間違いでしたのはクウラ様がお戻りになってから教えて下さいました。


 ハーメル様の件はこれにて一件落着と相成りましたの。

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スキルにランクがある世界で、僕のスキルのランクは☓(バツ)でした!? しょうわな人 @Chou03

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