第10話 実技授業にて
僕の部屋は親が侯爵家という立場だからそれなりに広いんだけど一人部屋。伯爵家も一人部屋だけど、男爵家以下は二人部屋になるそうで、サーフくんは庶民の子と相部屋らしい。
けれどもその子はビレイン男爵領で親が商会をしている子らしくて、何故かその子も僕の部屋に来ていた。
うーん、謎が多いね。
「それでは、先ずはクウラ様の疑問にお答えいたしますわ」
レミーさん改めレミー嬢がそう口火をきった。
「
うん、僕の事を迎え入れる下準備の一環なんだろうけど、まさかハイヒット侯爵家に派閥があるとは僕も知らなかったよ。当主不在なんだし派閥なんて無いだろうと思ってたんだけど。僕がレミー嬢の言葉にそう考えていたら続けてサーフくんが喋りだした。
「クウラ様、うちの領地では商業が盛んで実はこちらの者は僕の
そう言って頭を下げるサーフくんにならってロートくんも頭を下げる。
そうか、母上が…… 僕は今でも母上やお会いした事はないけれど亡き伯父上に助けられているんだね。それはそうと……
「二人とも理由を教えてくれて有難う。でも、この学園では爵位なんか関係ないんだから、僕に丁寧語は不要だよ。友人として付き合ってほしいな」
僕は思ったままに素直にそう言ったんだけど、三人ともブンブンと音がするほどに首を横にふり、
「クウラ様、それは親の爵位のお話ですわ。クウラ様はハイヒット侯爵様でございます。私どもだけの秘密ではありますが、それを知ってなお友人のようにふるまるまうのは難しいですわ」
とレミー嬢が言うと、サーフくんも
「クウラ様、両親よりくれぐれも粗相のないようにと厳命されております。僕もレミー嬢もそしてこちらのロートも含めてもちろんクウラ様との友誼を深めたいとは思っておりますが、一線はひかなければ両親より勘当されてしまいます」
と言い出す。うーん…… 僕としてはこう、友達って気楽な関係なんだと思うんだけど。まあ、学園で生活していくうちに直してもらおう。
僕は心の中でそう考えて、それから三人に改めてよろしくねと伝えたんだ。それでその日は解散したよ。
そして翌日。先ずは学力試験があって次に実技授業の時間となったんだけど。
「よーし、それではみんなの実力を見る為に今から実技授業を行う。先ずは席の前後で対戦してもらう。ルールは簡単だ。魔法の使用は禁止、得意な得物での対戦だ。こちらに置いてある木の武器を使用するように。但しこの中に得意な得物がない者は申し出てくれ。先生が創造するから。この木の武器は特殊でな、当てても怪我はしないが当たった部分に赤い色がつくようになっている。当たり方によって色が薄かったり濃かったりする。だが安心しろ、付着した赤い色は対戦場から出ると消えるからな。対戦時間は二分間。赤い色が致命傷となる場所に色濃くついた時は先生の判断で対戦を止めるからな。それでは、先ずはレミーと後部席のグーズラそれぞれ武器を選んで対戦場の開始位置についてくれ」
ロール先生がそう言うとレミー嬢は木剣を手にし、グーズラくんは木槍を手にして一辺三十メートルほどで四角に区切られた場所に入る。
真ん中部分に凡そ三メートル離れて二本の赤線が引いてあるので、それぞれが線の前で待機している。
「よし、二人とも準備はいいか? それでは、始め!!」
グーズラくんは木槍をしごくように動かしながら先生の合図と共にレミー嬢に迫る。僕は真剣に見ようと思ったんだけど、それを邪魔する者がいた。
「おい、俺様と対戦する事がないようだから命拾いしたなバツ。だけどお前の対戦相手は俺の子分であるこのグロースだ。グロースは俺に劣るとはいえスキルランクCの剣士を授かっている。バツのお前では相手にならないだろうから、今のうちにグロースに手加減してくれと頼んでおけよ」
グレータくんだ。僕はその言葉を聞き流し、レミー嬢の対戦を見た。すると、スルスルといつの間にかサーフくんが僕の側に来ていたようだ。
無視する僕にキレようとしていたグレータくんとグロースくんだけど、サーフくんを見て言う。
「何だ、お前は。男爵家が俺様に何か文句があるのか?」
「おい、サーフ! グレータ様に逆らうなんて愚かな事だぞ。お前もグレータ様の派閥に入れ」
だけどサーフくんはそんな二人の言葉に冷静に対処したよ。
「二人とも、あちらに見える大人を良くみてごらん。学園長だよ。おそらくだけど授業態度も含めて今年の新入生を見ておられると思う。だから私語は謹んで真面目に対戦を観戦した方が良いよ」
サーフくんの言葉にサッと指差した方を確認した二人は捨て台詞を口にして僕らから離れていったよ。
「フンッ、バツよ。お前はグロースに負ける。負けたら俺様に従えよ!」
「グレータ様がせっかくお声をかけて下さってるのにバカな奴だ。僕がコテンパンにしてやるからな」
その言葉も僕は無視して、遂に決着がついたレミー嬢の対戦に惜しみなく拍手した。
結果はレミー嬢の圧勝だったからね。そういえばグーズラくんもグレータくんの取巻きの一人だったね。首の部分に色濃く赤色がついてるよ。レミー嬢、首チョンパなんて容赦ないね。
開始一分二十秒で決着がついたけど、レミー嬢は呼吸が乱れていない。うん、凄く鍛えているようだね。
こうして、次々と対戦が始まっては終わり、グレータくんの番になった。対戦相手はグレータくんの後ろの席の目立たない庶民の女の子、ティリアさんだったけど、先生に何かを言っている。先生はその言葉に頷きスキルを発動させたようだ。
見てみると先生が手にしているのは木刀だった。ティリアさんはそれを受け取ると対戦場所に向かう。そこでグレータくんが大声で宣言する。
「おい、庶民! 俺様が相手とは幸運だったな。苦しまずに一撃であの世に送ってやる!」
「コラ! 無駄口を叩くな、グレータ! ティリアは準備はいいか? それでは、始め!」
先生の合図にグレータくんはウオオーッと叫びながらティリアさんに迫る。大上段から木剣を振り下ろすけれども、ティリアさんは無駄な動きをせずに右前に進みながら木剣を躱し、手にした木刀でグレータくんの胴を打った。斬りあげる形なのでちょうどグレータくんの右下胴から心臓にかけて濃く赤色が浮かび上がる。
「それまで! ティリアの勝ちだ!」
ロール先生が宣言する。グレータくんは呆然となっているけど、先生の宣言にハッとなり喚き出した。
「待て! インチキだっ! この庶民め! 魔法を使ったな!!」
だけど先生がそれを否定する。
「見苦しいぞ、グレータ! あえて言ってなかったが、この対戦場では魔法を使用する事は出来ないんだ。お前は負けたのだ、潔く認めろ」
「バカな! 俺様はスキルランクB【剣鬼】を授かっているんだぞ! こんな庶民の、しかも女に負ける筈が!」
「いくら良いスキルを授かろうとも鍛えなければ意味が無いですよ、グレータくん」
ティリアさんが静かにそう言って対戦場から出てきた。何故か僕の方に来るよ。
「クウラくん、いずれあなたと対戦したいわ」
うーん、僕とですか、何で? 僕のハテナ顔を見てティリアさんは、
「フフフ、あなたからは強者の香りがするの。私、鼻は良いのよ」
と言って僕の前から離れて行ったよ。まあ、僕も同い年の子に負ける気はしないけれども、ティリアさんはまだまだ実力を発揮してないだろうから、対戦したらどうなるかは分からないね。
そして、僕の番になったけどグロースくん相手に開始二秒で決着をつけたとだけ言っておくよ。それを見て僕の自己紹介の時に失笑していた貴族の子たちが少し顔色が悪くなっていたようだけどね。
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