・Last Memory(まひる視点)



 変わらない日常に、本当はずっと変化を求めていた。私はずっと、逃げ出したくてたまらなかったんだ。



 生きている間に後何回、私は痛い思いをするのだろう。



 後何回、我慢をすればいいのだろう。



 今までに何度、もうここで諦めたらダメかな?と人生の終幕を望んだだろう。



 生きているだけで、健康な人以上にお金のかかる体。



 家族や親戚、友人に心配ばかりかけてしまう体。



 食べたい物を我慢しなきゃいけない体。



 どんどん短くなっていく腸。



 増えていく合併症。



 抗体が出来て使えなくなる薬。



 アレルギー反応が出て使えない薬。



 そこまでして、生きる事にこだわる理由が果たしてあるのだろうか……?



 そんな事を考えた事は数えきれないくらいある。


 正直、生きているのが怖かった。


 怖くて、痛くて、不安でたまらなかった。


 だから私は、覚悟を決めて飛び降りを決意したんだ。だけど、結果、痛手を負って目を覚ます事になり、両親や親戚に更なる心配をかける羽目になった。


 下手をしたら障がいを抱える事になっていたかもしれない、とお医者さんに言われて怖くなった事を今も良く覚えている。


 それから私は、確実に消える方法、中途半端に生き残らないように、消えるなら誰にも迷惑をかけないように、と夜な夜なネットサーフィンをしたりもした。だけど、確実だと思えて誰にも迷惑をかけない方法は見つからなかった。


 それならばもう、吹っ切るしかなかった。どうせどんなにあがいたって迎えは絶対に来る。これだけは生きている限り絶対だ。そう思ったら笑えるくらいになんだかとても気が楽になった。


 だからまさか、そんな自分がウエディングドレスを着る日が来るとは思いもしなかった。


 この病気を患ってから、結婚は難しいと思っていたし、病気持ちというだけで相手からも、相手の家族からも良い顔をされないだろうと思っていた。


 だから、どこかで自分に自信が持てなくて、相手に申し訳なく思えて、恋愛方面を避けるように生きていたように思う。


 結婚式のバージンロードで隣を歩くお父さんがあまりに緊張していて、歩き方にそれが出ているのがおかしくて、緊張感が和らいだ。


 結婚の報告を陽一としに行った時、両親が陽一が医者である事を知って、青ざめたのを思い出す。きっと私の存在は陽一の親戚から良い顔をされないだろうことを想像したからだ。私自身もそれに関しては覚悟をしていた。それでも陽一が自分を選んでくれたのだから、その事実だけを信じて生きていく覚悟を私も決めていた。


 陽一は、両親の前でも堂々としていて、頼もしく見えた。言葉にすると調子に乗ってしまうのでここだけの秘密だ。





 結婚式を終え、披露宴で、ゆうひくんと夕月が並んで座っていて拍手をしてくれているのが視界に映った。


 ゆうひくんは今だって飽きもせず、入れ替わった日々の事を思い出しては、私を持ち上げてくれるけど、私としてはそんな大それた事をしたつもりは全くない。


 ただただ目の前の事に精一杯で、自分勝手なところだってたくさんあって、弱音だって吐くし、泣いたりもする。


 ゆうひくんが言葉にする程の完璧超人なんかじゃ決してないし、強くも無い。


 それに、今日、この日を迎える事が出来たのは、紛れもなくゆうひくんの存在のおかげだ。


 彼が、今まで生きてきてくれていたからこそ、あの場所で出会ってくれたからこそ、入れ替わりだなんて摩訶不思議な体験をすることが出来たからこそ、今この瞬間にたどり着けたんだって思う。


 私はこうして、信頼出来る友人に恵まれて、人生を共にしたいと思える素敵なパートナーと巡り合う事が出来た。そう世界が一変したといっても過言じゃない。


 私の中の当たり前だった変わり映えしない日常を変えてくれたのは、どう考えたってゆうひくんの存在があったからだ。


 どんなに言葉を口にしたって、ゆうひくんは受け入れてはくれないけど。私は本当にそう思ってるよ。


 隣で堂々と立っている陽一と目が合った。



「幸せだね」



 そう言って笑えば、驚いた顔をした陽一がお日様みたいに笑って返してくれた。



「ああ。ここが終着点じゃない。ここから先ももっと幸せだからここで満足してんなよ!」

「それは楽しみだね」



 そう言って笑い合う。


 こんな日が訪れるなんて想像もしていなかったんだ。


 ゆうひくんのおかげで私の今がある事を知ってほしい。


 私が今幸せに笑っていられるのは、ゆうひくんのおかげなんだって気づいてほしい。



 キミという存在に心から敬意と感謝を。



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キミという存在に心からの敬意と感謝を。 えにし丸。 @enisi0

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