最終章:キミという存在に心からの感謝と敬意を。

・Memory01(ゆうひ視点)



 目が覚めると、僕は真っ白な空間に居た。カーテンで仕切られている。



(……保健室?)



「ゆうひ!?目が覚めたのね!?」



 僕の手を強く握り締めた女性は涙で顔がグチャグチャだった。



「……母……さん?」



 知ってる。僕が十九年間も見てきた母親の姿がそこにはあった。


 でも、それだとおかしい。僕は朝雛まひるとして橋から飛び降りたはずだ。それなのに、僕が昔から知っている母親が僕の手を握り”ゆうひ”と呼ぶのはどういう事なんだろうか。冷静に脳が思考を巡らせ、途端にさぁっと血の気が引いていくのが分かった。



「母、さん!!ぐっ……!?」



 全身が尋常じゃないくらいに痛い。頭までズキズキと疼く。



「待ってね!!今、ナースコール押したから!」

「ちがっ……、ゴホッ、ゴホッ」

「落ち着いて!大丈夫よ!無理して起きちゃ駄目!」

「違うんだ!……母さん!!教えて!女の子は!?女の子はどうなったの!?」



 僕が朝雛まひるとして命を断ったせいで、入れ替わりが生じて元の体に戻ったのだとしたら……まひるさんは……朝雛まひるとして死んでしまった可能性がある。


 僕は息が止まりそうだった。


 嫌な予感がバクバクと警鐘を鳴らすように心拍数を上げていく。怖くて恐くて、手がぶるぶると震えた。


 母さんを見れば、止まりかけていた涙を再びボロボロと流した。


 僕はその様子を見て、言葉にならなくて熱い涙が目尻から頬を伝っていくのを静かに感じた。唇がぶるぶると震える。



(僕は、なんて事をしてしまったんだ……)



 自分の犯した罪に、体の痛みすら気にならないくらいに絶望した。



「……貴方のおかげで、無事だったそうよ」



 母さんは震えた声でそう告げた。



「馬鹿ね。本当に馬鹿!でも、凄い事だわ。人の命を救ったのよ」



(僕じゃない。僕じゃないよ母さん)



 救ったのは、僕を救ってくれたのは、まひるさんだ。


 僕は涙が止まらなかった。枯れ果てるんじゃないかと思う程、止め処無く次々と溢れた。



「母さん、貴方が死んじゃうんじゃないかって……本当に怖かったのよ。凄いけど、もう二度としないで」



 母さんが力強く僕の手を握る。



(まひるさん、ごめんなさい。ごめんなさい、まひるさん)



 僕は彼女を苦しめてばかりだ。


 無神経にも、生きていてくれて良かった、なんて思ってしまった。


 彼女は生きていたく無かったかもしれない。

 それでも、僕は彼女が生きていた事実にどうしようも無いくらい安堵してしまった。


 それと同時に彼女に合わせる顔がない。それでも、彼女が生存していると分かった以上、何もしないまま元の生活に戻るわけにはいかなかった。



「貴方たちを見付けて救急車を呼んでくれた子に感謝しなさいね。ゆうひ、貴方の友達だって言ってたわよ。えっと、確か……昼中くん?ですって。分かる?」



 母さんの話に、初めはピンと来なかったけど、ああと思い出す。まひるさんと正門に居た男だ。


 そして不意に僕は僕に出来るだろう一つの事が思い浮かんだ。



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