・Memory06(まひる視点)
「なぁ」
不意に隣を歩く陽一がどこか神妙な面持ちで声をかけてきた。
「……なに?」
「なんかあった?難しい顔してるけど」
陽一の問いかけに私は思わず瞬きを二つした。そんな顔を自分はしていたのかと苦笑がもれた。
「……まぁ、話したく無い事なら無理して話さなくてもいいけどさ。出来ることがあるかは分かんねーけど、聞くだけ聞くぜ?」
「……ありがとう」
本当に優しい人だ。気にかけてくれる。気付いてくれる。この人がモテ無い事が私には理解出来ない。
「って言うか陽一さぁ」
「んあ?なに」
「いや……前に重い話は反応に困るとか言ってなかったっけ?」
「あ~……。って、なんだよ。重い話なわけ?」
質問に質問で返って来るとは思いもせずに、言葉に詰まってしまった。横からの視線が痛い。
「……ノーコメント」
「ほう。なら俺もノーコメント」
「あ!ズルい!」
「どっちがだよ」
陽一の意見はごもっともである。反論出来ずにぐっと言葉を飲み込む。
「まぁ、前は確かにそう言ったけど。今だって反応には困るのは事実だけどさ。なんつーの?今は割かしお前の抱えてるモンに興味はある」
「……へぇ」
陽一が自分に興味を持ってくれた事が嬉しい反面、どれもまだ話せそうになくてやっぱり言葉に詰まった。
「……知らない方が良い事もあるかもよ~。衝撃的過ぎて笑えないかもよ~」
「なんだよ。余計に気になるだろソレ」
「今は内緒。どうしようも無くなったら聞いてほしい」
(なんて。今も既に手詰まりではあるんだけど……)
あいまいに笑って見せれば。ほっぺを摘ままれた。
「変な顔」
「ふぁれのへい」
「なんだって!?」
「ひょーひひ」
「ぶふっ!わはは!ひょーひひってなんだよウケる。マジ笑う。痛ッ!!」
腹がっ立ったので、横っ腹にパンチを一発お見舞いしてやった。
「まさか弱い部分を狙って来るとは……。恐ろしいヤツ」
「ふふんっ!」
バッチリ決まった事で、なんだか少しだけ気分が晴れた気がする。
「なぁ!ちょっと軽く何か食おうぜ!美味いモン食ったら嫌な事もどーでも良くなるだろ」
「あははっ。人を食いしん坊みたいに」
笑いながら不満を込めて、べしっと陽一の大きな背中を手の平で叩いた。
「痛っ!なんだよ!違ったのか?」
「……違わない」
「違わないのに俺叩かれたの!?俺可哀想!!」
「どんまい」
「叩いたヤツが言うセリフかソレ!?」
私を笑わそうと明るく努めてくれる彼が優しくて、嬉しくて、それが顔に出てしまいそうで困る。私が気付いてしまったこの恋心に彼にだけは気付かれるわけにはいかない。そんな事がバレてしまったら、彼は気まずくなってきっと側から離れていってしまうだろう。それだけは嫌だった。耐えられなかった。
だから、必死に隠そうと頑張っているのに、どうしたっていつも楽しくて、どうしたって彼の気遣いや優しさが嬉しくって、全てを持っていかれてしまうのだから本当に困りものだ。
(どうかこの気持ちだけはバレませんように……)
隠し切れないのなら、後は陽一の鈍さにかけるのみだ。
「もう!なんなの陽一は!」
「突然逆切れかよ……」
「いい加減にして!」
「お前がな」
理不尽だと分かっていても、声に出さずにはいられなかった。
好きだと言えない代わりに可愛げのない不満をたっぷりと。なんてゆがんだ愛情だろうと笑えて来る。
人の気なんて知らない陽一が、ぺしっと軽く私の頭を叩いた。
普段通りに出来ただろうか。陽一を盗み見ればどこか楽し気に笑っていたからきっと上手く出来たのだろうと思う事にした。
それはそうと少しだけ気になる事がある。陽一が良く、頭を撫でて来たり、わざとらしく肩をぶつけて来たり、腕を掴まれたりと出会い当初に比べてスキンシップが増えて来たように思う。こちらとしては中身女なわけで、妙にそわそわしてしまう。おそらくこれが好きでも無い相手からのスキンシップだったならば嫌悪感の塊だったに違いない。
ただしイケメンに限る、とか良く耳にするけれどイケメンであったとしても好きでも無い男からのスキンシップは余裕で嫌悪対象だ。
今も現在進行形で人の頭を乱しやがっているこの男をどうしてくれようかと悶々としつつも、居心地が良くてつい放置してしまっている自分がいる。
「陽一くん」
「なんだね?ゆうひくん」
冗談ぽく声をかければ、陽一も冗談混じりに応答してくれた。
「人の髪をボサボサにしないでもらえるだろうか?」
「いやぁ……つい。お前の髪腹立つ程さらっさらなんだけど何したらこうなるわけ!?」
「えー?あぁ!この間城ケ崎に習ったヘアケアしてる」
「へぇ……」
微妙な返事が返って来つつ、陽一が乱した髪の毛を元に戻してくれる。彼は犬でも飼うべきなんじゃないかと思う。好きなだけ撫で放題だ。
「そういや、お前さ」
「うん?」
「城ケ崎と付き合ったりしねぇの?」
「……はい?」
さすがに鈍そうな陽一でも城ケ崎がゆうひくんに向けて来る恋愛感情に気づいていたらしい。
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