・Memory07(まひる視点)


 そういえば言われるまで自分が城ケ崎と付き合うなんて事考えもしていなかった。そのせいで声がうわずる。



「アイツあからさまにお前の事好きじゃん?」

「……そうだねぇ」

「お前はどうなんだよ」

「まさか陽一から恋バナが出て来るとはねぇ」

「そこじゃねーんだわ。俺が聞きたいのは」



(そうは言われてもなぁ……)



 体が戻ればゆうひくんの問題で……。でも、体が戻らなかったら、私は城ケ崎と付き合うのだろうか……。


 確かに気は合うと思う。ツンデレだと分かってさえいれば彼女のどんな態度も愛らしく見える。けれども……ちらりと陽一を見た。目が合って思わず勢いよくそらしてしまった。盗み見に失敗してしまった。


 バクバクと胸が早鐘を打つ。このまま男として生きる事になったとしても、陽一に対するこの感情はどうにも消えてくれそうにない。



「今はなんとも言えない、かな……」



(どうしようもなくなったら……、陽一にも城ケ崎にも全てを打ち明けて相談しよう)



 そう、密かに決心をする。この先まだ長く続くであろう人生に正直一人では抱えきれそうになかった。


 この二人なら、もしかしたら真面目に取り合ってくれるかもしれない。それがダメだったとしても、笑い話にして冗談に持って行けば最悪今まで通りの生活だってきっと可能だ。



「そうか……。まぁ、元々お前に嫌がらせしてたヤツだしな!」

「そうだね~。って、なんでそんな上機嫌なの?」



 今にも鼻歌が聞こえそうな程るんるんな彼が理解出来なくてついつい聞いてしまった。


 ふと、何を思ったのか足を止めた陽一。数歩先に進んだ私も足を止めて彼を振り返った。



「……いや、コレはアレだ!」

「どれだ」

「だって!お前に彼女出来たら構ってもらえなくなるだろ!」



 彼の口から零れ出た予想外の言葉に、思わず目を見開いた。自分でも驚いているのか、目を見開いて間抜けな顔をしている陽一。慌てたように自分の口を手の甲で押さえこんだ。



「……え。構ってほしいの?」

「……か、構よ。ばーか」

「……ふっ、あはは!なんだそれ構ってちゃんじゃんっ」



 こんな大きな図体をしておきながら捨てられそうな子犬のようにしょんぼりされるとなんだかたまらなく愛おしいじゃないか。顔を真っ赤にして目をそらすものだからついつい笑ってしまった。



「うるせぇな!おい!笑うなし!ばーか」

「や~。陽一は可愛いね~」



 しみじみとそういえば、陽一はあからさまに嫌そうに眉間にシワを寄せた。



「はぁ?どこが!つーか、嬉しくねぇ。微塵も」

「心配しなくてもちゃんと構うよ~。よしよし」

「くっそ!腹立つ!!あ~言わなきゃ良かった!取り消し!削除!」

「却下。永久保存」



 悔しそうな陽一に再び髪の毛をぐしゃぐしゃにされた。そろそろ静電気が気になる時期なのでやめてほしい。しばらくして満足した陽一が解放してくれたので、静かにささっと髪型を整えた。どうせ乱すなら最後まで責任を持ってもらいたい。



「さて、今日は何が食いたい?」

「うーん……そうだね~」



 帰りに何食べて帰ろうかと二人で盛り上がっていると、正門から見知った人物が飛び出して来た。


 思わず目を見開く。



(ゆうひくんだ……)



 電話に出なかったから、電話してもムダだと思ってここまで来たんだろう。

 私は気まずくて目をそらした。


 それにしても、ずいぶん痩せたように見える。おそらく体調が斜めっているんだろう。


 ご飯はどうしてるんだろうか。

 栄養ドリンクは飲めてるのかな。

 痛みはあったりするの?

 夜、眠れてるかな?


 頭の中で色んな疑問が浮かんでは口に出せないまま消えていく。



「……話があるんだけど」



 そう、絞り出された声に、私はゆうひくんへと視線を戻した。


 逃げたところで入れ替わりの件が解決するわけじゃない。


 もう一度、ゆうひくんと話すことで何か掴めたらと思った。



「お前ズルくね!?本当良くモテるな!羨まし〜。しかもめちゃめちゃ可愛いじゃん!」



 陽一が場の空気を読まずに耳打ちしてからかって来る。それよりも私は陽一の中の可愛い部類に自分が入っていることが嬉しくて、場違いだと思いつつも少し舞い上がってしまった。



「なっ!?っていうか、そんなんじゃないし!」



 慌てて反論するけれど、絶対に顔が赤いはずだ。顔が異常に熱い。



「ハイハイ。そんじゃお邪魔虫は退散しますよ〜っと。んじゃ!ごゆっくり」



 わざとらしくそう声を大にして言うと、陽一はゆうひくんにも会釈をして大きな足取りでその場を去って行った。


 少しの間、私とゆうひくんの間に沈黙が流れた。



「……向こうで話そう」

「……うん」



 私はゆうひくんが歩く背中を追う。

 ついた場所は、私とゆうひくんが出会った始まりの場所だった。




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