・Memory05(まひる視点)
結局、元に戻らないまま夏休みに入った。
「俺はなんでココにいるんだろーな」
「それは私…僕が呼んだからです!」
「たまに思うんだけどよ。……定期的に私って言いかけるの何?」
「え!……そ、んな事言ってる!?」
気のせい感を精一杯装ってみる。どう考えても苦しい切り返しだと自分でも良くわかっている。
(だって十八年間女の子だったんだもん!そりゃあ無意識に出てくるよ!)
陽一はどこか怪しげにこちらをじっと見ていた。
「……まぁいいや。で?噂の人物はまだか?」
「あ!来たっぽい!おーい!こっちこっち〜!」
声を張り上げて、両腕をぶんぶん振れば、三人組がこちらへと気付いて足速にやって来た。
現在、テーマパーク前。
事は三日前大学の学食で城ヶ崎と鉢合わせした事から始まる。
城ヶ崎の知り合いがテーマパークの割引券をくれたらしく、せっかくだから一緒に行かないかと誘われた。
一瞬デートのお誘いかと驚いてしまったけど、取り巻きたちも一緒だと言うので、こちらも友人を一人連れて行ってもいいならと承諾したのだ。
「ほんっと、勝手に決めやがって!」
「だって!来てみたかったんだもんっ!」
「何、テーマパークも初体験なわけ?」
「……いや、小さい頃に何回か来たことあるけどさぁ。友達とっていうのは初めてで……無理やり呼び付けてごめん」
口先を尖らせて謝罪をすれば、ぽんっと頭を大きな手がワシ掴みした。
「まぁ、たまにはいいんじゃねーの〜。一緒に連れ歩く相手が相手で面倒だけどな」
陽一のダルそうな態度に思わず苦笑した。
相当嫌いのようだ。まぁ、彼女たちの口が悪いのも事実だからフォローのしようも無い。
夏の日差しがキツく、コンクリートからの熱気は今年も異常だ。みんみんと騒ぐセミたちの声が暑さをより一層加速させる。
そんな中、日傘をさして現れた女性陣は日焼け対策にアームカバーまでバッチリだ。
容赦無い日差しに素肌を焼かれるのと、どっちが暑いだろうなんてぼんやりと考える。
「待たせたわね」
「言うほど待ってないよ。それにしても今日もオシャレだね!今年のトレンドもバッチリ着こなしてるし。バッグがまた可愛い!」
「ふふんっ!そうでしょう?今日の日の為に準備を整えたんだから……!っ、なんでも無いわ。早く行きましょう」
言いながら照れたのか、城ヶ崎は直ぐに話題をそらすとスタスタと先に入口へと向かってしまった。
その後を取り巻き達がきゃっきゃとはしゃぎながらついていく。
顔を見合わせると陽一は肩をすくめて見せた。何あの態度、と言いたげだ。私は思わず笑って返した。
私と陽一も彼女たちの後を追って入場門をくぐった。
まず向かった先はグッズの販売店だ。
「土産は最後に買った方がいいんじゃねーの?」
「無知ね。お土産なんか最初に買うわけ無いでしょ」
ふんっと城ヶ崎は顔をそむける。
苛立つ陽一を慌ててなだめた。
「どーどー。よーしよしよし!」
「動物扱いやめろ!!」
「あイタッ!!」
べしっと頭を陽一にはたかれた。どうやら、わしゃわしゃ頭を撫でたのが気に入らなかったらしい。言うほど痛くは無い頭を撫でながら、城ケ崎の刺すような視線を感じてそちらへと恐る恐る視線を向けた。
何か物申したげな顔をしていたが、目が合うと直ぐにそらされた。
「で?土産じゃ無いならこんな所になんの用だよ?」
「はぁ。……本当に何も知らないのね。せっかくテーマパークに来たんだもの。グッズを身に付けて歩くのよ。こういう時にしか楽しめないでしょ?」
城ヶ崎がテーマパークのキャラクターの付け耳カチューシャを頭に付けて鏡をチェックする。
彼女が普通に話を始めてくれた事に心なしかホッとした。
「それ、三十周記念用のカチューシャだよね!可愛い」
カチューシャタイプや帽子タイプ、耳付きフードのフェイスタオルまであってキャラクターの種類も豊富だからどれにしようか悩みに悩む。
「陽一は犬耳似合いそうだね!コレなんかどう?」
犬耳のキャップを陽一に被せれば妙に似合ってて笑った。
「あははっ!似合ってる似合ってる!」
「似合ってんのに大爆笑なのなんでだよ!……お前ももちろん被るんだろうな?」
「え?もちろんっ!」
むしろ被りに来ましたと言わんばかりに前のめりな発言をすれば、陽一は一歩後ろに引いた。
深い溜め息を一つ吐き出すと、陽一は吹っ切れたようでその場を楽しみ始める。
互いに似合いそうな物を見付けては被せ合いをして、あーでもないこーでもないとそれぞれにはしゃいだ。
そうしてようやく身に付ける物が決まり、購入を済ませてからお店を後にした。
本当は女子用キャラクターの付け耳が良かったけど、見た目男の子なのもあって渋々諦めた。悩んでる間にも城ヶ崎の付けているキャラクターの男の子バージョンの耳を取り巻きたちから押し切られる形で付けることになった。
ここまで来ると否が応でも気づいてしまう。おそらく城ヶ崎はゆうひくんにひかれているのだ、と。そしてそれを知っている取り巻きたちが援護しているのだ。
「で?次はどこ行くんだ?」
テーマパークのリーフレットを見ながら陽一が問いかける。
「もちろん、待ち時間の少ない所から攻めるのよ!」
城ヶ崎はスマホアプリでアトラクションの待ち時間を眺めながら言った。
「プロじゃん!!」
「プロだ!!」
私と陽一の声が重なる。陽一と目が合って、二人して吹き出した。
「……。……五分待ちの所があったわ。行きましょう!」
城ケ崎の何か言いたげな鋭い視線が一瞬突き刺さったけれど、彼女は直ぐに視線を手元のスマホに戻してスタスタ足速に歩き出した。そんな城ヶ崎の後をみんなで追いかける。
二人乗りのアトラクションのたびに何かと取り巻きたちが私と城ヶ崎を二人で乗せるよう仕向けて来た。
やっぱりな、と核心して苦笑する。
そして毎回ボッチ乗りさせられている陽一は特に不満は無さそうだった。一人で乗っても気にしないタイプらしい。
「それにしても……暑いわね」
一通りアトラクションを乗り終えると、そうつぶやいた城ヶ崎の顔色は少し悪そうに見えた。
「休憩しよう」
そう言って手を引き、クーラーのきいた休憩施設へと足を踏み入れる。
びっしょりかいた汗がクーラーでひんやりと冷やされていく心地良さを感じた。
すると、不意に手を勢いよく振りほどかれて、驚いて城ヶ崎を見た。彼女は、まるでゆであがったダコみたいに真っ赤に染まった顔をプイっとそむける。
「い、いつまで人の手を握ってるつもりよ!」
「……すみませんでした」
思わず両手をハンズアップさせた。
そこまで見事に真っ赤になられると、こちらもどうしていいか分からなくなる。こちらまで照れてしまうというか、申し訳ない事をしたようないたたまれない気分だ。
「あ〜生き返る〜!あ、なんか飲み物買って来るわ」
場を和ませようと思ったのか、はたまた何も考えていないのか、陽一はぐっと伸びをして、そう口にした。それに便乗するように、みんなが口々に注文し始める。
「私は季節限定のトロピカルスムージーで」
「なら、わたしはマンゴーフロート」
「あたしは夏盛りパフェ!」
「じゃあ私……僕は……」
「って、待て待て!おかしいだろ!!お前まで頼む気かよ!ゆうひ!」
冗談で流れに乗ろうと手を上げて注文しようとすれば、予想通りに陽一からツッコミをもらえてお腹を抱えて笑った。
「ウソウソ!冗談だよ!メニュー見なきゃ何があるのか分かんないし」
じっと不満げに見つめられて、思い出し笑いしそうになる。
「じゃあ注文しに行って来るから席取っててもらっていい?」
「ええ。もちろん」
城ヶ崎たちはうなずくと空いてる席へと向かった。
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