・Memory04(まひる視点)
「同い年だとしても、学年的にはあたしたちが上だから先輩って呼ぶように。タメ口はもちろん禁止だから」
「あのセンパイ。コイツ俺が勝手に連れて来ただけで、まだこのサークルメンバーじゃないんで」
昼中くんが場の状況を見兼ねてか私とその女子三人の間に割って入った。
私をその大きな背で庇うように立つ姿に思わず胸が高鳴った。
(少女漫画的展開キターーーー!!!)
場違いながらガッツポーズしそうになる腕を必死に抑え込む。
「だとしても!同じ学校なら会うコトもあるでしょう?」
「ゆうひ。アンタ、高校の時みたいに城ヶ崎さんの犬だからね!」
「そうよ!城ヶ崎さんがいるからわざわざ一浪してまで追って来たんでしょ?」
口々に女の子たちがそう声をあげた。
どうやらリーダー格の女の子は城ヶ崎と言うらしい。
この一連の流れで、ゆうひくんが城ヶ崎グループから嫌がらせを受けていたことが理解できた。
「センパイ、いじめって言葉知ってます?」
「はぁ?アンタには関係ないでしょ。引っ込んでて」
言い返して来たのは城ケ崎の取り巻きだった。右と左に居る右側だ。
「関係あります。俺がコイツ誘ったんで。それに、俺はコイツの友人だ」
(昼中くん……)
目の前で繰り広げられる青春ドラマにドキドキと胸が高鳴る。
「友情ごっことかダッサ」
「ほんとバカみたーい」
「ちょっと待って」
城ケ崎の取り巻きたちが昼中くんを小馬鹿にして嫌味ったらしくクスクスと笑い合う中、思わず私は声をあげて城ヶ崎へと近寄った。
「……何よ」
勝ち気な瞳が驚いたように見開かれたかと思うと、直ぐに睨むように鋭くなる。
そんな城ヶ崎の表情よりも、私は彼女が身に付けていたカバンのブローチが目に留まった。
「これ今月号の付録のブローチじゃん!」
「は?」
場が一瞬にして固まったのが分かる。
「な、何よ!そうよ!付録のブローチ付けてちゃ悪いわけ!?」
「え?ううん!素敵!あっ!そのピアスって最近話題のブランドのやつだよね!」
「ふふんっ!数量限定のを並んで勝ち取ったのよ!」
「すごっ!!」
私と城ヶ崎の繰り広げる女子トークに、昼中くんはもちろんながら取り巻きまでもがぽかんとして眺めていた。けど、そんな周りの視線が気にならなくなるくらい話に夢中になった。バーベキュー中、お肉や炭酸飲料を堪能しながらも会話は盛りに盛り上がりヒートアップしていったのは言うまでもない。
お開きになった頃には意気投合仕切った私と城ヶ崎は、取り巻きよりも友人に見えたに違いない。
「俺にはお前が分からない」
「え?どうしたの?」
城ヶ崎たちと別れて、駅へと向かう途中、ぽつりとそう昼中くんがこぼした。
「なんで自分いじめてた相手とあんな風に喋れんの?」
(本人じゃないからですよ)
とは、口が裂けても言えない。
「いや〜思わず?見知った物が目に入ったら止まらなくなったよね」
「つーか、なんで女子トークについていけてんだよ!おかしいだろ!」
(女子だからです)
とも言えるはずがない。
「女子トークが好きな男子がいたらいけないの?」
「……いや、悪かった。そうだな。そういうのに興味のあるヤツもいるか」
最近は男女差別が無くなってきたおかげで上手いことごまかせた気がする。
どこか申し訳無さそうにぽりぽり頭をかく昼中くんに、少しだけ罪悪感を感じた。
「つーか、俺が悪いんだよな。なんか、ごめんな?嫌なヤツに会わせちまって」
「え?ううん。平気だよ?なんか仲良くなったし」
「……鋼のメンタルかよ。お前強過ぎ」
(中身が別人だからね)
と、密かに苦笑した。
きっとこれがゆうひくんだったなら、かなりマズイ状況だったに違いない。
城ヶ崎がいる以上、サークルに入るのは無理そうだ。少し残念だけど、仕方ない。
「そういえば、かばってくれてありがとう」
「あ?……んなの当たり前だろ」
「や〜頼もしかった!友人って思ってくれてたのも嬉しかったし!」
思い出したらまた嬉しくなってニコニコ顔でそう告げれば、軽いチョップが頭に飛んできた。
「痛い!え!なんで!?」
「うるさいばーか!こっ恥ずかしい事言ってんなよな!」
「なんだよ、照れんなよ〜」
ぐりぐりと肘で昼中くんをつつく。
「照れてねーわ!やめろ!……ってか、そういやお前一つ歳上だったな……」
ふと思い出したようで、どこか気まずそうに声のトーンが下った。
自分も体験したからその気持ちが痛いほど良く分かる。
「あぁ~。でもまぁ、今まで通りでいいよ。その方が嬉しいし。かしこまられるの苦手だし」
「……なら、そうする。あ、俺の事は陽一でいいから。お前の事はゆうひって呼ぶし」
友人関係が着実に前進してるのを感じて、また嬉しくなってニコニコした。
「陽一」
「なんだよ」
「呼んだだけ」
「……叩くぞ」
「え!酷い!!」
そうして家へ帰宅した私は真っ先にゆうひくんに連絡をした。今日起きた出来事のすべてを。
『……は?』
電話先の声は理解が追いつかないのか、戸惑っているようだった。
そりゃそうだ。自分をイジメてた人たちと出くわしたのだから受け入れるのに時間が必要なのは分かる。
静かに応答を待っていれば、状況を整理したゆうひくんが声を発した。
『……いやいやいや。……なんで仲良くなってんの?』
「あぁ!そこか!!やぁ〜つい盛り上がっちゃって!今度スキンケア教えてくれるって」
『ガチでどういう事!?』
あのゆうひくんがツッコミを入れるって相当なことだな、と改めて思う。
「とりあえず、城ヶ崎とは友達っぽい雰囲気に落ち着いたから何かされることは無いと思うよ?上から目線で物を言うのはスルーしとけば平気そう」
『……』
(やっぱり受け入れがたいよね……)
どんな酷い目にあっていたかは分からない。けど、取り巻きたちの口ぶりから少なからず、かなり嫌な思いをしていたはずだ。
「……ごめん。勝手なことした。体が戻ったら付き合っていかなきゃなのはゆうひくんなのに……」
改めて自分の行動を反省する。
『……まぁ、大学に真面目に通ってたら、いつかはどこかで出会ってただろうし。良好な関係築けてるならいいんじゃない?……でも、まひるさんに嫌な思いさせたよね』
ゆうひくんが私のことを心配してくれてる事実に驚いてしまった。
確かに嫌味を言われたけれど、正直私のことじゃないから全然気にならなかった。
むしろそんな扱いを受けてきたゆうひくんのことの方が心配だった。
「私は、大丈夫だよ。……大学、このまま行ってもいいかな?」
念の為、お伺いを立ててみる。
『……好きにしていいよ』
電話越しのゆうひくんの本心は良く分からなかった。
「あ!そうだ!もうすぐ夏休みだし、アルバイトしてそれをお小遣いに遊びに出かけてもいい?体が戻って無ければ、だけど……」
『……夏休み期間のみ、なら』
「了解です!」
こうして私は徐々に、ゆうひくんとしての生活に馴染み始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます