・Memory04(ゆうひ視点)



 家事炊事を開始したから、というのもあって、まひるさんの母親が短期のバイトをしてみないかと提案して来た。


 さすがにバイトとなると足踏みしてしまう自分が居る。そんな自分にまだまだ変わり切らないなと苦笑が溢れた。


 バイト先は母親の姉がやっている農家の手伝いだった。野菜を箱に詰めていく作業らしい。



「病気の事は姉さんも知ってるし、体調が悪くなったら気兼ねなく休んでいいからね」



 そうは言われても、言い出しづらいのも事実だ。しかも親戚となれば尚さら今後の付き合いを考えると失敗が許されないような気がして気分が滅入る。


 断りたいのをぐっと堪えた。まひるさんならきっと素直に請け負うに違いない。


 そうして迎えた親戚の手伝いは、簡単そうな内容に聞こえて過酷極まりなかった。なぜなら現在、夏。セミの騒々しい声色がガンガン響いて暑さを一層助長させる。


 そんな中、駐車場で黙々と箱詰め作業が行われた。カーポートがあると言えど、暑い。ハウス作業じゃないだけマシと言われれば、かなりマシな部類だとは思う。日々野菜を育ててくれる農家さん達には頭が下がった。



「暑いでしょ?無理しないでね。はい、休憩!」



 そう言って手渡される棒アイスはぶどう味だった。



(これは食べて大丈夫なヤツか……?)



 疑問が頭を過ぎったが、この暑さに耐えかねて手が伸びる。

 大粒の汗がぼたぼた落ちる程、暑い。服がそれを吸収してじっとりと重みが増していた。



「本当、大きくなったね〜まひるちゃん。幸恵、心配症だからかなり過保護なんじゃない?」



 幸恵とは、まひるさんの母親の名前だろう。

 話しぶり的にそう頻繁に会う中でもないらしい。



「うちの子達みーんな結婚して出てっちゃったから中々会う事もなくって。たま〜に顔出しには来るんだけどさ。寂しいもんだね」



 そうして始まった世間話は次第に自慢話とも取れるものへと変化していった。


 孫が五人居るのは別に構わないが、長女が社長と結婚して社長婦人になっただとか、長男が高給取りでボーナスが凄いんだとか、次男は海外で仕事をしているだとか、次女が有名なイケメンデザイナーと結婚したのだとか。


 肩書きばかりでなんだか聞いていてうんざりとした。



「それに比べて幸恵は大変そうよねぇ。長男の真一くん、ボーナスも出ない所で働いてるんでしょ?お給料も少ないみたいで良く幸恵が嘆いてたわ」



 悪気は無いのだろうけれど。どうにも腹立たしい。自分の事では無いと分かってはいるけれど、自分に言われているように思えた。


 まひるさんは親戚付き合いの中でどれほど肩身の狭い思いをして来たのだろう。


 別にまひるさんに対してとやかく言ってきたわけではない。けれど、健康で働いている兄の事ですらそう言われているのを知れば、自分がどういう立ち位置なのか想像してしまうに違いない。僕だってそうだった。浪人生になった事で母親が肩身の狭い思いをしている事を知っていた。


 世間はどうしたって見た目や肩書き、収入でその人の価値を決めてしまうようだ。だから両親が僕に医者になるよう大学を薦めていたのもなんだか納得がいった。手っ取り早くなんだか凄い人になる為に。かと言ってそれが簡単な道では無い事を僕は知っている。


 まるで誰かに自慢出来る人間じゃ無いと価値が無いように思えてしまった。


 その日、メンタルからか体調を崩した僕は、昼過ぎには伯母さんに家へと送ってもらう事となった。


 しばらく寝込んでいたら、不意に気付く。


 そういえば大学が夏休みに入ってからまひるさんから連絡が来ていない事に。


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