・Memory08(ゆうひ視点)
退院した僕は、凄く悩んだ末、連絡が着かなくなったまひるさんに会いに行く事にした。
彼女は僕には会いたくないだろうけれど、どうしても伝えなければと思った。僕が決めた一大決心を。
彼女と連絡が着かなくても、彼女と会う方法はいくらでもある。なんせ大学と家を知っているのだから。
僕は平日の夕方に大学へと向かった。平日ならまひるさんが大学に居るからだ。その足取りは昔に比べて驚く程軽かった。
大学へ向かいながら、僕は静かに過去を振り返っていた。
仲の良かった両親とあっちこっちに出かけた事。
成績が良くて褒められた事。
城ヶ崎たちから嫌がらせを受け続けた事。
僕の頭が至らなくて浪人してしまった事。
家族がバラバラになってしまった事。
大学に受かったのに行けなかった事。
親友が欲しかった事。
まひるさんと出会った事。
その時々の感情まで蘇る程、鮮明に思い出す。自分が生きてきた十九年の短いようで長かった月日を。何も成しえなかったちっぽけな人生を。
気付けば大学の正門まで辿り着いていた。僕は邪魔にならないように端っこでまひるさんが出てくるのを待つ事にした。
静かに深呼吸をする。緊張からか手が震えていた。ゆっくりと握りしめた時、不意に遠くから聞き覚えのある話し声が耳を掠める。
誘われるようにそちらへと視線を向ければ、僕の姿をした朝雛まひるが居た。
がたいの良い男が隣を歩いていて、なんだかとても親しげだ。冗談を言い合っては笑い合っていた。
その二人の姿に目が釘付けになる。
それは間違いなく僕が望んでいた光景で、喉から手が出る程に欲しがっては手に入れられずにいた理想の友人関係だった。
(まひるさんはやっぱり凄いよ)
僕はもう一度大きく深呼吸をすると、まひるさん達の前へと立ち塞がった。
二人は驚いたように目を見開いて僕を見る。直ぐにまひるさんはどこか気まずそうに視線を地面へと落とした。
「……話があるんだけど」
僕はやっとの思いでそう声を絞り出す。
「お前ズルくね!?本当良くモテるな!羨まし〜。しかもめちゃめちゃ可愛いじゃん!」
場の空気を壊したのはまひるさんの隣に居た男だった。
まひるさんに耳打ちをするポーズをしているが、声が大きくて丸聞こえだ。
「なっ!?っていうか、そんなんじゃないし!」
彼の言葉にまひるさんは顔を真っ赤にして声を荒げる。
「ハイハイ。そんじゃお邪魔虫は退散しますよ〜っと。んじゃ!ごゆっくり」
わざとらしくそう声を大にして言うと、彼は僕にも会釈をして大きな足取りで足早にその場を去って行った。空気を読んで気を遣ってくれたのだろう。
彼が去った後、少しの間沈黙が訪れた。
「……向こうで話そう」
「……うん」
まひるさんが頷いてくれたのを確認して、僕は二人が初めて出会ったあの石造りの橋へと向かった。
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