・Memory06(ゆうひ視点)



 それから数年の月日が流れた。僕と陽一は無事に医大を卒業し、陽一は研修を得て外科医となり、僕は大学院で博士号を取得しまひるさんの病気の治療薬を研究している。城ケ崎夕月は産婦人科医となった。


 昔はかなり嫌いだった城ヶ崎夕月も、まひるさんや陽一と過ごす中で何度も会話に加わる事で随分と普通に話せるようになった。


 最初は彼女の好意を断わっていたけれど、何度も謝罪と熱烈なアプローチを受け続ける内に満更でもなくなってしまい、おかしな事に今は恋人として日常を送っている。僕らが付き合う事になった事実に陽一は心底驚いていたけれど、まひるさんは飛び上がりそうな程に喜んでいた。


 そして今日は、陽一とまひるさんの結婚式だ。


 やっと陽一の研修が終わり、現場について二年目が過ぎて落ち着いた今、ついに式を挙げる段階へと至った。



「まひる、とても綺麗ね」

「……そうだね」

「ねぇ、ずっと気になっていた事があるのだけど……」

「……何?」



 結婚式を終え、披露宴会場へと夕月と共に並んで向かう。まひるさんのウエディングドレス姿も綺麗だったけれど、彼女のドレスアップ姿も上品でとても綺麗だ。


 そんな事を口に出せないまま、ぼんやりと眺めていたら、まさかの衝撃な一言が繰り出された。



「ゆうひは、本当はまひるの事が好きだったんじゃないかと思っているの」

「……今、ここで聞く内容なのかな。……まぁ、それはもちろん好きだけど。でも、この感情はきっと、そういう言葉では語り尽くせないよね」



 好きは好きなんだけど、恋愛感情というには何かがあきらかに違う。まひるさんが笑顔で居てくれたらそれだけで嬉しい。その横に居るのが僕でなくたって全然構わない。ただただ愛おしいと思うし、その笑顔を守りたいと思う。僕にとって彼女は希望そのもので、光だ。



「まぁ。妬けるわ。ねぇ、ゆうひ。アナタが私と付き合ってくれるのは……まひるが私の応援をしてくれてたからなの?」

「……はい?」



 なんでそう思うのか正直理解し難かった。



「だってアナタ、ほら、まひるに一生を捧げるのでしょう?だから、まひるが私の恋の応援をするから、それを叶えてあげたのかなと思ったのよ」



(なるほど)



 そう言われると確かに、そういう解釈が起きても仕方がない。自分に責任があると感じて僕は頭を抱えた。



「……あのさぁ、キミは僕が好きでも無い相手と付き合えるような人間だとそう思うわけ?」

「ええ」

「そんなハッキリと……」



 どうやら彼女にとっての僕はそんな人間に見えるらしい。イエスマンか何かだと思っているんだろうか。


 確かに押しに弱い自信はある。そこは間違いないけれど……。



「さすがに、好きでも無い相手と付き合えるような人間じゃないよ。僕は。」



 そう、あくまで僕は。世の中には好きで無くても付き合える人種も存在することを知っている。それが僕には到底理解は出来ないけれど、付き合いながら相手を知ろうとするのは悪い事のようには思えない。ただ、僕には向いてない。それだけの事だ。



「それにまひるさんと無理しない約束をした。僕は彼女との約束を破る事は絶対にしない」

「そう。それなら安心ね」



 まひるさんが相手であれば絶対であると夕月も理解してくれているようだ。



「ねぇ。ずっと気になってたんだけどさ」

「何?」

「夕月は僕のどこをそんなに好きになったの?」



 僕の長年の謎に、夕月は鋭い瞳を見開いてぱちくりさせた。まるで信じられないものでも見るみたいだ。




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