キミという存在に心からの敬意と感謝を。
えにし丸。
序章:まさかの出会い。
・Memory01(ゆうひ視点)
神サマってモノが本当に存在するのなら、それはたぶん、かなりのイタズラ好きに違いない。
今まで生きてきた当たり前の日常が、突然一変するなんて思いもしなかったんだ……。
♪
聞き慣れたアラーム音が憂鬱な朝を知らせる。
(今日も目覚めてしまった……)
相変わらず変わる事なくやって来る朝に心底がっかりしながら、大きなため息と共に気怠げにベッドから這い出た。
ベッドに潜りたてで眠りに落ちる間際が、一日の中で一番幸福な時間なんじゃないかと最近は良く思う。
仕方なしに身支度を済ませてリビングへ降りれば、挨拶くらいしか交わさなくなった母親といつも通りの挨拶をした。
テーブルには一人分の朝食が用意されていて、それを黙々と食べる。
リビングにはテレビの音と食事の音だけが、ただただ響いていた。
こうなったのは、一年前の事だ。
医者である父親が、若い看護師と不倫をして家を出て行ってからだと思い出して余計に気分が悪くなった。
( ああ、憂鬱だ……)
キリキリしてきた腹部を撫でながら、食べる気色を無くしたご飯をそのまま置いてけぼりにして、リュックを背負って逃げるように家を出た。
向かう先は大学だ。小さい頃から医者になるよう言われてきたからか、それ以外に何をしたらいいのか分からないからか……。一浪したけれどなんとか入る事が出来た医大。
この一浪したのがまた両親のケンカの原因になったのは言うまでもなく、余計に母親との溝を深めている。
どう接したらいいのか、まるで分からない。
父親が不倫にはしったのも、きっと俺に愛想を尽かしたからに違いない。
電車を二度乗り換えて見えて来た医大に、自然と足取りが、まるで足に重りでも付けてるかのごとく酷く重くなった。
一浪したのも相まって、入学して二ヶ月経つけれど未だ友達も出来ない。
漫画や小説のような唯一無二の親友みたいなものに憧れていたけれど、自分から声をかけるのが苦手な僕には、どうやら漫画や小説と等しく夢物語のようだ。
キラキラと輝く同年代達がにぎやかな笑い声をあげながら吸い込まれるように医大へと向かう中、ついに足が竦んで動かなくなってしまった。
学費は父が出してくれている。一浪したけれど、医大へ受かったから情けをかけてもらえたのは重々承知している。
けど、だけど……。
周りの喧騒が止んだ。
もう一限が始まったのだろう。
気がつけば、来た道を後戻りしていた。
来る時は重かった足取りが、どんどん軽く速さも増してゆく。
(いっそこのままどこかへ消えたい)
全て無かった事になればいい。
自分の存在すらも。
どれくらい歩いただろう。
我に返った時には知らない場所に居た。
石畳で出来た橋の下には川が流れている。
昨日は雨だったからか水かさも増していて流れも速い。
(……ここから飛び降りれば……)
「そこから落ちても死ねないと思うよ」
橋の手すりに足をかけ、立ち上がったところで、背後から女の子の声が聞こえた。
「おわっ!?」
驚いたのも束の間、昨日の雨で未だに濡れていた手すりから足が滑って、そのまま後ろに落っこちるように倒れ込んだ僕は、ゴツンと鈍い音を立てて後頭部を強打し意識を手放した。
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