キミという存在に心からの敬意と感謝を。

・Memory03（ゆうひ視点）

「私、アナタにも謝りたかったの」

「謝らなきゃなのはむしろ私の方だよ……！」

「ゆうひを返して、だなんて、アナタに言うべき言葉じゃなかったわ」

　二人の会話の内容についていけない。

（ちょっと待って。どういうこと？そんな言い合いしてたんだ？）

　どういう流れでそんな話になったのか、少し気になってしまう。

「城ケ崎はね、ゆうひくんが本物じゃないって気づいていたんだよ」

「え……？」

　まひるさんにそう聞かされて、不意に城ケ崎に入れ替わりの話を打ち明けた時の即答で受け入れてくれた事と妙に納得した表情に合点がいった。

「それで、あんなにすんなりと受け入れてくれたわけだ？……まぁ、どう考えてもまひるさんの入った僕は僕らしくは無かっただろうね。まひるさんみたいに輝いていないし。行動力もコミュニケーション能力だって天と地の差」

「え。私、輝いてるの？って、そうじゃなく！それだけ城ケ崎はゆうひくんの事を見てたって事だと思うけど？」

「え……」

　まひるさんの言葉に、思わず心臓が跳ね上がる。

　ちらりと城ケ崎を盗み見れば、これまた見事に真っ赤に染まっていて、言葉に詰まった。

「ちょっと！わざわざ言葉にしないでちょうだい！だいたい、好きな人を無意識で目が追ってしまうのなんて普通でしょう！」

　さらりと言われた”好きな人”という言葉に、再び心臓が跳ね上がる。

　今だって信じられないのだ。

「アプローチは普通じゃなかったけどね」

「ぐっ！！仕方がないでしょう！間違いなんて誰にでもあるわ！」

「そうだね。間違いは誰にだってある。自分の間違いに向き合えれば、他人の間違いも許せるって私は思うよ」

　まひるさんの言葉に僕は息を飲んだ。

（まひるさんも何か間違いを犯した事があるから、僕の過ちを許してくれたのかな？）

　まひるさんと目が合うと、彼女はどこか悲し気に笑って見せた。

　それは無理して笑っていると言うよりは、過去を振り返っているようなそんな表情だった。

「城ケ崎……本当にごめんね。私、あの時に打ち明けるべきだったよね……。私とゆうひくんの入れ替わりの話」

「いいえ。そう簡単に話せる内容では無かったわ。そうでしょう？」

「うん……。信用して無かったわけじゃないんだ。ゆうひくんの許可無しに勝手に伝えていいか分からなくて……。でも、もしあのまま……ゆうひくんとして生きていく事になってたら、打ち明けようと思ってはいたの」

「その気持ちだけで充分嬉しいわ」

「……それに……健康であるゆうひくんの体が欲しいって思ってしまったのも事実だったから……」

　まひるさんの言葉に、彼女の気持ちが痛いくらい理解出来てしまって思わず目を伏せた。

「……そうよね。私がアナタの立場なら、私だってそう思うわ。普通よ」

「……っ」

「僕も、普通だと思う」

　まひるさんは、城ケ崎と僕を交互に見て、唇を噛み締めた。涙を我慢したのかもしれない。

「私、こうしてアナタと会えてとっても嬉しいわ」

「私も！！」

「ねぇ。また、こんな風に一緒にお話ししてくれる？」

「もちろんだよ！私もそうしたい！嬉しい！！」

　まひるさんと城ケ崎は手を取り合って喜び合っていた。

　なんだか不思議な感覚だ。出会ったばかりなのに自分の半身のような女の子と、僕をイジメていた女の子が僕の目の前で交友関係を築いていっている。

「あと……、ゆうひを助けてくれてありがとう。本当にありがとう！！アナタには感謝してもし足りないわ」

　まるで自分の事のように言われると、なんだかどうしようもなくむずがゆい。自分の生存をこんなにも彼女が感謝してくれるだなんて夢にも思わなかった。

「助かって良かったよ……。一時はどうなる事かと」

「本当にごめんなさい」

　僕は申し訳無さ過ぎて謝る事しか出来ない。

「本当よ！もう二度と命を絶とうだなんて思わないで！捨てるくらいなら私にアナタの人生丸ごと寄越しなさい！」

「それだけは勘弁してほしい」

　城ケ崎に人生まる事寄越すだなんて冗談じゃない。そんなのどう考えたって身投げの方がマシだ。でも、まひるさんに救われたこの命を手放そうだなんてもう思えない。

「この命はまひるさんにあげたんだ。まひるさんの為に使う。僕は彼女に一生を捧げるって決めたんだ」

「ちょちょちょ！ゆうひくんっ！」

　僕の言葉に慌てた様子のまひるさんが止めるように名前を呼んだ。

　僕は言ってやったぞ！とどこか誇らしげな気持ちだった。

「そう。それは正しい判断だと私も思うわ。だって、アナタの命の恩人なんだもの。最後まで尽くすのが礼儀だわ」

「……うん。そうする」

　昔の仕返しに少しくらい反発出来るところを見せつけてやろうと思ったけれど、彼女は当たり前だと言わんばかりに凛とした姿勢で返して来るものだからこちらが面食らってしまった。だけど表情には出さずに、僕は強く頷き返す。本当にその通りだと自分でも思っているからだ。

　まひるさんはどこか困り顔で、僕と城ケ崎を交互に見やった。

「もう。そんなに深刻にならないでよ」

「深刻にもなるわ！なんでアナタはそんな……心が広すぎるわよ」

（それに関しては僕も城ケ崎に同感だ）

「そうでもないと思うけど……。ゆうひくんはゆうひくんで自分の人生を歩んでいいんだかね？私は二人と友人でいられて、こうやって時間を共有出来たらそれだけで満足なんだから」

　まひるさんは念を押すように、僕と城ケ崎に交互に笑顔を見せてくれた。

　城ケ崎はまひるさんの身を案じてか涙目だ。僕だって城ケ崎と同じ気持ちだ。人生一生分を費やしたって償いきれるものじゃないって本気で思っている。

　それなのにまひるさんはいつだってどうって事無いようにあっけらかんと笑って見せるのだ。

　別に泣いてほしいわけじゃない。笑顔でいてほしいのも本当だ。でも、彼女の身に起こしてしまった出来事に嘆いても憂いても、怒りをむき出しにしたっていいと僕は思うのだ。それだけの出来事が彼女の身に起きたのだから。僕のせいで。