・Memory03(まひる視点)
その晩、ゆうひくんにサークルに誘われた話をした。ゆうひくんも興味を持ってくれればいいなと密かに期待してしまう。せめてバーベキューに参加したい。お金もかかる問題だから、ここも勝手な判断はできない。
意外にもゆうひくんはすんなりと許可してくれた。失礼ながらもっと渋るかと思っていた。
心の底で嬉しさと安心感が広がっていくのが分かる。
そうして迎えたバーベキュー当日、熱中症対策も兼ねてキャップを被って出かけた。
昼中くんと駅で待ち合わせをして、そこから一緒に現地へと向かう。
バーベキューはキャンプ場の一部を借りてるようだった。サークルメンバーだろう人々が集まってワイワイ会話に花を咲かせている。
「飲み物まだもらってない人いる〜?」
先輩と思われる女性の声かけに昼中くんが軽く手を上げて応えた。
「センパイ俺らまだでーす」
「はいはい。何飲む〜?」
「俺はコーラで。お前は?夜風。……おーい?夜風?」
私は今まで炭酸飲料やカフェインを禁止されていたのも有り、ついつい目の前に並ぶ禁忌たちに目移りしてしまう。
「コーラも飲みたいし、ジンジャエールとか気になる!!カルピスソーダとかも美味しそう……!!」
「……何お前……炭酸飲料も初体験なわけ?お貴族サマか何かなの?」
昼中くんの反応に、慌てて我を取り戻す。
(私は夜風ゆうひ、夜風ゆうひ!!)
「……ちょっと親が厳しくて……?」
「……なんで微妙に疑問形なん?」
精一杯のごまかしも、上手くいかずに空回っている。
「……あの、乾杯するから早く決めてもらえるかな?」
「あ!すみませんっ!じゃ、えーっと、ジンジャエールで!!」
真っ白のコップにそそがれていく黄金色の飲み物は、しゅわしゅわと音を立てて泡ぶくをはじけさせていた。
ゴクリと喉が鳴る。
今にも飲み始めそうな私の肩を昼中くんが強めに掴んで目で止めに入った。
昼中くんが視線で部長を見るように促す。
「今日は暑い中集まってくれてありがとう!楽しい時間を共有していこう!じゃあ、乾杯!!」
部長が紙コップを軽く持ち上げて大きな声でそう言えば、それぞれコップを掲げて"乾杯"と口々に叫び、近くの人たちと紙コップを軽くぶつけ合った。
私も昼中くんや近くの人と乾杯し合う。
そうしてついに、待ちに待ったジンジャエールを口にした。
生姜の独特の風味が甘い甘味料でマイルドになっていて鼻から抜けていく、炭酸のしゅわしゅわが喉ごし良い。
「美味しいっ!!!」
「ぶはっ!……本当、お前面白いな!ほら、おかわりあるぞ?それとも他のも飲んでみるか?」
「カルピスソーダください!」
今度は真っ白な液体がしゅわしゅわとそそがれていく。
(なんだココ!!天国!?)
「肉じゃんじゃん焼いてけ!そして焦げる前にドンドン食えよ〜!」
「……お肉……!!」
吸い寄せられるように煙が立ち上がる場所へと向かえば、炭火に焼かれた香ばしい香りが鼻をくすぐった。
「今度は肉か。さすがにバーベキューは初めてじゃないよな?」
昼中くんに紙皿と割り箸を手渡されながら、そう問いかけられる。
私は静かに過去を振り返った。
「小さい頃に何度か」
「最近は?」
「ここ数年は無いねぇ」
返事の返しようが無かったのか、昼中くんはふ〜んと流すように言葉を吐いた。そして私が持っていた紙コップを取り上げる。
「なら、じゃんじゃん食え!!センパーイ!一番美味そうなとこコイツにくださーい!」
「おう!食え食え!」
「あ、ありがとうございます!」
お皿にモリモリとお肉が乗っかった。
「ほら、こっちの串のヤツも食えよ!」
シルバーの串にお肉、コーン、ピーマンが交互に刺さったそれを昼中くんが差し出してきた。
「幸せ過ぎる!!ありがとう!!」
「ははっ!大袈裟なヤツ」
昼中くんに簡易テーブルに連れてかれ、そこでモリモリとお肉を頬張った。
(こんなにお肉ばかり食べられる日が来るなんて夢にも思わなかった)
普段は主食を多めに、お肉は控え目。それか魚料理を食べることの方が多かった。
バーベキューなんてもってのほかだ。
油を取りすぎると直ぐにお腹に来て、トイレ直行を余儀なくされるし、しばらくはトイレとお友達だ。お腹だってしくしく痛む。
それが、今はまるで無いのだ。興奮しないわけがない。
「肉は逃げねぇから、ゆっくり落ち着いて食えよ〜。まだまだあるし。後、水分補給も忘れずにな」
そう言って昼中くんはカルピスソーダをついだ紙コップを私の目の前に置いてくれた。
まるで母親のようにせっせと世話を焼いてくれる。
「……お母さん。……いや、ここはお兄ちゃん、かなぁ?」
「俺はお前の母親でも無ければ兄貴でもねぇ」
「ふふっ。昼中くんは世話焼きさんなんだね~」
面白くなって、つい笑みがこぼれた。
「いやいや、お前が世話焼かせてんだよ」
ツッコミまで的確だ。
そうしてワイワイバーベキューを楽しんでいると、不意に肩を叩かれた。昼中くんでは無い。
不思議に思ってそちらへ視線を向ければ、三人組の女子が腕組みしたままこちらをジロジロ見てきた。
「……なんですか?」
「あらやだ。私たちの事忘れちゃったの?」
(ゆうひくんの知り合いかな……)
その言い方からして友好的にはどうにも思えない。
「アナタ夜風ゆうひ、でしょ?あの浪人した夜風ゆうひ。一浪で済んで良かったわね」
(なんだこの嫌味な言い方は)
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