・Memory03(まひる視点)
「さて、今日は天ぷらをします!」
「……お前料理出来んの?凄いな」
「天ぷらは初めてやるけど、予習はして来たよ!」
元気よくそう答えれば、がしっと力強く肩を掴まれた。
「え。何それフラグ!?大丈夫なやつ!?」
「ダメだった時は宅配しよう!そうしよう!」
「え。待って。駄目だった時って俺のキッチンどうなってんの!?」
「……爆破現場?」
「やめろよ~!!修理代飛ぶだろーが!」
前後に揺すられてちょっと気分が悪くなってきた。陽一の手首を掴んでぽいっと放り出す。
持って来たエプロンを身に付けて、テキパキと準備を整えていった。
「……手際は良いようだな」
「何それ。実況でもするの?あ、陽一キッチンペーパーってある?」
「あー?……いや、そもそも料理しねぇからねーわ」
キッチンを探す素振りも無く、さらりと答える陽一。予想はしてた。
「あそ。そうだろうと思って家から持って来たんだよね~」
「用意周到!!」
「やだな。もっと褒めてよ!」
「嫌なんじゃないのかよ!」
そんなくだらないやり取りをしつつ、切った食材を溶いた小麦粉にダイブさせ、熱した油の海に放流していく。
「うまそー」
「いや~自分で作る天ぷらはいいねぇ~!好きな食材を好きなだけ揚げられる嬉しさよ。天ぷらパーティー!!」
「楽しそうだな」
ウキウキるんるんと鼻歌まで歌いながら天ぷらを揚げ、キレイにお皿に飾り付けた。
味付けに、天ぷらのつゆ、ソース、塩を準備してある。わくわく待った無し!
「さぁ!食べよう!」
「おう!腹減った~!ぺっこぺこ!いただきます!」
「いただきまーすっ」
思ったより衣がサクサクにならなくてしばし考え込む。
「うまっ!」
「サクサクしてない……。ぐっ……。なんか悔しい」
「うまいけどな?そう怖い顔すんなよ。せっかくの天ぷらパーティーだろ?また再チャすればいいじゃん」
ぽんっ、と大きな陽一の手が私の頭の上へと乗っかった。
「……うん。次こそは……!」
「そうそう。その意気だ!お前はやれば出来る子」
「何それ。子ども扱い……」
不満げに陽一を見上げれば、陽一は笑って再び天ぷらへと視線を戻した。
「うん。うまい!お前さ、顔も綺麗だし、料理も出来るし、女に生まれてくれば良かったのにな」
「……」
「……」
思わず二人して黙り込む。珍しい彼の男尊女卑にマジマジと彼を見た。
「……今の無し」
「……陽一は綺麗な顔立ちで料理出来る子が好きなんだ?」
「今の無しって言っただろ!」
「聞いてた。だが忘れろとは言われてない」
「……忘れてくれ……」
勘弁しろよ、と陽一が頭を抱えている。
「因みに僕が女だったら陽一のタイプなの?」
出来心で面白半分に聞いてみた。
「……そーだな、”女”ならな」
言葉を詰まらせた陽一は、一瞬何かをためらった。そうして結局諦めたようで、どこか呻くようにそう呟いた。
「ふーん?へぇ?」
「なんだよ!ニヤニヤしてんじゃねー!」
「だって面白いもん!いや~男で悪かったね~。申し訳ない、申し訳ない~」
「全然申し訳なさそうに感じないんだが?……俺は早急に彼女を作るべきなんじゃないかと思い始めたぞ。急募!!彼女!!求む!!」
天井に向けて両手を広げ切実そうに叫ぶ陽一がなんだか哀れに思えて来た。
「つーか、別に綺麗な顔の男がいたって、料理が出来る男がいたっていいもんな!」
「そうだね~。世の中にはたくさん居るね~」
「な!そうだよな!」
必死に何かを取り繕おうとしているようなので、私もそれに合わせてとりあえず相槌を打っておく。
「陽一はこの顔が好み、と」
「おい、メモを取るなメモを!つーか、次どこに食べ歩きに行く?」
「そうだね~。うーん、何食べちゃおっかなぁ」
分かりやすく話題を逸らすので、これ以上は深堀りするのはやめてあげることにした。なんだか心が満たされて、ついつい表情筋が緩んでしまう。
私は笑顔で次なる食へと夢を膨らませるのであった。
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