・Memory01(まひる視点)
退院してしばらくして、陽一から遊びに誘われた。
「お嬢さん、お待たせしました」
「誰?何キャラ?キャラ変したの?陽一」
「え!ダメ!?変!?」
「変」
久しぶりに会った陽一は相変わらず面白い人だった。けれど、路上で跪くのはやめてほしい。本気で。人の視線が痛い。
どことなく、以前会った時も浮かれているようにも見えるのは気のせいだろうか。
以前はゆうひくんの体で陽一と会話していたからそこまで身長に差を感じなかったのに、今では頭一個分は確実に違うのが分かる。もしかしたら頭一個分と半分くらいは違うかもしれない。その分なんだか陽一が遠いようにも思う。
「体調は?」
「落ち着いてるよ」
「そうか。良かった良かった!あれからさ、お前……・なぁ、名前で呼んでもいい?」
「え。あ、うん。私も普通に陽一って呼んでるけど、大丈夫?」
「むしろそのままで!」
なんだか大型犬に見えるのは気のせいだろうか。嬉しそうに尻尾を振る姿が容易に想像出来てしまい吹き出してしまった。
「笑うとこどこ!?」
「ふふっ!ごめっ……あはは!」
「……まぁ、楽しそうで何よりですけど」
困った顔して居心地悪そうに笑う彼がどうしようもないくらいに愛おしい。
女の姿を取り戻した今の私なら、以前よりも告白成功率は高いはずだ。ぐっと密かにガッツポーズを決めて意気込む。いつか、とかそのうち、なんて言っていられないのだ。いつ誰が彼の良さに気づいてしまうか分からない。やっと告白できる舞台に立てたのだからここで怖気づいてなんかいられない。
「あのですね……」
「なんで敬語なの?」
「いや、ちょっと……なんて言うか……視線が刺さりまくってて痛いと言いますか。照れると言いますか……」
そわそわと首に手を当てて首をさする陽一の耳が少し赤い。
(これは……!)
もしかして……照れているのだろうか。なんだかむずがゆくなってこちらまでそわそわしてしまう。
「あれから……まひる、ちゃんの……」
「ちゃん、なんだ?」
「まひる、の……病気を調べてさ。それで、食べに行けそうな店チェックしてあるんだけど……。これからも前みたいに遊びに誘ってもいいか?食い倒れツアーはさすがに無理でもさ」
どうよ?と、なぜか目を合わせてくれない陽一は自分の首に手を回してそっぽを向いている。
「え。何それツンデレ……?」
「俺の話は聞こえてましたか?」
「あ、うん。聞こえてた!大丈夫!そっかぁ……調べてくれたんだね。ありがとう」
そう我に返ってしみじみ呟けば、何を思ったのか陽一は顔が真っ青になった。
「……嫌だった?え、あれ?キモかった?俺ストーカー?犯罪?捕まる感じ?」
「え?むしろ嬉しかったけど?せっかくだから捕まえておこうか?」
「……お願いします。待って!コレはセクハラ!?俺掴まる感じ!?」
捕まえてもいいと言われたので、それとなく手を繋いでみれば、びくりと肩を跳ね上げつつも握り返してくれた。
「何、どうしたの陽一。いつも以上に変だよ」
「それいつも変って言ってるよ!?気のせい!?」
どこかテンパっている陽一の新たな一面が垣間見れてなんだかとても新鮮で愉快な気分だ。
「変なの~」
「変にもなるでしょうよ。こちとら彼女居ない歴イコール年齢だからな!」
「それは威張って言う事なのかな?」
「分からん!」
「ぶふふ!やっぱり変!」
「やかましい」
ゆうひくんの体じゃないからか、叩かれなかった。いつもなら、チョップなり、叩くなりしてくるのに。アレはどうやら同性限定らしい。
なんだか女の子扱いされている事がどうにもくすぐったくてしょうがなかった。
「ところで、まひる、ちゃん」
「ちゃん、なんだね?」
「……まひる」
「どってでも良いよ。お好きな方で」
問い返せば言い直して来るところがどうにもおかしくてしょうがない。
「ごほっ……まひる」
「はい」
「お前はその……恋人とか居んの?」
まさかの質問に目が点になりかけた。ここに来てそんな質問をして来るとは誰が予想出来ただろう。
「……あのさ、陽一」
「……はい」
「恋人居たら、今こうして陽一と手を繋いでないと思うんだよね」
「確かに!!盲点!!」
どうにも彼は、女のまひるに対して緊張しているようだった。それは、それは面白いくらいに。繋いだ手は既に陽一の汗でびちょりだ。冬だというのに繋いだ手はおかしなくらい熱かった。
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