・Memory02(まひる視点)
陽一が連れて行ってくれたオシャレなカフェでご飯を堪能した後、水族館に行った辺りで不意に思った。
(あれ?もしやコレってデートだったりするのかな……)
なんとなく、ゆうひくんとして過ごしていた友人としての延長線上のお誘いだと思っていたけれど、どうにも選ばれた場所のチョイスがデートチックに感じる。気づいてしまうと自分もテンパってしまいそうなので心を無にする事にした。
(これはむしろ告白する絶好の機会なんじゃ!?)
ナイス陽一!と心の中で褒め称えてみた。
そうして、水族館を満喫した帰り、陽一に連れられて高台へとやって来た。冬なのもあって潮風が冷たい。だけど、海がオレンジ色に染まっていてキラキラと輝きとても綺麗だ。
「オレンジジュースみたい」
「おい。感想それかよ!」
「あははっ!」
なんだかくすぐったくて、つい雰囲気を自らぶち壊してしまった。
(反省はしている……!)
「そういえば陽一さ」
「ん?」
「私がゆうひくんだった時は割と頻繁にバシバシ叩いて来てたのに、まひるに戻ってからは一度も無いね」
「……ばーか。女の子に手をあげるわけないだろ」
(やっぱり男だったからあんなに容赦なく叩いて来てたのか!)
予想通りでガッツポーズをしそうになった。
ちゃんと女の子扱いされている事がどうにも嬉しい。
「じゃあ、髪の毛わしゃわしゃするのは?」
「あれは、どうだろ。たまにはするかも?髪結んでない時とか」
「……そう」
「あれ!?嫌な感じ!?駄目だった!?」
焦った様子で顔を覗き込んで来る陽一の頭を、手を繋いでいない方の手でわしゃわしゃと乱す。
「わっ!おい!ちょっ!?」
「ふっふっふー!隙あり」
「ほう?やってくれたな……!」
ニタリと笑うと仕返しだと言わんばかりに頭を撫で返された。お互いボサボサだ。散々お互いに攻防を繰り広げて笑い合った後、我に返る。
「思うんだけどさ……」
「……ああ」
「これ、冬にやるべきでは無いね」
「そうだな」
「反省した」
「俺も学んだ」
直そうにも静電気が酷くて言う事をきかない。二人して途方に暮れていると、空気を読まずにくしゃみが出た。
「寒くないか?」
そう気にかけてくれる陽一の声が優しくて、表情が心配そうなのがまたたまらなく愛おしくて、もうこの気持ちに蓋をしなくていい事が何より嬉しくてたまらなかった。
「お腹と背中にホッカイロ装備してる」
「用意周到じゃん!さすが!」
ブイサインを決めて笑顔で答えれば、いつもの大好きな陽一の笑顔に様変わりする。二人で笑い合って、少しだけ沈黙が訪れた。
波が行き来する音と、カモメの鳴き声が遠くで聞こえる。
「なぁ……」
「ねぇ……」
言葉が重なって、二人して同時に手を差し出した。
「どうぞ」
「そっちこそどうぞ」
「いやいや、まひるから先に」
「ううん、後がいい」
「じゃあ、じゃんけんにする?」
お互い引かない雰囲気を察してか、陽一が提案するけれど、その流れで告白と言うのもなんか一種の罰ゲームみたいに思えてきて、どうにも場違いに思う。
おそらくこの複雑な気持ちは隠しきれず顔面に思いっきり出ているに違いない。
「……じゃんけんはちょっと」
「……確かに。じゃんけんで勝ったから言うとか、負けたから言うっていう流れはなんかイマイチだな……」
「私もそんな感じ。……で、陽一からの話はなに?」
私の問いかけに、陽一が一瞬渋い顔をする。何かを悩んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「あれを取り消したい。前言った、その……”俺に惚れんなよ”って言ったヤツ。取り消し。無し」
「ぶふっ!あはは!あったねぇ、そんな事。懐かしい~」
思い出したらおかしくなってつい吹き出してしまった。
あの時、友情を誓い合って繋いだ手が、今もこうしてあの時とは少し違った形で繋がっている。
(不思議だ……)
「あれは男のお前に言ったわけであって、女の子のまひるは別と言うか……。なんと言うか……」
「あはは!陽一は女の子が好きって言ってたもんね~」
「そう、だよ。いや!だからと言って、まひるが女の子だから好きってわけじゃなくって……」
「え?なに?」
海風の音に邪魔されたからか、陽一の声がごにょごにょと小さく尻すぼみになったからか、良く聞き取れなかった。
「だーかーら~、その、あれは自分自身に言い聞かせてた部分もあんの!!」
顔を真っ赤にさせて、けれど手を放そうとはしない。むしろ力が込められているような気がする。
「お前と居ると妙に居心地良いし、話のテンポも楽しいしさ、なんか世間知らずなとことか、可愛く見える瞬間があって……、もしかしたら俺男が好きなのか!?と思った事まであんだよ!お前のせいだからな!!」
陽一は吹っ切れたのか、だんだんと声のボリュームが上がって、最後には叫ぶように言葉を発した。
(それは知らなかった!!だからあんなに念押ししてたの!?自分に言い聞かせるために!?)
想像もしていなかった真実に、間抜けにも思わずぽかんと口を開けたままマジマジと陽一を見上げる。
その真っ赤な顔を繋いでいない方の手の甲で隠すようにしている姿に動悸がした。
「だから、お前が男とか女とか関係ねーの。俺さ、お前が好きだ。朝比奈まひるって生き物が好きみてー」
「……なに、それ」
「だって、今のゆうひにはこんな感情湧かねぇもん」
(もんって……かわいいかよ!!だいたい!!こんな少女漫画的展開が好きて知ってか知らずか……ズルい!!沼だ!!)
「なぁ、結婚前提で付き合ってくんない?」
「はい?」
「今のはイエスか!?」
「ううん、疑問形」
まさかの誤解に慌てて勢いよく顔を横に振る。
頭が真っ白だ。彼が何を言っているのかよく分からない。
「だーかーら~結婚前提で付き合って」
「……なんで結婚?」
「遊びじゃない証明」
「なるほど。分からん」
「何、遊びがいいわけ?」
首を左右に振る私に、陽一は理解し難いと言いたげに眉間にシワを寄せた。
「それは嫌だけれども……。え?待って」
「待たねーよ」
「ちょっとハウス!!陽一!!」
「家に帰れと!?」
「いや、しばし待たれよ。考える時間がほしい、かな」
「嫌だ」
「イヤじゃないの!聞いて!びっくりし過ぎて一たす一が二なのか分からなくなってきた!」
「安心しろ。一足す一は二だ。で?なんで足し算なんかしてんの?落ち着け?」
頭を押さえて試行する私を心配したのか、陽一が背中をさすってくれた。その手が大きくて暖かくてなんとも心地良い。
元より今日は告白をする予定だったのだ。
(そうだよね……。告白をするってことは、付き合うってことで、付き合うってことは別れなければ最終的に結婚するってことで……)
自分のあまりの考え無しっぷりに恥ずかしくなっていたたまれなくなって来た。
(陽一の方がしっかり考えてたよ!!)
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