迫る死②



無理と答えた茶髪男はスマホをいじり始める。


金髪男:「誰?」


金髪男がスクロールするスマホの画面を覗き込む。


茶髪男:「あいつだよ。よえーくせに弓道部の部長やってた奴」


茶髪男はスマホを、ピアスだらけの耳に当てる。


茶髪男:「今からそいつ呼ぶ」


電話の相手はすぐには出なかった。


茶髪男:「出ねぇ……」


一度電話を切り、掛け直す。


茶髪男:「あ、おいテメぇ。何ですぐ出ねぇんだよ!?」


どうやら電話の相手が出たようだ。


茶髪男:「今から神社近くのパーキングまで来い。すぐにだ。早くしろ」


茶髪男は用件だけ言うと、すぐに電話を切った。


茶髪男:「飛んで来るぜ」


茶髪男の言う通り、5分もしないで、黒縁眼鏡の細身の青年が走って来た。


その青年は3人の男に怯えながらパーキングエリアに入って来て、すぐに私を見つけた。


高世奈々美:「んんんッ!! んーッ! んーッ!!」


必死に助けを求めた。


お願い、私を助けて!


警察に連絡してッ!!


青年:「ひッ」


助けを求める私を見つめ、青年の顔は真っ青になっていく。


そして逃げ出した。


金髪男:「あッコラ! 待ちやがれッ」


金髪男がすぐに青年の腕を掴んだ。


青年:「放してッ」


金髪男:「放すわけねぇだろ。何逃げてんだよ、オラァ」


金髪男は青年の顔を一発殴った。


青年の顔から飛んだ眼鏡を茶髪男が踏みつける。


茶髪男:「お前はやることがあんだよ」


倒れた青年の髪を掴んで無理矢理立たせると、そのまま私の目の前に怯える青年を連れて来た。


高世奈々美:「んんッんんんッ!」


口の端から血を流すこの青年に助けは望めそうにないが、藁にもすがる思いだった。


銀髪男:「お前が今から、この女を殺すんだ」


青年は目を見開いたまま固まる。


金髪男は青年の髪を引っ張りながら、少し離れた所に立たせ、レンズの割れた眼鏡を青年にかけた。


銀髪男が弓と矢を真っ青な顔をした青年に押し付ける。


銀髪男:「これで殺れ。お前得意だろ」


青年は首を振り、弓矢を受け取らなかった。


茶髪男:「お前が殺らないと……がどーなっちゃうかな〜」


茶髪男のあの子という言葉に青年はビクッと反応する。


青年:「やめてくれッ! 妹には手を出さないでくれッ」


金髪男:「お前が殺らないと可愛い妹がえっちな事されちゃうかもよ〜?」


金髪男がニヤニヤして青年を挑発する。


青年:「妹は関係ないだろ!? お願いだ、妹には何もしないでくれ!」


青年は必死だった。


銀髪男:「……じゃぁ、分かってるよな?」


青年は銀髪男の言葉に小さく頷き、弓矢を自ら受け取った。


青年は涙を流しながら、震える体で私に弓矢を向ける。


高世奈々美:「んんんッ!! んんッ……んん……」


お願い、やめてっ!


矢を引っ張る右手を放したら私は死んでしまう。


お願い、放さないで。


青年はレンズの割れた眼鏡越しに私を見つめる。


青年:「ごめんなさい……ごめんなさい……」


震える唇で小さく呟き続ける青年。


定まらない矛先が私を見つめる。


高世奈々美:「んんんッ!! ……んんッ……んんんッ!!」


青年:「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……」


青年が矢を最大限に引いた。


一瞬、青年の震えが止まり、定まった矛先。


そして放たれた矢。


青年は右手を放したのだ。


高世奈々美:「んんんーッ!!!」


矢は吸い寄せられる様に、真っ直ぐ私に向かって飛んできた。


青年:「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」


最期に聞いたのは青年の涙声と矢が額に突き刺さる音だった。

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