変わる二人②


四方木 梓:「お疲れ様です」


白城と僕は口々に言うと、窓際に置かれた桑月の死体の前に立つ。


鑑識が写真を撮る度にチカチカと光る死体を見つめる。


白城 智:「はぁ……関節が逆に折られてる……同じだ。悔しいけど執行人にまた先を越された」


白城は血の海に浸る死体から目を離さない。


僕はそんな白城の背中から目を離し、部屋を見回した。


適当な仕事をする男を探す。


四方木 梓:「あ、居た。……おい、亀井」


亀井は部屋の隅で鑑識と話をしていた。


亀井 威:「あ、四方木」


僕の存在に気付き、此方に駆け寄ってくる。


四方木 梓:「ちょっと来い」


僕は亀井の手首を掴んで、部屋の外に出た。


亀井 威:「……なんだよ?」


四方木 梓:「お前、いつ見回りに来た?」


僕は亀井を鋭く睨む。


亀井 威:「えっ? あぁ……電話するちょい前……そんな怖い顔すんなよぉ。俺だって他の仕事とかあったし。まぁ……寝ちゃったのは俺の責任だけど……」


助けを求める様な目で、僕に良い訳をする亀井。


四方木 梓:「はぁ……寝てた事は黙っててやる。次は寝るなよ」


『異常なし』と連絡しているので、死亡時刻に関して何か言われた場合、僕も嘘を吐かなくてはならない。


犯行時刻を調べる際に見回り時刻を報告しなくてはいけないので、僕と亀井の時間の差を指摘された時は、亀井の肩を持ってやろう。


助けなくてもいいのだろうが、どうも亀井の子供みたいな性格には甘くなってしまう。


亀井 威:「四方木様! 梓様! ありがうございます!! これで部長に怒鳴られなくて済む! 今度肉奢るわ!!」


何度亀井に食事を奢ってもらったことか。


その数だけ僕が亀井を助けてしまっている。


そろそろ甘やかすのは止めないとな。


Brrrrrrrrrrrrrr……


部屋に戻ろうとすると、コートの内ポケットに入れたスマホのバイヴが震えた。


目で先に戻るように亀井に合図をして、スマホを取り出す。


大きな液晶には“大腹警部”と映し出されていた。


四方木 梓:「はい、四方木です」


大腹警部:「女性の遺体が見つかった。火茂瀬は先に向かわせてるから、その現場は白城に任せて、四方木くんも新たな現場に向かってくれ 」


四方木 梓:「分かりました。ですが、桑月殺害は執行人チームに引き継がせるので白城さんを送ってから向かいます」


大腹警部:「その必要はない」


大腹警部は得意気に答えた。


大腹警部:「白城は執行人チームに移ったんだ。何も心配しないで四方木は現場に向かってくれ」


四方木 梓:「そうですか。……失礼します」


電話を切り、スマホを内ポケットに戻す。


僕は……いつか白城に捕まるのか。


部屋に戻り、白城に声をかける。


四方木 梓:「新たに女性の死体が発見されました。僕はそっちに向かうので、あとは執行人チームの……白城さんに任せます」


白城 智:「あ~警部から聞いちゃった?……じゃぁ、梓は新人君と頑張ってね」


執行人を望んでいる白城は苦しそうな笑顔を見せたあと、仕事モードの顔になった。


僕もいつまでも白城に依存してはいられない。


火茂瀬と頑張ろうと思う。


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