背伸び
四方木 梓:「お疲れ様です」
僕と火茂瀬は、朝から直腸を引きずり出された練乳まみれの死体を見る為に路地裏に来ていた。
火茂瀬 真斗:「あ、初めまして。火茂瀬真斗です」
火茂瀬は先に来ていた白城に軽く頭を下げた。
白城 智:「君が新人君か。俺は白城智で、梓とはパートナーだったんだ」
僕の大好きな優しい笑顔を火茂瀬に向ける。
白城 智:「梓、久々だね。彼とはどう?」
白城は軽く首を傾げる。
お互い警視庁内で顔は合わせても、会話をするのは久しぶりだった。
四方木 梓:「まぁまぁって感じですかね」
苦笑いをして見せると、隣に居る火茂瀬が僕に噛み付いて来た。
火茂瀬 真斗:「ひどくないですか!? 梓さん。俺ん家でお泊まりした仲なのに!!」
四方木 梓:「あれは、したくてしたわけじゃない!」
白城 智:「ハハハ。2人が凄く仲が良い事は解ったよ」
白城は僕たちを父親の様な眼差しで見つめた。
四方木 梓:「ちょっとやめて下さいよ」
火茂瀬 真斗:「やめて下さいってどーゆーことッスか!?」
四方木 梓:「火茂瀬は黙ってろ!」
白城 智:「あーはいはい。そこまで。本題に入るよー?」
眉をハの字にして笑う白城は手帳を開いた。
四方木 梓:「あ、すいません」
僕と火茂瀬は手帳を取り出す。
白城 智:「一応手元にある資料とは、ほぼ同じなんだけど……」
白城は3日前に僕らが殺した青白い死体に歩み寄る。
真冬のせいで死体の腐敗の進行速度が低下し、周囲に異臭は漂っていなかった。
口の周りを血だらけにした猫が路地裏から出てきたと、通行人からの通報で発見に至ったのだ。
その野良猫に食われたのか、無傷だった腕や切り裂いた下腹部の肉が抉られていた。
白城 智:「これが執行人なら初めての事だね。……練乳って。どう思う?」
ビクッとした火茂瀬が視界の隅に映った。
火茂瀬 真斗:「執行人が男だったら自分のザー……精子を証拠として残す訳にもいきませんからね。似せる為に練乳を使ったんじゃないッスかね?」
白城 智:「今まで執行人に繋がる情報もDNAも出てきてないからな」
白城は火茂瀬の言葉に軽く頷いた。
四方木 梓:「女性の可能性もありますね。当然精子は出ない訳ですから。誰かのを大量に集めるという手がありますが、簡単ではないでしょう」
白城 智:「娼婦なら結構簡単だろうけど、それをしてないって事は娼婦ではないのかな。女性が複数居たとしても男を運ぶのは大変だし、女性の可能性は少ないかな……」
四方木 梓:「ここは駅から離れていて夜中には人通りはありません。男に睡眠薬など盛っていれば女性でも可能でしょう」
執行人は女でも出来る可能性がある事を植え付けておけば、少しくらい時間稼ぎは出来るはずだ。
でも僕は好きで執行人をしているわけじゃない。
しかたがなかったのだ。
でも僕は白城に捕まりたくなかった。
軽蔑され、拒絶されるのが怖かったのだ。
信頼し合っていただけに、白城の失望する顔を見たくなかった。
白城 智:「練乳だけじゃ性別の特定は無理だな。今回も犯す以外は執行人と同じだから、一応俺らのチームが引き継ぐ事になってるから」
パタンと白城は手帳を閉じた。
白城 智:「……都市伝説だと思ってたけど、これ見るとAVの精子は練乳ってのも、あながち間違いじゃないんだろうな」
白城は死体を眺めながら独り言を呟く。
火茂瀬 真斗:「ね? 俺の言った通りじゃないッスか」
僕の耳元で得意気に囁いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます