鋭い針



白城 智:「梓たちの方だと、どれくらい捜査進んでたの?」


白城はパトカーに寄り掛かりながら、一服の缶コーヒーを開ける。


いつものミルクたっぷりなカフェオレを飲む白城の隣で、僕はブラックの缶コーヒーを飲んでいた。


四方木 梓:「犯人の候補は前嶋輝を含め何人か居たんですよ。執行人はどうやって犯人を特定しているんでしょうか……」


温かい缶を握り締める。


白城 智:「最初の頃はさぁ、事件が起きてから執行人が動くまで少し時間が空いてたのに、最近の行動は速いんだよね」


それは火茂瀬が霊の力を借りているからだ。


僕は警察側が犯人を特定しかけている時にいつも殺していた。


同じ状態で死んでいる男を見て直ぐに犯人と解る様にだ。


四方木 梓:「確かにそうですね。1週間程度だったのが、最近は4日以内に執行人が動いてますね」


僕の言葉に、火茂瀬は軽く頷きながら微糖の缶コーヒーを傾ける。


白城 智:「俺はね、2人目の執行人が現れたのかなって思うんだよね」


その言葉に内心ビクッとした僕と火茂瀬。


白城 智:「その執行人2人が手を組んでる可能性もあると思う……何の根拠も無い俺の想像なんだけどね」


アハハハと笑う白城の横顔に恐怖を覚えた。


さすが僕の尊敬する先輩だと1人で納得していると、コートの内ポケットに入れてあるスマホが震えた。


四方木 梓:「はい、四方木です」


寄り掛かっていたパトカーから少し離れ、電話に出る。


亀井 威:「あ、もしもし、亀井です」


四方木 梓:「どうした?」


亀井 威:「執行人が動く条件と一致する女性の遺体が発見されました」


四方木 梓:「解った。住所を教えてくれ。すぐ行く」


手帳にメモをして、電話を切る。


四方木 梓:「火茂瀬、女性の遺体が見つかった。今から向かうぞ」


白城と話をしていた火茂瀬に声を掛ける。


火茂瀬 真斗:「了解です。じゃぁ失礼します」


火茂瀬が白城に頭を下げたので、僕も軽く頭を下げて、背中を向けた。


僕が運転する車で、現場に急ぐ。


すると助手席に座る火茂瀬が遠慮がちに、こう聞いて来た。


火茂瀬 真斗:「あの……梓さんは、どうして、執行人を……?」


火茂瀬が前に聞きそびれていた事だ。


四方木 梓:「楽しい話じゃないぞ?」


僕はアクセルを踏み込む足の力を緩めながら、横目で火茂瀬を見る。


火茂瀬 真斗:「そんなの……解ってますよ」


苦笑いを浮かべる火茂瀬の顔が視界の端に映る。


四方木 梓:「ハハ……そうだよな。楽しい過去なら執行人になる必要はない、な」


信号が赤になったので、車を止める。


四方木 梓:「俺も……彼女がキッカケ、なんだ」


やり直したいと何度も願った苦しい過去を、ゆっくりと思い出す。


四方木 梓:「結婚する、予定だった彼女が――」


一言一言、発する口が重い。


だけど、僕は誰にも話した事のない過去を火茂瀬に話す事にした。



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