過去に囚われて①
4年前、
萌はロシアのハーフで、新人モデルとして売れていたから、外食は避けなければならなかった。
テーブルに2人で作った料理と、萌の好きな赤と白の甘口ワインを一本ずつ並べる。
初乃咲 萌:「やっぱり梓の盛り付け綺麗ね」
色々なアングルでテーブルの上に並んだ料理をスマホで撮影しながら、目を輝かせる。
2人で作ったと言っても、僕は料理が下手なのでレタスを千切ってサラダを作ったくらいで、他は全部萌の料理だった。
四方木 梓:「撮ってないで、もう食べようよ」
椅子を引いて先に座る。
初乃咲 萌:「じゃぁ最後にもう一枚ね」
萌はハーフアップにした 明るい茶色の長い髪を揺らしながら、僕の横に来ると顔を寄せてシャッターを押した。
プリクラの代わりによく撮るので、萌のスマホのフォルダには2人の写真がいっぱいだった。
初乃咲 萌:「加工したら、あとで送るね」
僕のケータイのフォルダも2人の写真でいっぱいだった。
四方木 梓:「じゃぁ、乾杯しようか」
赤ワインが注がれたグラスを手にする。
初乃咲 萌:「私と梓の3年目の記念日に」
乾杯と言葉を重ね、グラスを鳴らす。
萌の料理はどれも美味しかった。
ワインによく合う。
派手な服や露出の多い服を好み、地毛は色素の薄い茶色で化粧は薄いが、見た目からは家庭的だと想像が付かない。
僕は、そんなギャップも萌の好きな所である。
優しくて、品があり、頭もいい。
細くて、美人で、料理が上手い。
笑顔がキラキラしていて、 僕の理想の女性だ。
赤ワインのボトルが空になったので、別の種類の白ワインを開けた。
初乃咲 萌:「甘くて美味しい〜」
萌に続いて僕もグラスに口を付ける。
四方木 梓:「ジュースみたいだね。甘過ぎるけど美味い」
ゴクゴク喉を鳴らして飲めるほど、アルコール感の無いワイン。
女性に人気があるのは分かる気がする。
僕はグラスに注がれた白ワインを飲み干し、席を立った。
初乃咲 萌:「どこ行くの?」
ほんのり頬をピンクに染めた萌が僕を見上げる。
四方木 梓:「トイレだよ」
そう言ったが、僕はトイレではなく寝室へ向かい、小さな箱を持って戻った。
初乃咲 萌:「どうぞぉ~」
萌は僕のグラスに白ワインを注ぎながら、戻って来た僕をチラッと見た。
僕はさり気なく背中で小さな箱を隠しながら席に座る。
四方木 梓:「あ、ありがと」
ぎこちない笑顔で礼を言い、痛いくらいに高鳴る心臓を落ち着かせる。
四方木 梓:「あの、さ……」
僕を見つめる萌の瞳を見れず、膝の上に乗せた小さな箱の淵を指先でなぞる。
何度も頭の中で繰り返した言葉を、思い切って口にした。
四方木 梓:「萌、僕と……結婚してくれないか?」
ようやく落ち着いた心臓が再び高鳴ったが、しっかりと萌の瞳を見つめて伝えられた。
見えない様に隠していた小さな箱を、萌の目の前に差し出す。
初乃咲 萌:「開けても、いい?」
萌は小さな箱を手にして、首を傾げる。
四方木 梓:「うん。開けてみて」
萌はゆっくりと蓋を開けた。
中身は勿論、指輪だ。
シンプルなデザインのシルバーリング。
本当は大きなダイヤが付いた指輪を婚約指輪としてプレゼントしたかったのが、そういうデザインが苦手だと知っていたので結婚指輪を贈ることにしたのだ。
萌は裏側に彫ってある2人の名前を指先で撫でる。
初乃咲 萌:「梓、ありがと。すっごく嬉しいよ」
萌の笑顔を見て、安堵の溜め息を漏らす。
初乃咲 萌:「はめてくれる?」
萌が左手を差し出す。
四方木 梓:「うん 」
萌から受け取った指輪を、彼女の細い薬指にそっとはめた。
萌はシルバーリングが輝く薬指を、うっとりと見つめる。
初乃咲 萌:「ほんと、ありがと。立派な奥さんに成れるように頑張るね!」
萌が席を立って、僕に抱き付いてきた。
僕も萌の背中に腕を回す。
照れて微笑み合ったあと、ゆっくりと唇を重ね合わせた。
触れ合うだけのキスを繰り返し、唇に吸い付いて舌で深く絡み合う。
初乃咲 萌:「ねぇ……ベッド、行こ?」
うっとりとした瞳で僕を見つめ、珍しく萌から誘って来た。
四方木 梓:「でも、もうすぐ時間だよ?」
明日は朝からお互い仕事だったので、そろそろ萌を帰さなくてはならなかった。
初乃咲 萌:「一時間あるし……」
唇を舐められ、煽られる。
四方木 梓:「寝坊しても知らないからね?」
初乃咲 萌:「大丈夫。マネージャーが起こしてくれるもん」
ゆっくりと舌を絡ませ、僕は席を立ち、キスを繰り返しながら萌を横抱きにしてベッドに向かった。
初乃咲 萌:「電気……消して」
萌の可愛いお願いを聞き入れ、寝室の電気を消してベッドに戻る。
僕たちはキスを繰り返し、愛撫し合いながら時間までお互いを堪能した。
四方木 梓:「泊まってけば?」
白いレースが可愛いブラジャーのホックを付けている萌を見て、今日は帰したくないと思ってしまった。
初乃咲 萌:「だめよ。ここから仕事に行ってパパラッチに撮られたら事務所に怒られちゃうもん」
シャツの袖に腕を通して素早く着替え終えると、萌は帰り支度を始めた。
四方木 梓:「結婚出来なかったら困るしな。仕方ない、家まで送って行くよ」
萌の言っている事は正しいので、僕は強引に引きとめなかった。
初乃咲 萌:「うん、お願い。ありがと」
僕も家を出る準備を始める。
コートを着てマフラーを巻き、更に萌は帽子とサングラスを着用した。
四方木 梓:「忘れ物ない?」
車の鍵を手に取り、踵の高いパンプスを履いている萌の背中に声を掛ける。
初乃咲 萌:「大丈夫だよー」
四方木 梓:「ん。じゃぁ行くよ」
夜中なのでマンションに人通りは無いが、廊下を確認してから別々で家を出た。
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