過去に囚われて②
車で20分の所に萌の住むマンションはあるのだが、道路が空いていたので15分で着いた。
初乃咲 萌:「今日はありがと。マネージャーと事務所に結婚の事は伝えておくね」
車を停めると後部座席に座る萌が、運転席に座る僕の背中に寄って来た。
四方木 梓:「あぁ。じゃぁまたね」
僕は萌を送り届け、真っ直ぐ自宅に帰った。
リビングの明かりを点けると、扉が開きっぱなしの寝室で何かが光を反射した。
寝室へ入り確認すると、ベッドの上に萌のリップクリームが転がっていた。
確か、萌が出演している化粧品会社のCMと同じ物で、このリップクリームを萌はすごく気に入っていた。
風呂に入っているかもしれないので、リップクリームを忘れている事をメールで知らせた。
僕が風呂から上がっても返信がないので、やはり風呂に入っているのだろう。
四方木 梓:「ふぁ~……」
急ぐ用事でもないので、僕は寝る事にした。
充電器を挿したケータイを枕元に置き、僕は目を瞑った。
目が覚めたのはアラームが鳴る10分前だった。
枕元に置いておいたケータイが着信を知らせる為に鳴ったのだ。
四方木 梓:「もしもし」
???:「早朝に悪いわね」
電話の相手は萌のマネージャー、
柏木とは前から萌を通して交流があり、年上なので僕たちを可愛がってくれていた。
四方木 梓:「いえ、僕も朝から仕事なんで起きてましたよ」
柏木 幸子:「そう、ならいいんだけど。あの、そっちに萌居る?」
声の低さで困っているのだと理解できる。
四方木 梓:「居ませんよ。夜中に家まで送り届けたので。どうかしたんですか?」
嫌な予感しかしない。
柏木 幸子:「萌が居なくなったのよ」
四方木 梓:「えっ!?」
柏木 幸子:「仕事だから迎えに行ったんだけど、チャイム鳴らしても出てこないし、電話しても出ないから、合い鍵で家に入ったんだけど居なくて。だから貴方の所に居るのかと思ったのよ」
四方木 梓:「警察には僕から連絡しておきます。柏木さんはテレビ局に連絡を入れて下さい」
ケータイを片手に急いでスーツを用意する。
選んでいる時間は無い。
適当に目についた物をクローゼットから乱暴に取り出す。
柏木 幸子:「ありがとう。何か分かったら、すぐ連絡してちょうだい」
四方木 梓:「了解です。では、また後で」
電話を切り萌に電話を掛けたのだが、やはり出ないので、急いでスーツに着替え白城のケータイに電話を掛けた。
白城 智:「はい、白城です」
電話に出た白城は、寝起きだったのか声が掠れていた。
四方木 梓:「おはようございます、四方木です」
白城 智:「お、梓か。どした?」
白城は僕の名前が表示されたディスプレイを見ないで電話に出たようだ。
四方木 梓:「萌が行方不明になりました。僕はこれから調査に行ってきます」
僕とモデルの萌が付き合っている事を知っているのは、仕事仲間では白城だけだった。
白城 智:「おい、ちょっと待て! 勝手な行動は困る」
確かに、朝から白城と別の事件の捜査をするのに、僕の発言は自己中心的だった。
だけどプロポーズした相手が突然行方不明になってしまったんだ。
早く萌を探し出さないと……。
不安で押し潰されそうだ。
四方木 梓:「……すみません」
血が出るほど下唇を噛む。
白城 智:「とりあえず今、梓が知っている事を教えろ。そしたら俺が動ける様にしてやる」
頼もしい言葉に涙が出そうになった。
僕は白城に今の状況を話した。
白城 智:「了解だ。こっちは任せろ」
四方木 梓:「ありがとうございます。では」
電話を切り、僕は家を飛び出した。
家まで送り届けたのだから、何らかの事件に巻き込まれたとしたら、萌のマンション周辺の可能性が高いだろう。
僕はまず、萌の家の中から調べる事にした。
合い鍵を使い、玄関を開ける。
家の中を見回ったが荒らされた様子は無い。
家を出る前に玄関をチェックしていると、昨日履いていた薄ピンクのパンプスが見当たらない。
やはり無事に送り届けた後、家を出ている。
昨日のコートと鞄も無い。
萌の家を出て鍵を閉める。
夜中に萌が行きそうな場所……。
四方木 梓:「そうだ……リップ」
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